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ブックレビュー


ワインとビールの考古学 小泉龍人 著
ワインは約8千年前から、現・ジョージア周辺の南コーカサス地方で造られていたという。出土した土器にワインのカスが付着していたのだ。もともと野ブドウを保管する習慣があり、気候も栽培に適していることから、すでに名産地となっていたとされる。 一方、ビールはメソポタミアで生まれた。パンとビールのどちらが先かは分かっていないが、醸造法を伝える賛歌が見つかっている。 両地周辺の都市遺跡や飾り板・印章からは、ビールとワインが支配者に献上され、交易品として外交にも使われた形跡があり、少しずつ普及していったことが分かる。 古代には、貯蔵、飲用、注酒用といった用途ごとにさまざまな土器が作られた。その意匠から、支配体制の移り変わりや市民の暮らしぶりが読み取れる。 今でも、お世話になった人に贈るため、気の置けない人と酌み交わすため、楽しく晩酌するため、ワインとビールが流通している。古代の人々はどのように酒を楽しんでいたのだろうか。帰り道は書店と酒屋へ。 (同成社刊、2310円)


何がダサいを決めるのか 平芳裕子 著
ファッションの世界はおしゃれ至上主義である。しかし、世間一般の価値観は少し違っているようだ。本書では東京大学でファッションに関する講義を行った著者が、現代のファッション心理を歴史や社会背景を振り返りながら解き明かしていく。 ネット上では年相応でその人に似合っていないファッションをする大人が「パーカーおじさん」「カジュアルおばさん」といった名前で呼ばれ批判されてしまう。就職活動やビジネスの場では当然のようにスーツやヒールの高い靴が求められる。 その場にふさわしく、マナーを守り、年相応でなくてはならない。そこから逸脱したファッションは「ダサい」と呼ばれ、悪のように扱われる。そんなどこか窮屈で、不自由な空気がファッションの世界には蔓延(まんえん)しているのだ。 「なぜ他人の服装が気になってしまうのか」「パーカーが支持されるのはなぜか」「ビジネスではなぜスーツを着るのか」「ふさわしさとはどのように決まるのか」――。 ファッションの評価基準はどのように生まれ、何がダサいを決めているのか。 身近な服装をとりまく習慣や歴史を知ることで、私たちが囚(とら)われて


東大現代中国学 習近平時代の中国を問う 丸川知雄・伊藤亜聖 編
現代中国を多角的に理解するための講義形式の論集である。東京大学の政治・経済・社会・歴史分野の研究者が結集し、中国の現在像を体系的に描き出す。 長期化する習近平政権の統治構造やその安定性を軸に、不動産不況による経済減速、米中対立の長期化といった内外の課題を整理し、中国を総合的に解釈する。 内容は、(1)政治・国際関係(2)香港・台湾・民族問題(3)経済(4)社会(5)研究方法――の5部構成で、外交戦略から農村社会、華人ネットワークまで幅広く分析。 特に台湾や香港をめぐる問題や民族と歴史認識の関係など、安全保障とアイデンティティーの交錯領域に丁寧に踏み込む。また、産業政策や都市・不動産問題などの経済分析に加え、データ活用や歴史学的視点など研究方法論も提示し、「どう中国を捉えるか」という視座を示す。 講義形式の平易さと学術的厚みを兼ね備え、初学者から実務家まで現代中国の全体像を把握するための一冊だ。 (東京大学出版会刊、3300円)


軍用ドローンの展開 ダリル・ジェンキンス、デビッド・クライン 著、小林恵介 訳
現代の戦い方を大きく変えた軍用ドローン。その運用を支える中核技術として、機体を空へ送り出し、安全に回収するための「発射・回収システム」と、対象に接触することなく情報を取得・分析する「リモートセンシング技術」を本書は分かりやすく解説する。 これらの技術を理解することで、ドローンの作戦能力を支える発射・回収機構の重要性と、意思決定に不可欠な情報収集の仕組みを体系的に学ぶことができる。 近年、軍事作戦における無人航空機(UAV)の重要性が高まっており、発射・回収技術やセンサー運用は、その能力を最大限に引き出すための要となっている。 著者の二人は航空・安全保障分野で長年にわたり研究と実務に携わってきた専門家で、複雑な技術的概念を専門外の読者にも明快に説明している。UAVの基礎から応用まで、段階的に学べる構成となっている。 軍事技術に関心のある読者はもちろん、UAVの最新動向を学びたい学生や研究者、関連業務に携わる実務者にとっても確かな知識を得られる一冊。「軍用ドローンの教科書」シリーズの第4弾。 (芙蓉書房出版刊、2750円)


