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コラム
<春夏秋冬> どの戦争に 似ているか 酒井啓子
米・イスラエルによるイラン攻撃開始から、1カ月が経つ。1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争に続くペルシャ湾岸地域での戦争なので「第3次湾岸戦争」と呼ばれることもあるし、1980―88年のイラン・イラク戦争を第1次として「第4次湾岸戦争」と呼ぶ者もいる。ホルムズ海峡の封鎖、カーグ島への攻撃などの展開を見ると、イラン・イラク戦争のデジャブか、とも思う。


防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<51> 満州にみる東アジアの戦後秩序の原点
今月の講師 藤井元博氏 戦史研究センター 主任研究官 1986年5月生まれ、神奈川県出身。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科後期博士課程(史学)単位取得退学。2017年防衛研究所入所。専門分野は近現代中国の軍事史、政治外交史。主な業績に「中国国民党軍の終戦処理:対日反攻から接収へ」(『安全保障戦略研究』第1巻第1号、2020年8月)、「日中戦争期の華中・華南地域をめぐる中国国民政府の軍事体制:政治工作と軍事作戦の関係を中心に1938-1941」(『安全保障戦略研究』第2巻第2号、2022年3月) 満州の勢力圏化争う日・ソ・中 近年、国際秩序の不安定化とともに勢力圏をキーワードに国際情勢を語る議論が散見される。しかし東アジアに目を向ければ、戦後秩序の形成そのものが、勢力圏的発想と切り離せない形で進んできた。その縮図ともいえるのが満洲(中国東北地域)である。満洲は華北地域・シベリア・朝鮮半島・モンゴルと接続する多民族的な辺境地域であり、それゆえに近代以降の東アジアにおける角逐の舞台となってきた。そこで、終戦前後にさかのぼり、満洲から戦後東アジ


朝雲寸言(2026年3月26日付)
南北朝時代の若き公家武将北畠顕家の戦いを描いた小説がある。その冒頭近く主人公が陸奥守任官として東北に赴く場面に以下の文章がある。「(任地に赴く指揮官が)最初に戦わなければならない相手は配下につけられた諸将である」。 新任地に赴任する指揮官には克服しなければならない相手が三つあるという。一つ目はいつか戦うであろう敵である。二つ目は任地とその地域に生きる人々である。そして三つ目が指揮する部隊の隷下部隊長である。 今年も年度末の人事異動で多くの部隊長が着任された。初級幹部時代から自己研鑽(けんさん)を積み、要職を経て勇躍新任地に赴任された指揮官の方も多いであろう。新指揮官を迎える部隊も今度の指揮官がどんな人物なのか期待と不安を抱いていることだろう。 実力集団を任された指揮官に与えられた期間はおよそ2年、決して充分な時間ではない。その短い在任期間で部隊を鍛え、地域との連携を深め、有事即応の態勢を維持する責任が指揮官にはある。 ナポレオンの格言として知られる狼と羊の例え話は部隊が指揮官次第で良くも悪くもなるという組織運営の大原則である。...


時の焦点<国内> 日米首脳会談
停戦実現へ役割果たせ 中東の戦火はいつ収まるのか。日本は米国に何を言うのか。世界中が注目する中で行われた日米首脳会談において、両首脳はひとまずイラン情勢の安定に協調して取り組むことで一致した。国際法を軽視するトランプ米大統領との難しい会談を、高市早苗首相は無難にこなしたと言えるのではないか。 紛争の収束に向けたハードルは依然高い。日本は、停戦の実現に向けて米国と意思疎通を続けねばならない。平和の回復へ国際世論を喚起していくことも重要だ。 日米首脳会談がワシントンで約1時間半行われた。その後の夕食会も含め、計3時間、両首脳は中東情勢や対中国政策、日米同盟などについて協議した。 首相は会談の冒頭で、「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけだ」と述べ、トランプ氏をファーストネームで呼んだ。「諸外国に働きかけてしっかりと応援したい」とも語った。 首相としては、トランプ氏に寄り添う姿勢を示しつつ、停戦に関心が向くようにする狙いがあったようだ。これに対しトランプ氏は、「日本は責任を果たそうとしている。NATO(北大西洋条約機構)とは違う」と述べ、ホル


