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コラム


<春夏秋冬> 選挙で露わになる イスラエル社会の分断 酒井啓子
注目のイスラエル選挙が終わった。ネタニヤフ首相率いる与党が第1党となったが、過半数を取れなかった。どこと連立するか、誰が首相になるか、はたまた再選挙になるかなど、選挙後の駆け引きがどうなるかは分からないというのが、イスラエル選挙の常態である。 今後の政権の行方は別として、第2党、第3党の台頭は注目に値する。イスラエル国民のエスニックな分断を明確に示しているからだ。 イスラエルがヨーロッパで迫害を受けたユダヤ教徒の悲願として建国されたことはよく知られているが、そうした背景から、これまでのイスラエル政治はヨーロッパ出自のユダヤ人によって担われてきた。ユダヤ問題の専門家である鶴見太郎氏によれば、特にロシア、ウクライナなど旧ソ連圏や東欧出身の政治家がこれまで主流だったという。 こうした東ヨーロッパにルーツを持つユダヤ人をアシュケナージ、南ヨーロッパ出身者をセファラディームと呼ぶのに対して、北アフリカやイエメン、イラクなど、アラブ地域から来たユダヤ教徒をミズラヒームと呼ぶ。今回、第2党となった反ネタニヤフ派を率いるアイゼンコットはモロッコ系ユダヤ人で、その


時の焦点<国内> 外国干渉の防止
影響工作を透明化 外国の情報機関による活動は、機密情報の窃取から政策決定への介入や世論操作などに拡大し、活発化している。こうした活動に対処するための法制度を整備して、国民の安全を守る対策を急がねばならない。 政府が、外国政府の代理人による影響工作を規制する「外国干渉防止法案」(仮称)を、来年の通常国会に提出する方向で検討に入った。 インテリジェンス機能のあり方を検討する有識者会議で、警察庁から論点が示された。政府はこれまで、外国による機密情報の窃取に対抗するため、特定秘密保護法や不正競争防止法などを整備してきた。 その一方、政治や行政への介入、世論の誘導などを規制する仕組みは手つかずだった。意図や背景が隠されたまま影響力が行使されれば、国民の意識しないうちに、外国の望む行動や判断に傾く恐れがある。政府は対応を急がねばならない。 偽情報の拡散は、日本でもたびたび確認されている。2月の衆院選では中国による認知戦が行われた可能性があると判明した。不審アカウントからの投稿は、政府も一定数把握している。こうした工作に対抗するため、新たな法律では、外国代理人


時の焦点<海外> イスラエル総選挙
新たな混迷の始まり 10月27日のイスラエル総選挙は、ネタニヤフ首相率いる与党陣営もアイゼンコット元軍参謀総長の野党陣営も、過半数に至らなかった。組閣や連立の交渉は数週間から数カ月かかるとみられ、誰がこれからのイスラエルを率いるのか、しばらくは見通せない。イラン戦争の先行きも相まって、中東は新たな混迷の始まりの中にある。 定数120のうち、ネタニヤフ与党陣営は53議席、アイゼンコット野党陣営は48議席を獲得。過半数を目指して連立の動きが活発化している。キャスティングボートを握るのは19議席と躍進したアラブ系政党だが、アラブ系住民には強烈な反ネタニヤフ感情があり、与党との連携は難しい。一方のアイゼンコット陣営にもアラブ系政党には拒絶反応がある。両陣営の大連立もささやかれるが、これもハードルが高い。全て不調だった場合には再選挙となる。 今回の総選挙は、イスラエルの将来を左右すると言われた。イスラエルの国際的孤立が国民やユダヤ系米国人に深刻な危機感を抱かせているからに他ならない。 1200人の死者を出した3年前のハマスによるテロ攻撃は、イスラエルをあら


朝雲寸言 (2026年11月5日付)
重要無形文化財保持者(各個認定)、いわゆる人間国宝に、初めて生活文化分野の名匠たちが認定される運びとなった。池坊専永(立花)、高橋英一(京料理)、農口尚彦(吟醸造り)の3氏である。 この領域に踏み込んだ国の判断は珍しくよかった。京都勢が目立つのは、文化庁本庁舎が京都に移ったことも関係しているのか。華道や和食などに光があたり、ここからアーティストが生まれたり、愛好家が増えたりといった気運が醸成されれば、こんな好ましいことはない。 「いけばなで肝要なのは、形ではなく姿」。十数年前の、池坊専永氏の言葉である。しかと見えないもの、しかと認識できないものの尊さを強調していた。近い将来、茶道や、最も霊妙で認識しにくい香道をも人間国宝の対象にしてほしいものである。 ただ、今回の意味するところにも敏感でありたい。背景に生活価値観の大変化があることは論をまたない。結婚前の花嫁修業としてお茶やお花やお琴を習う「大和なでしこ」は今の時代どこにいるだろうか。各ジャンルのすそ野が貧困なのだ。 つまりは、せめて国がすくいあげないと消滅してしまう危険性があることも示す。和食や