海軍の選択 再考 真珠湾への道 相澤淳 著
日本史研究に貢献する同社の定期刊行シリーズ「読みなおす日本史」の最新作。 言わずもがな、太平洋戦争は旧日本海軍によるハワイ真珠湾への攻撃で幕を開けた。この作戦を指揮したのが、連合艦隊司令長官だった山本五十六だ。 戦果として見れば、この作戦で大きな結果を残したものの、欧米諸国の造詣が深い山本は、圧倒的に物量差のある英米との戦いには終始反対の姿勢だったという。その不安は的中し、戦争が進むにつれ日本は敗戦を重ねていくことになる。 ここまでは、多くの人が知るところ。しかし当時の日本海軍には、山本と同じく英米との協調を望む者が少なからずいた。しかも一方で山本自身、まるで戦いを望むかのような言葉を残している。本書では、従来の通説に疑問を呈し、独自の研究によって戦間期の日本海軍を書き直した。 著者は上智大学や防大で教授を歴任した博士。少年期に戦争をテーマにした映画を夢中になって観ていた中で、ふと山本の描かれ方に違和感を覚え、当時の日本海軍に興味を持ったという。そうした少年時代の「なぜ」が原点となって、海軍の真実を浮き彫りにする。 (吉川弘文館刊、2420円)


生還特攻 4人はなぜ逃げなかったのか 戸津井康之 著
本書は死を覚悟して飛び立ったものの、結果的に「生きて帰ってきた」元特攻隊員たちに光を当てた。 出撃命令を受け、家族を残し、死地へと向かった若者たち。しかし、機体のエンジントラブルや悪天候などの不可抗力によって、基地への帰還を余儀なくされた者も少なくなかった。 本作が突きつけるのは、生還した彼らを待ち受けていた過酷な現実だ。「なぜ死んでこなかったのか」「卑怯(ひきょう)者」といった周囲の心ない視線や軍上層部の冷遇などが克明に描かれている。 本書の最大の読みどころは、戦後何十年も沈黙を守り続けてきた元隊員たちが、重い口を開いて語る「生き残った者の罪悪感」である。「戦友は先に死にゆくのに、自分だけが生き延びてしまった」という十字架を生涯背負った彼らにとって、戦後は決して平穏ではなかった。著者の地道で誠実な取材が、分厚い心の扉を開き、その奥底にあった真実の声をすくい上げている。 歴史の影に埋もれがちな「生者の苦悩」を通じて、「特攻隊」に新たな視点を与える作品である。 (光文社新書刊、1144円)


歴史を変えた戦略家たち上・下 フィリップス・ペイソン・オブライエン 著 加藤洋子 訳、石津朋之 解説
第2次大戦期を代表する指導者として必ず対比されるのがチャーチル、スターリン、ローズヴェルト、ムッソリーニ、ヒトラーの5人だ。 当時の世界情勢を左右した、いわゆる“ザ・ファイブ”について著者は「行動がいかに個人的かつ支離滅裂であったかを示したい」と、本書を書く動機について明らかにしている。 上巻は5人それぞれが指導者になる前にさかのぼり、「彼らの戦略的思考形成と全体像に迫る」。従軍体験などが若かりし5人に与えた影響を詳述する。 それらを踏まえ、下巻では「第2次大戦時の彼らの思考のぶつかり合いを見てゆく」。 下巻を読む醍醐味(だいごみ)について、著者はこう明解に表現する。 「欠点のある個人が流動的な状況下でいかに独自の選択を行ったかである」と。 たとえ優秀な部下からの助言や判断材料があろうとも「ザ・ファイブは聞く耳を持たず、良くも悪くもやりたいことをやってのけた」。 こうした戦略家たちの人生を垣間見て、今の世界情勢を考えてみるのもいいだろう。 (東京堂出版刊、上・下巻とも3080円)


