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ブックレビュー

アウシュヴィッツを破壊せよ ~自ら収容所に潜入した男 上下巻 ジャック・フェアウェザー著、矢羽野 薫訳


 ナチス・ドイツの攻撃でワルシャワが陥落した翌年の1940年、ポーランド貴族の地主階級で騎兵隊予備役少尉でもあったヴィトルト・ピレツキは、志願してアウシュヴィッツに投獄される。

 その任務は、当時の英ロンドンのポーランド亡命政府に収容所の実態を伝えることだった。

 だが、ポーランド人政治犯やソ連軍捕虜の処刑、ユダヤ人大量虐殺に関する決死の報告書は、英国をはじめとする連合国から無視され続ける。

 武装蜂起も実現せず、3年後に見切りをつけて脱走したピレツキは44年のワルシャワ蜂起で祖国のために戦うが、戦後の48年、今度はソ連の傀儡(かいらい)となったポーランド政府から「国家の敵」として処刑されてしまう。

 戦後の共産主義政権下で歴史から抹殺され、「三度死んだ英雄」と言われるピレツキの人生を、英国人作家でジャーナリストの著者が膨大な史料と関係者へのインタビューを基に、国際社会の本音をえぐりながら、初めて立体的に浮かび上がらせた。

 翻って現在、「非ナチ化」というレトリックでウクライナ侵略を続けるロシアと、欧州諸国との複雑な歴史的関係の本質を改めて見つめ直す手がかりを与えてくれる。

 (河出書房新社刊、上下巻とも3190円)

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