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朝雲寸言


朝雲寸言(2026年5月21日付)
「子ども食堂」が増えている。子どもたちに無料または低額で食事や温かな居場所を用意する社会活動で、その拠点でもある。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」によると、全国に1万2602カ所(2025年度)あるという。 10年代前半から急増。森沢明夫氏の小説『おいしくて泣くとき』が原作の映画なども作られ、認知度を高めている。年間の延べ利用者数は約2533万人。近年、お年寄りらも多く、孤食回避などの役割も担う。地域社会のインフラと言っていい。 ただ、約8割が非営利の民間団体による運営。調理や子の見守りなどはボランティア頼みだから、運営人材の高齢化や固定費(家賃など)の捻出などが問題になる。レッテル貼りを恐れて困窮家庭の子どもの足が遠のく一方、余裕ある家庭の利用が目立つ現状もあり、支援到達度も課題だ。 「民」の限界には「公」が乗り出すべきなのだが、「こども家庭庁」などは何をしているのか。公平性から自治体などを通じての間接的支援にとどめるというが、明確な旗振りができないものか。 子ども食堂は、互助精神の賜物(たまもの)である。民間の善意による


朝雲寸言(2026年5月14日付)
陸上自衛隊の装備品に84ミリ無反動砲という火砲がある。別名カール・グスタフ、スウェーデンが開発した肩撃ち式の無反動砲である。主として普通科部隊などが対戦車火器として使用するほか、地域目標の制圧、照明および発煙など軽量で操作容易な火砲である。 スウェーデンは1814年のナポレオン戦争終結後、国家の政策として中立を維持してきた。一方でスウェーデンは武器輸出国としても知られている。独自の運用構想に基づくグリペンと呼ばれる戦闘機や対空機関砲・無反動砲や哨戒艇などが有名で多くの国で使用されている。 平和的な中立国家でありながら積極的に武器を輸出するという政策は大いなる矛盾ともいえる。2024年のスウェーデンの1人当たりの武器輸出額は過去最高を記録し世界第3位となった。武器輸出は国際紛争を助長するという主張がある半面、自国の国防費を抑制し地域の抑止力を向上させるという側面がある。 それでもスウェーデンはロシアのウクライナ侵攻を受けてNATOへの加盟を決定した。200年間続いた中立政策の大転換である。中立を維持するのも他国と同盟を結ぶのも国家にとっては相応の覚


朝雲寸言(2026年5月7日付)
まぶしい青葉、道行く半袖姿の人々、入社したての新入社員。街にフレッシュな風が吹いている。だが、足元には不穏な動きも見える。 本人に代わって辞意を伝える「退職代行サービス」である。サービスが入社当日に始動した例もある。中には弁護士法に抵触する「非弁行為」の疑いがもたれる業者もいるという。便利で効率的なサービスの落とし穴だ。 もちろん、心身を病むような職場からは一も二もなく離れる必要がある。辞めさせない企業も厄介だ。サービスが力を発揮する場面かもしれない。 そもそも転職自体に非はない。充実した人生のための転職は、自己決定権の範疇(はんちゅう)にある。より高いポストや収入を求めて古巣から旅立つ層は、むしろ頼もしい。 だが、「思っていた仕事と違った」「なんとなく上司がうざい」という程度の所感からであれば、立ち止まるべきだ。そんな時、代行サービスを使おうものなら、どこかこそこそとした退職にならないか。その後の人生にプラスとは言えまい。 サービス利用で晴れて退職できたとして、次の会社は本当に好きな仕事をさせてくれるのか。結局、何度も利用する羽目にならないか。


朝雲寸言(2026年4月23日付)
2016年4月、熊本県で地震が発生した際に動物園からライオンが逃げ出したという情報が画像付きでSNSに投稿された。投稿は1万回以上リポストされ、動物園には問い合わせの電話が殺到した。 24年8月、水平に広がる「地震雲」と呼ばれる雲の画像と共に「巨大地震が来る」と発信された偽情報が拡散した。南海トラフ地震の臨時情報が発表された直後のことだった。 雲が地震の前兆となることはない。しかし偽情報は瞬く間に日本各地に広まった。まさにSNSの広がりの凄さを認識させられた出来事だった。 ユネスコは偽・誤情報を三つに区分している。(1)偽情報:個人、社会、組織または国に危害を与えるため、虚偽かつ故意に作成された情報(2)誤情報:虚偽の情報であるが危害を引き起こす意図で作成されたものでないこと(3)悪意ある情報:事実に基づく情報を個人、組織または国に危害を加えるために使用すること。 認知戦とはSNSやAI技術を駆使して敵対国や世論の「認識・心理・感情」に働きかけ、物理的な戦闘なしに相手の意思決定や行動を自分に有利な方向へ誘導する戦略的な情報戦をいう。現代の戦争は私