台湾有事と憲法改正 西修 著
憲法9条2項に「戦力は、これを保持しない」とある。「自衛隊は?」という問いに政府はさまざまな解釈を答えてきた。そうした理論武装で冷戦を生き抜いた自衛隊の歴史は、明治維新から終戦まで77年間存在した旧軍の歴史を超えようとしている。 今や国民の9割が戦後生まれで戦争や軍隊は対岸の火事。軍人ではない「迷彩服を着た特別職の公務員が国を守ってくれる」と教わってきた。 終戦から80年。集団的自衛権の行使と防衛装備移転ができるようになり、国家情報局が創設される。「国論を二分する政策」が進められ、もし国民投票となったらどうするか。 本書は、憲法制定の経緯や政府答弁のほか、外国憲法と比較して、政府や自衛隊が抱える課題と憲法議論の論点を浮き彫りにする。 「正義と秩序を基調とする国際平和を“誠実に”希求」するためにはきれい事も本音も知識も必要だ。 ウクライナやイラン情勢の先行きが見えない中、自分たちの国を「誰がどのように守るのか」考えずにはいられない。 (育鵬社刊、1980円)


米国海軍大学元教官が教える 自律型チームのつくり方 浅野 潔 著
軍事組織の最前線で磨かれた「自律型チーム」の育成メソッドを、ビジネスの現場で再現できるよう体系化した一冊だ。 元海上自衛官の幹部として災害派遣や中東派遣を経験した著者は、米国海軍大学で外国人教官として指導した経歴を持つ。 軍事組織マネジメントのスペシャリストである著者が、業務を「何のためにやるのか」という目的を示し、やり方は部下に任せる「ミッション・コマンド」を解説する。 さらに、部下の判断力と行動力を引き出す「GUIDES(ガイズ)モデル」、状況を読み切る「意思決定力」、複雑な課題を突破する「作戦発想力」など、実践的なフレームワークが豊富に紹介されている。 「指示待ちの部下が多い」「自分が多忙で任せられない」といった悩みを抱えるリーダーにとって、本書は「任せる力」と「任される力」を同時に育てるための具体的な道筋を示す。 「VUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)」の時代に成果を出し続けるチームづくりのヒントが詰まっており、現場で使える新しいマネジメント教本だ。 (フォレスト出版、1815円)


神国日本 小泉八雲著、田部隆次・戸田明三共訳
明治の文豪である小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の遺稿を復元し、日本人の精神性を独自の視点で描き出した。八雲の最晩年の著作とされる本書は、これまで“不敬”として削除された部分を追加したことで、当時の思想的背景や日本観をより立体的に浮かび上がらせた。 日本人の死生観、神道・仏教観、キリスト教観、そして天皇制は、外来の知識人である八雲が驚きをもって観察した日本文化の核心である。西洋的合理主義では捉えきれない「日本人の国民性」を、敬意と情熱をもって言語化しようとした。 特に天皇制を巡っては、当時の国際情勢や西洋の視線を踏まえ、日本社会の精神的支柱を読み解こうとする姿勢が印象的だ。 また、巻末には、昭和天皇の逸話として知られる「マッカーサーとフェラーズの会話」を引用し、八雲の日本論が戦後の歴史認識にも影響を与えた可能性を示唆する。日本人が忘れかけている精神文化を、外部の視点から再発見させてくれる点も本書の魅力だ。 日本文化の源流を知りたい読者、八雲作品の愛好者、あるいは日本の精神史に関心を持つ人にとって必読の本とも言えるだろう。 (毎日ワンズ刊、1650


一気にわかる! 池上彰の世界情勢2026 トランプ関税ショック、その先にある世界編 池上 彰 著
国際情勢の複雑さが増すいま、ニュースの背景を丁寧に読み解く解説で定評のある池上彰氏の最新刊。 2025年以降の世界経済と外交を揺るがす「トランプ関税ショック」を軸に、米中対立の長期化、ウクライナ戦争の行方、中東情勢の不安定化、さらには日本経済や企業活動への波及まで、多角的な視点から未来を展望する。 池上氏ならではの平易な語り口はそのままに、複雑な国際問題を「なぜそうなるのか」という根本から丁寧に整理・解説している。写真や図も随所に使って理解しやすい構成だ。 また、時事解説にとどまらず、各国の政策がどのように連鎖し、世界全体の秩序や市場に影響を与えるのかといった「未来への予兆」にも光を当てる。 国際情勢を学び始めた学生から、ニュースを深く理解したい社会人まで、変化の激しい世界の動きをつかむための入門書として心強い存在となる。 (毎日新聞出版刊、1210円)