前事不忘 後事之師 第130回 トーマス・シェリングを読む(その1)
私は広島を訪問する際には平和記念資料館を訪れることにしているが、そのたびに、このような惨禍は二度と起こしてはならないとの思いを新たにする。核兵器については、その廃絶を強く主張する人々が一方におり、他方には核抑止論を唱える人々もいて、両者は水と油のように混ざり合うことがないのが現状だ。 そのようなことを考えながら、アメリカの経済学者(ゲーム理論の専門家)であり、また核抑止論者であるトーマス・シェリング(1921年~2016年)の代表作「紛争の戦略」を読んでみた。 シェリングが「紛争の戦略」を著したのは1960年代だが、この頃の米ソの核戦力は特定の基地に集中し、警戒態勢や防護も不十分で、先制攻撃(奇襲)によってそれが破壊されてしまうのではないかとの懸念があった。このため、シェリングは米ソが核を保有する状況下で、核による奇襲攻撃を起こさない態勢はどのようなものかという観点から核抑止論を展開する。彼は西部劇における銃による決闘を例に取り、次のように説明する。 銃という武器はどちらかが相手を殺すことを可能にするが、両者がともに死ぬことを保証していない。この


防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<58> 中露朝イ間の連携と米国
今月の講師 相澤李帆氏 防衛研究所地域研究部 米欧ロシア研究室研究員 専門は米国の対中戦略・政策。学習院女子大学国際文化交流研究科修了(2020年)、ジョージ・ワシントン大学エリオット国際関係大学院修了(2023年)。ハドソン研究所リサーチ・インターン、ジョンズ・ホプキンス大学SAISライシャワー東アジア研究所ポリシー・リサーチ・フェロー等を経て2021年より防衛研究所勤務。2023年度には防衛省防衛政策局インド太平洋地域参事官付国際安全保障政策室にて主任を兼任。 ウクライナ戦争の勃発以降、中国・ロシア・北朝鮮・イランの協力関係が深化している。米国トランプ政権は、制裁や輸出規制で四カ国の協力に圧力をかける一方、中国やロシアとの対話にも意欲を示してきた。圧力と対話を同時に追求する米国の政策的関心はどこにあるのか。その手がかりとなるのが、四カ国間の協力に関する米国の脅威認識と政策議論である。 四カ国間協力に継続的な警戒感 米国の情報機関は、四カ国を一枚岩の陣営とはみなしていない。協力は主に二国間ベースで進展しており、各国の利害の違いや、米国との直接対


朝雲寸言 (2026年10月29日付)
無性にラーメンを食べたくなる時がある。自分で作ることもあるが、やはり専門店で食べるラーメンは格別である。 それにつけてもラーメン専門店の何と多いことか。スープや麺、具材の種類など独自の味を極めるラーメン店が街中にあふれている。また近年、多くの外国人旅行者が興味を持つ日本のB級グルメがラーメンなのである。 そして同じ国民食の代表であるすしやカレーライスと比べると、多様さにおいてラーメンに並ぶものはないと思う。ラーメンはある意味、多様性の象徴なのだ。好んで食べるラーメンも人それぞれであり、ランキングをつけても意味がない。 その地方にしかないラーメンもある。いわゆるご当地ラーメンである。有名チェーン店とは別に、それぞれの地域の気候やそこで暮らす人々の食生活に密着したラーメンがある。その多様性と地域性において、日本独自の食文化を形成しているといえるだろう。 ラーメンの起源が日本でないことは誰もが知っている。別にどこかの国のように起源に目くじらを立てることもない。 日本起源あるいは日本発祥のものも多い。しかしそれよりも品質にこだわりたい。それが職人国家日本


時の焦点<海外> ウクライナ情勢
欧・露のチキンゲーム ウクライナのゼレンスキー政権で、2019年から21年まで首席報道官を務めたユリヤ・メンデルという人物がいる。 現在はジャーナリストとして活動する同氏が英誌「スペクテイター」(9月28日号)に寄稿した論文「ゼレンスキーの戦略は国家の自殺」を読むと、ロシア・ウクライナ戦争の深層が見えてくる。 同氏は「同戦争をフォローしている米国人には、過去数カ月は実に奇妙に見えるに違いない」と書き出すが、言われてみれば、確かに指摘の通りだ。 初夏の頃、ウクライナ政府および多くの西側メディアは、同国が勝利しているというニュースを発信していた。それが7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の後、ほどなくして、ウクライナ政府は生存のために迎撃ミサイル300基が必要だと発表した。 そして9月、ウクライナは国防のための予算が270億ドル不足していると発表した。同氏は25年には、ウクライナがこの戦争を軍事的に勝利するのは不可能で、交渉による平和が唯一の解決策との結論に達したそうだ。 しかし、ゼレンスキー大統領は6月下旬、ロシアを40日間、長距離のドローン