時の焦点<海外> 米とイラン戦争
3つの「地政学的勝利」 トランプ米大統領は3月11日、ケンタッキー州ヘブロンにおいて開かれた集会で、イランとの戦争に「我々は勝利した」と宣言した。 ホワイトハウスも同日、戦果の情報を更新し、▽イランの弾道ミサイルによる攻撃は90%減少▽5500以上の標的を除去▽制空権も確保▽イラン艦船60隻以上を沈没か破壊▽革命防衛隊海軍のソレイマニ級軍艦全4隻を破壊――と発表。 2月28日に開始した攻撃は最初の1週間で中東の再編だけでなく、世界のバランス・オブ・パワーを作り変えつつある。いわば「3つの地政学的勝利」である。第一には、イラン政権首脳部の殺害=トランプ米大統領は3月3日、米・イスラエル両国軍の攻撃で、イランの最高指導者ハメネイ師ら49人の指導者が死亡したと発表した。49人だけではない。ナシルザデ国防相、パクプール革命防衛隊総司令官、ムサビ総参謀長らも殺害された。 マドゥロ大統領拘束後のベネズエラ情勢で明らかなとおり、多数の政権主要幹部を消し去っても即座に新たな形での政府の誕生は保証されないが、イランの激震は事実だ。 イランは米国やイスラエルを標的に


朝雲寸言(2026年3月19日付)
いきなりだが、「遅さ」に効用はあるのかと、のろまな筆者は昨今よく考える。早い報告・連絡・相談、メールへの即返信、素早くこなすこと。世間で偏重されるのは「早さ」である。 だが、相手の発言に即答するパターンは往々にして相手のペースにのまれ、自らを見失う。頭の回転の早さを過信し、怒る相手の話を遮って言葉を被せれば、余計に紛糾する。 いずれも、深呼吸で一拍置いてから相手に接する「遅さ」を訓練することで、自身を喪失や混乱から守ることにつながるのではないか。ビジネス界で盛んに言及される「マインドフルネス」の眼目もここにありそうだ。 三島由紀夫が自著「文章読本」で触れているが、仏文芸評論家ティボーデは小説の読者を「リズール」(精読者)と「レクトゥール」(普通読者)に大別した。小説世界に自ら生きるように読む「リズール」、手あたり次第に読む「レクトゥール」。「リズール」の読む速度は当然遅く、理解は深い。 屈指の名門校として知られる灘中学校ではかつて、中勘助著「銀の匙(さじ)」一冊を3年間かけて味読する、橋本武氏による国語授業があった。「リズール」への教導だ。全読者


時の焦点<国内> 国家情報会議
新たな司令塔の創設 政府が、インテリジェンス(情報収集、分析)の司令塔を創設する法案を閣議決定した。首相を議長に、官房長官や外相、防衛相ら9閣僚で構成する「国家情報会議」を内閣に設置し、情報収集の基本方針などを定める。 内閣官房の情報部門である内閣情報調査室(内調)を国家情報局に改組し、会議の事務局とする。国家情報局には総合調整の権限を与え、外務省や警察庁など各省庁の情報部門から必要な情報提供を受けることができるようにする。 国家情報局で分析された情報は、外交・安保政策を立案する国家安全保障会議(NSC)に提供される。 新たな組織の設置には、情報と政策の機能を分離し、政策判断の客観的な判断材料を求めようとする狙いがある。 ただ、情報の集約は今もNSCで行われ、それは今後も続くという。国家情報会議とNSCは同格となり、双方が重要情報を扱うことになる。情報が錯綜(さくそう)しないよう、各組織の役割を精査することが求められる。 留意すべきは、今回の法案が国家情報会議という「ハコ」作りに限られる点だ。現在の内調は、情報収集衛星を運用する部門を除けば300