飛鳥の古代史 大化の改新と日本国誕生の謎を解く 瀧音能之 著
長きにわたる日本の歴史の中で、政治的に最も不安定だったと言われる飛鳥時代。史上唯一の天皇暗殺や、栄華を極めた蘇我氏が滅亡した乙巳の変のほか、古代最大のクーデターとなった壬申の乱など、大きな混乱が生じた。その中で、政治の大改革を担ったのが、5代4人の女帝だった。 7世紀当時、日本は有力な豪族によるヤマト王権から天皇を中心とする律令国家への転換期を迎えた。しかし、そうした変革によって多くの反発や抵抗を招いたが、女帝たちが振るった大ナタが、激変する時代を導いていった。 特に41代持統天皇から43代元明天皇までの藤原京は、その後の平城京や平安京を超える規模だったとも考えられ、後世にも大きな影響を与えたことがうかがえる。 飛鳥時代は、制度や王都のスクラップ・アンド・ビルド。王権から朝廷へ、天皇の絶対的地位の確立など、それまでには見られないような大胆な変化があった。また、仏教の伝来や、遣唐使を通じた外交の確立など、文化の面でも大きな変化があった。 当時は日本の国家像を模索した「実験の世紀」であり、この1冊には変革の時代を紐解(ひもと)くロマンがあふれる。 (


中東戦争最前線 飯山 陽 著
「日本のメディアによる中東報道は現実と乖離(かいり)している」――。イスラム思想研究者である著者は本書でそう断言する。 日本のマスメディアとは異なる視点から、激動する中東情勢を読み解いた一冊だ。 日本のメディアは「可哀想なパレスチナと残虐なイスラエル」という二元論で報じがちだ。例えばイランの核問題に関しても「民生利用のための開発であり、兵器開発はしていない」と伝えるが、現実には民生用に不要な高濃縮ウランを大量に生産・保有している。 世界各国が核保有阻止に奔走している中、日本だけが別の世界にいるかのような錯覚に陥る報道っぷりだ。 著者はこうしたメディアの姿勢を痛烈に批判しており、既存のニュースに不信感を抱く人には、特にお薦めしたい。 また、アメリカの動向に切り込んでいる点も見どころだ。トランプ政権による「ハーバード大学への政府助成金などの凍結」騒動を取り上げ、なぜ凍結に至ったのか、名門大学でどのような中東研究が行われているのかを詳解している。 偏った報道のベールを剥がし、国際政治のシビアな現実を浮き彫りにする本作は、中東情勢の「真実」を知るきっかけ


日出ずる国へ イタリア外交官の日伊交流再発見の旅 マリオ・ヴァッターニ著、草皆 伸子訳
イタリアの外交官で現・駐日大使のマリオ・ヴァッターニ氏が、日本を旅しながら出会った風景や日伊両国の交流の歴史を紹介する味わい深いエッセイ集だ。 ヴァッターニ氏は大阪・関西万博イタリア館の政府代表も務めた人物で、日本への親しみと敬意が行間から自然に伝わってくる。 物語は2004年早春に著者がバイクで巡った東北の旅から始まる。会津の町並みや、雨宿りのために立ち寄った寺で過ごした静かな時間が、どこか懐かしい日本の原風景として描かれる。 飯盛山で自刃した白虎隊から陸上自衛隊東部方面総監部で割腹自殺した三島由紀夫まで話が飛ぶこともあれば、日伊交流の知られざる歴史についても語られる。 旅の終わりに京都・龍安寺の石庭を前にして、著者が静かに思索する場面は、両国の間に流れてきた長い時間をそっと見つめ直すような余韻を残す。 日伊のつながりを、歴史と旅の両面からやさしく照らし出す一冊である。 (三修社刊、1980円)


海鷲の翼 F2戦闘機 進化するマルチロール機 小峯隆生著、柿谷哲也撮影
「平成の零戦」と称されるF2戦闘機の完成までの道のりは平坦ではなかった。国産ゆえの技術課題や不具合が相次ぎ、実戦に使える機体へと育て上げたのは現場だった。 3飛行隊(百里)の歴代隊長をはじめ、パイロットや整備員の証言を積み重ね、同機がマルチロール機へと成長していく過程を追う。浮かび上がるのは、機体の限界を確かめるため命懸けで飛び続けた隊員たちの姿だ。前例のない課題に直面しながらも、それを乗り越えようとする執念と誇りが、機体の性能を引き出してきた。 写真家・柿谷哲也氏の口絵は、空を守る者たちの緊張と矜持(きょうじ)を静かに映し出し、証言の重みを視覚的に訴える。 本書は技術書の枠を超えた人間の物語だ。F2の真価は諸元表には表れない、人々の情熱と覚悟にある。 次期戦闘機の開発が進む今、日本の航空戦力の現在地を知る上で貴重な証言集となるだろう。 (並木書房刊、1980円)
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