<春夏秋冬> 「米中AI冷戦」という新時代の幕開け 前嶋和弘
9月末の米中首脳会談で印象的だったのが、トランプ大統領による習近平主席の厚遇ぶりでした。空港までの出迎えやタラップ下の赤じゅうたんの演出、歓迎式典をみると、米中関係のフェーズはやはり融和に転じているようにみえます。 ただ、両国の不信感が払拭されていないのも明らかになりました。微妙な関係がわかるのは、会談で大きな争点となったAI(人工知能)問題について対話の枠組み(ホットライン)の設置でした。AIの暴走などで、何か大きな問題が起こった際には米中ですぐに話し合える体制づくりを示しています。 一見して米中接近の象徴ともいえるAI対話枠組み作りですが、そこにはトランプ政権側の中国を抑えたい思惑も見え隠れしています。米国内でAIへの逆風はすさまじい状況です。AIへの懸念は人類滅亡論だけでなく、雇用の喪失やデータセンターによる電気料金の上昇といった人々の日常生活にも及んでいます。 トランプ大統領は「AIを制する者が世界を制する」と豪語しており、国内開発企業には規制をかけないことを明言しています。 そして、AI懐疑論は「左派の陰謀に過ぎない」と主張しています。


時の焦点<国内> 原子力潜水艦
費用対効果を吟味せよ 中国海軍が原子力潜水艦の能力を向上させ、太平洋での活動を強めているのは、地域の平和と安定を脅かす懸念材料だ。原潜は、長期間にわたって潜航でき、敵に探知されにくいという特長を持っている。自衛隊が保有しているディーゼルなど通常動力型の潜水艦では、中国の原潜に対応できまい。日本も原潜の配備について真剣に検討すべき時期を迎えている。 高市早苗首相は10月14日の衆院予算委員会で、自衛隊への原潜の導入について、「具体的かつ現実的な検討を深める」と述べ、年末に改定する安全保障関連3文書の議論の対象に含める考えを示した。 中国の原子力潜水艦は7月、太平洋の公海に向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)1発を発射した。訓練用の模擬弾頭を搭載し、予定していた海域に落下したという。事前に中国側から通知を受けた日本政府は、発射中止を求めたが、聞き入れられなかった。 「海洋強国」を掲げる中国は、原潜を十数隻保有しているとみられる。近年はその開発を急ぎ、通常動力の潜水艦を合わせると60隻以上の潜水艦を配備しているようだ。太平洋で米軍と対等に渡り合える


時の焦点<海外> ハイブリッド戦争
対露警戒高まる欧州 ロシアのウクライナ侵攻からまもなく5度目の冬を迎える。ゼレンスキー政権を一気に屈服させようと考えたプーチン大統領のもくろみは早々と崩壊し、今やプーチン氏自身が追い詰められているかのようだ。早期決着のつもりで戦争を仕掛けて泥沼に陥るのは、トランプ米政権のイラン攻撃にも通じよう。古今東西の歴史に学ぶことのない大国のおごりに、周辺国はいつも振り回される。 そのウクライナを巡る戦火がNATO(北大西洋条約機構)に飛び火するのではないか――。欧州では今、そんな懸念が急速に高まっている。 9月末、英紙ガーディアンのウイークリー版は「モスクワが数カ月以内にNATOを攻撃する可能性を情報機関トップらが警告」との不穏な見出しの記事を掲載した。 それによればポーランドのトゥスク首相は議会に対し、ドローンかミサイルによるNATOへの攻撃が今後数カ月で起こるかもしれないと指摘。ロシアは(加盟国への攻撃をNATO全体への攻撃とみなして共同で対処すると定めた)条約第5条が空論であることを証明しようとしている、との見方を示した。 また、フランスのマクロン大