時の焦点<海外> 米中G2
勢力圏分割の危うさ 米国とイスラエルのイラン攻撃が世界を混乱に陥れている中、王毅・中国外相兼共産党政治局員は3月8日の記者会見で「世界は100年に一度の変動にある」と述べ、国際秩序の劇的変化を強調してみせた。米中両国が、新たな時代の主軸となることへの自信をのぞかせながら。 3月末から予定されていたトランプ米大統領の訪中を踏まえた発言だ。中東情勢で米側が一カ月延期を申し出たが、トランプ氏と習近平・中国国家主席の間ではこれを含め年内に4回もの首脳会談が見込まれている。トランプ氏が昨年10月、韓国・釜山の米中首脳会談で「米中G2」と呼んだ関係が本格的に動き出せば、イラン攻撃と併せて今年はまさに歴史の分水嶺(れい)の年となろう。 トランプ政権で対中戦略の中核を担うのはコルビー戦争次官である。対ソ封じ込めを主導したジョージ・ケナンになぞらえ、21世紀のケナンとも呼ばれる若手だ。そのコルビー氏は著書で、中国封じ込めを大前提に、重要なのは「中国への優越ではなく中国とのバランス」と主張している。経済的相互依存の進んだグローバル時代にあって、米中両国が互いの勢力均
時の焦点<国内> イラン情勢と日本
中東の安定に貢献せよ 米国は日本にとって唯一の同盟国であり、良好な関係を維持することは重要だ。とはいえ、今回の米国のイランに対する攻撃は、国際法を逸脱している可能性は否定できない。日本は米国、イラン双方に事態の沈静化を求める必要がある。国連の場を積極的に活用するなど、外交努力を尽くすべきだ。 トランプ米大統領は、イランに対する軍事作戦が4週間以上続くとの見通しを示している。イランも反撃を続けており、戦火は中東全域に広がりつつある。報復の連鎖を懸念せざるを得ない。 こうした中、日本は米国を支持も批判もできない難しい立場にある。高市早苗首相は国会答弁で「イランによる核兵器開発は決して許されない。交渉を含む外交的解決を強く求める」と述べた。ただ、米国の軍事行動への論評は避けた。 米国は今回、国連安全保障理事会の決議なしに攻撃に踏み切った。トランプ氏は「差し迫った脅威」があったとしているが、その根拠は不十分との見方が多い。 国際法に基づかない武力の行使が許されれば、世界各地で力による衝突が繰り広げられてしまう。日本の領土・領海が力ずくで奪われる危険性も高


朝雲寸言(2026年3月12日付)
日本人の祖先がどこから来たのかは諸説あっていまだ解明されていない。しかし日本人の祖先となる集団のひとつが何万年もの長い年月を経てユーラシア大陸を東進して極東の島国にたどり着いたことはほぼ間違いない。 その地には気候温暖で四季があり、海と山に囲まれた島々からなる豊かな住処であった。しかし同時にその地は火山噴火、台風そして大きな地震が起こる自然災害の多いところでもあった。 太古の日本人たちは自然の恵みに感謝しつつ毎年のように訪れる自然の脅威に立ち向かった。集団が部族になり小国家となり、やがて古代の日本が形成されていった。 3月11日に起きた大震災の日から15年の月日が流れた。しかしあの日あの時のことは今も忘れることが出来ない。千年に一度という地震と津波によって街が壊され、人々の命が奪われ、そして家族の絆が分断された。 しかし多くの日本人は土地を捨てなかった。長い旅路の果てにたどり着いた日本列島は最後の到達点であり、祖先が開き守り抜いた土地であったからである。 日本人が共通して持つという集団としての規律、協調性、忍耐、自然に対する畏怖と崇拝は長い年月の
時の焦点<海外> 米、イラン攻撃
核兵器排除など4目標 2026年2月28日、米国とイスラエルは対イラン攻撃を開始した。イスラム専政の指導部を壊滅状態にし、ペルシャ(イランの旧称)国民に自由へのチャンスを与えた日になる。 1979年のイスラム革命で、親西側のパーレビ政権は崩壊。革命政権は同年11月4日に在テヘラン米大使館員52人を人質にし、レーガン政権発足まで444日間、拘束した。以来、約50年間、イランは米国など西側を標的に世界各地でテロを続け、米軍要員869人を殺害した。 米国はついに反撃に出た形で、「イランとの戦争を始めたのは米国ではないが、米国はそれを終わらせる」(ヘグセス国防長官)ということだ。 同長官とケイン統合参謀本部議長が3月2日の記者会見で、今戦争の4つの目標を明らかにした。(1)核兵器を製造する可能性の完全排除(2)米、欧州、湾岸同盟国に到達し得る弾道ミサイル製造能力の除去(3)海洋上の脅威と国民への暴力の排除(4)中東の同盟国および世界に展開する米国軍民要員への脅威の除去――。 ヘグセス長官は、政治体制の変更はイラン国民の役割だと言明。米国は4つの目標を達成
時の焦点<海外> 米一般教書
ドンロー主義の正体 史上最長の1時間48分に及んだトランプ米大統領の一般教書演説(日本時間2月25日)だったが、11月の中間選挙を意識してか経済や治安、国境管理などに大半が割かれ、国際情勢に触れたのは開始から実に1時間以上たってからだ。 それもベネズエラのマドゥロ前大統領拘束作戦の成功や、北大西洋条約機構(NATO)に国防費の国内総生産(GDP)比5%支出をのませた話など、既視感のある自画自賛ばかり。「どの国も世界一の軍事力を持つ我々の決意を疑ってはならない」と凄んだ「力による平和」が、あえて言えば国際社会への唯一のメッセージだった。 各国が耳をそばだてていたのは、昨年12月の国家安全保障戦略(NSS)や今年1月の国家防衛戦略(NDS)の中核を占める本土・西半球中心主義と対中抑止・同盟国の負担強化などに、トランプ大統領がどう踏み込むのかだった。その意味では肩透かしだったわけだが、見方を変えればいわゆる「ドンロー主義」なるものの正体が、はからずも見えてきた演説だったとも言える。 建国後の米外交の基調となってきたモンロー主義は19世紀初頭、第5代モン