<春夏秋冬> 李在明政権にとってのウクライナ支援の相克 平岩俊司
ウクライナのゼレンスキー大統領が国連総会で北朝鮮兵捕虜2人の韓国移送を一方的に公表したため、韓国は猛反発した。 トランプ米大統領が金正恩(キムジョンウン)総書記との首脳会談への意欲を見せるなか、仮に米朝が動いたとき、それに乗り遅れてはならない、というのが李在明(イジェミョン)政権の立場だ。しかし、そのためには北朝鮮が南北対話を受け入れる必要があり、南北関係の緊張は好ましくない。 この問題は、北朝鮮の反応次第で新たな摩擦を生む可能性がある。そもそも韓国は北朝鮮との間で難しい問題を抱えていた。ゼレンスキー大統領の発言の2日前、非武装地帯(DMZ)で地雷が爆発し、韓国軍兵士が負傷したのだ。当初、李在明政権は慎重に対応しようとしたが、厳しく臨むべしとの国内の雰囲気もあって、韓国軍と国連軍が調査し、北朝鮮の設置した地雷として謝罪を要求した。 金正恩総書記の実妹の金与正(キムヨジョン)部長はこれを「自作自演」として猛反発していた。このような状況での捕虜移送問題は南北間の新たな火種となる可能性がある。 そもそもロシアのウクライナ侵攻直後、韓国では北朝鮮に厳しい


朝雲寸言 (2026年10月22日付)
ショパン、シューマン、リスト……。筆者はピアノ曲の大の愛好家である。そんな人々を驚かすニュースがあった。 ショパン国際ピアノコンクールで第2位受賞という輝かしい記録を持つ日本人ピアニストSが、スピード違反で在宅起訴された事件である。制限時速60キロの首都高速道路を時速144キロで走った。今月6日、東京地裁で初公判が開かれ、即日結審した。 渋滞でもない高速道路を制限速度60キロで走るドライバーはめったに見られまい。非現実的な規制だが、まずは悪法も法だろう。超過は84キロ。これは弁解しづらい。出し過ぎだ。 ただ、注目したいのはSの言動である。違反は昨年12月というから10カ月近く伏せられていた。だんまりを決め込んでいたずる賢さはあるが、初公判で世間に知れ渡ると3日後、Sは事務所のサイトで謝罪し、年内公演の収益を公益的団体へ寄付すると発表した。遁辞(とんじ)を弄(ろう)してごまかしたり、安全な地位に恋々としてノーコメント一点張りで流したりはしなかった。社会を納得させる言動で、一定のカタルシスの風が吹いたのではなかろうか。 有名人、もしくは社会的影響力の


時の焦点<国内> サイバー防御
インフラの停止を防げ 公的機関や企業からの大量の情報流出が、毎日のように報じられ、国民の不安が高まっている。 国民生活の安心や安全の観点からは一刻を争う課題であり、官民を挙げた対応が求められている。重大なサイバー攻撃を未然に防ぐ能動的サイバー防御の関連法が本格的に施行された。 最新の攻撃手法などの機微情報を官民の協議会で共有することに加え、警察と自衛隊が攻撃元サーバーに侵入して相手を無害化する措置が可能になった。 また、電気やガス、鉄道など基幹インフラの15業種258業者に対し、サイバー攻撃があれば報告するよう義務づけた。基幹産業の機能が停止すれば、国民生活に重大な影響が及ぶ。政府が被害を素早く確認し、拡大を防ぐことは重要だ。 サイバー攻撃による被害やリスクは年々増大している。ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)の被害報告は、ここ数年200件前後で推移している。 最近も、サイバー攻撃による大規模な情報流出が頻発している。カーシェアリングのタイムズカーや大和証券などが、個人情報の漏えいを公表した。 9月には、政府機関共通の情報システムが攻撃を受け


<春夏秋冬> 「防衛産業戦略」 鈴木敦夫
防衛省の2027年度予算案の概算要求は、「安保3文書」の改定も予定され、多くの新規事項を含み質的にもボリューム感のあるものとなっている。その中には「生産力こそ抑止力」と称して、防衛生産・技術基盤強化のための各種事業が盛り込まれている。 この動きは国際的でもある。冷戦後、世界の軍事費は「平和の配当」として減少し、主要国の防衛産業も整理統合され、生産基盤は縮小した。世界はグローバル化へと大きく動き出した。国境を越えてヒト・モノ・カネ・情報が自由に移動し、経済成長など多くのメリットをもたらした。 他方で経済相互依存が深まりサプライチェーン(供給網)は複雑化し、いま振り返れば「経済の武器化」につながる要因ともなった。 防衛生産・技術基盤も無縁ではない。さらにかつてはGPS(全地球測位システム)など軍事技術が民生用にスピンオフしていたが、今や逆方向のスピンオンが重要になっている。 安全保障環境に目を転じれば、米国を中心とした協調的関与の時代から大国間競争の時代へと大きく変化した。22年のウクライナ侵略を一つの契機として、主要各国が防衛費を増加させた。武器に
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