朝雲寸言(2026年3月5日付)
若者言葉に勢いが足りない。昨年の若者の流行語は「〇〇界隈」「エッホ、エッホ」などだった。「〇〇界隈」は「人付き合いキャンセル界隈では」といった使い方。地理的概念が団体概念に転じている。こぢんまりしている上、何ともじじくさい。「エッホ、エッホ」はSNS上ではやった。「よいしょ、よいしょ」の感覚に満ちている。 ひところはどうだったか。接頭辞として「超」「鬼」「神」をつけ、言葉を強調する。関西弁の「めっちゃ」も加わり、これらは今や「市民権」を得ている。 1990年代のコギャル文化では「最低」と言わず、「チョベリバ」(超ベリー・バッド)と言ってのけた。当時、都内の電車で高校生女子が「ワタシのマイブームなんだけど、今日CCBなんだよね」「何それ?」「コンディション、かなり、バッド」。共有できるレベルをはるかに超えていた。 言語学者は言葉の乱れを嘆くのだろう。しかし、中高生女子たちによる、歴史もルールも蹴散らす恐るべき破壊力はダダイズム的ですらあり、輝かしい。ここに未知の表現の原野が広がっているかもしれないからである。多様な豊かさも感じさせる。...
時の焦点<国内> 竹島の日
韓国への働きかけ続けよ 首脳同士が頻繁に往来し、防衛分野での協力も緒に就くなど、日韓関係は改善基調にある。その一方で領土問題が前進する気配は見えない。重要な隣国であるからこそ、政府は竹島が日本固有の領土であることを、粘り強く韓国に伝えていく必要がある。 2月22日、島根県などが主催する「竹島の日」の記念式典が松江市で開かれた。内閣府の古川直季政務官が出席し、竹島問題の解決を目指す政府の方針を改めて示した。 式典は島根県が1905年に県が竹島を編入した日にちなんで開催されてきた。今回で21回を数える。竹島が、国際法上も歴史的にも日本固有の領土であることは論を待たない。韓国は日本が竹島を編入する際、異議を唱えなかった。戦後のサンフランシスコ平和条約でも、日本が放棄すべき地域から除かれている。 だが、条約の発効直前、韓国は「李承晩ライン」を一方的に設定し、竹島の不法占拠を開始した。竹島が領土であるとの韓国の主張には、正当性はない。 日本は江戸時代初期には竹島の領有権を確立していた。証拠となる資料も数多い。2年前には、鳥取県米子市の複数の商家が幕府の許可


第122回 バルト三国訪問記(1) ―バルト三国の冬は厳しい―
凍結したダウガバ河の河岸に立つ筆者 1月に防衛企業の方々とバルト三国を訪問し、国防省や北大西洋条約機構(NATO)の研究センター、政府のサイバー防衛部局、スタートアップ防衛企業などを訪問してきました。
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