朝雲寸言(2026年4月16日付)
「散る桜 残る桜も 散る桜」(良寛)。桜が散り始めている。日本人は平安期ごろから桜を愛(め)でて盛んに和歌を詠み、咲く姿、散る姿に無常観も投影してきた。 中世の鴨長明「方丈記」や「平家物語」、それ以降の多くの作品にも無常観が底流している。▽西洋の「石の文化」に対し、東洋は「木の文化」といわれる。ギリシャのパルテノン神殿は残りやすく、日本の神社仏閣はそのままでは残りにくい。 松浦晃一郎氏が第8代ユネスコ事務局長だった2006年から、ユネスコの「無形文化遺産」制度が始まった。アジア初の事務局長という意気込みもあったのだろう。有形の「世界遺産」だけでなく、世界の伝統芸能や祭、技術といった無形の文化財に光を当てようとした。慧眼(けいがん)である。 松浦氏がこの制度を主導した内心には、無常観に裏打ちされた日本人的心性が宿っていたはずだ、とみるのは穿(うが)ち過ぎだろうか。同氏と直接言葉を交わした際、この点については明言を避けていた。が、無常を肯定的にとらえる姿勢は否定しなかった。世は常ならず。無常は希望の母ともなり、絶望の母ともなる。対立するものが、あざな


朝雲寸言(2026年4月9日付)
陸上自衛隊が所在する場所を「駐屯地」と呼ぶ。一方で海上自衛隊や航空自衛隊が所在する場所は「基地」である。なぜ呼び方が違うのか疑問を持つ方も少なくない。 両者を英語にするとわかりやすい。駐屯地とはCAMP(キャンプ)であり、一時的な場所を表している。基地とはBASE(ベース)であり、平素から有事を通じて永続的に所在する場所を表す。 陸上自衛隊の部隊配置は、災害派遣への対応や平素の教育訓練、隊務運営を考慮して我が国の行政区に応じて配置されている。いったんことが起これば、陸上自衛隊の部隊は駐屯地を離れ、作戦目的に応じて機動的に運用される。師団や連隊は一定期間、野外で独立的に行動することが基本なのである。 しかし、港湾や飛行場などの特別な機能が必要な海上・航空自衛隊の所在地は、平時から有事を通じて戦力発揮の基盤であり、継続的に所在部隊や来援する艦艇や航空機を支援する。 先日、陸上自衛隊健軍駐屯地に25式地対艦誘導弾が、また富士駐屯地に25式高速滑空弾が配備された。射程1000キロ超と言われる誘導弾は、いわゆる反撃能力を具体化する装備品で我が国の抑止力向上


朝雲寸言(2026年4月2日付)
「推し活」という言葉を聞いたことがあるだろうか。アイドルやアニメのキャラなど「推し」と呼ばれる存在を応援し、お金や時間、感情を投じる行為だ。 財務省広報誌「ファイナンス」によると、昨年時点で15~79歳の3人に1人が推しを持つらしい。民間の調査・研究機関「推し活総研」のデータでは年間4兆円規模の市場に急成長している。選挙すら推し活の構図に取り込まれているともいう。 打ち込む対象があるのは悪くない。知人の60代女性も最近アイドルの推し活に目覚めた。推しの話に目を輝かせているから、一種の若返り効果があるのかもしれない。 しかし、推しが人の場合、引退やスキャンダルなどの否定的変化が生じると、尋常ではない落胆につながる。別の推しに転戦できればよいが、そうできないこともよくある。すると、情熱が燃え尽き、自己が空洞化してしまうとの精神医学上の指摘も出ている。 推しのコミュニティーの同調圧力で、楽しみが義務となって疲弊するケースもある。推しに恋人ができようものなら喪失感は容易に攻撃性に転じ、SNSで誹謗(ひぼう)を垂れ流すことになりかねない。...


朝雲寸言(2026年3月26日付)
南北朝時代の若き公家武将北畠顕家の戦いを描いた小説がある。その冒頭近く主人公が陸奥守任官として東北に赴く場面に以下の文章がある。「(任地に赴く指揮官が)最初に戦わなければならない相手は配下につけられた諸将である」。 新任地に赴任する指揮官には克服しなければならない相手が三つあるという。一つ目はいつか戦うであろう敵である。二つ目は任地とその地域に生きる人々である。そして三つ目が指揮する部隊の隷下部隊長である。 今年も年度末の人事異動で多くの部隊長が着任された。初級幹部時代から自己研鑽(けんさん)を積み、要職を経て勇躍新任地に赴任された指揮官の方も多いであろう。新指揮官を迎える部隊も今度の指揮官がどんな人物なのか期待と不安を抱いていることだろう。 実力集団を任された指揮官に与えられた期間はおよそ2年、決して充分な時間ではない。その短い在任期間で部隊を鍛え、地域との連携を深め、有事即応の態勢を維持する責任が指揮官にはある。 ナポレオンの格言として知られる狼と羊の例え話は部隊が指揮官次第で良くも悪くもなるという組織運営の大原則である。...


朝雲寸言(2026年3月19日付)
いきなりだが、「遅さ」に効用はあるのかと、のろまな筆者は昨今よく考える。早い報告・連絡・相談、メールへの即返信、素早くこなすこと。世間で偏重されるのは「早さ」である。 だが、相手の発言に即答するパターンは往々にして相手のペースにのまれ、自らを見失う。頭の回転の早さを過信し、怒る相手の話を遮って言葉を被せれば、余計に紛糾する。 いずれも、深呼吸で一拍置いてから相手に接する「遅さ」を訓練することで、自身を喪失や混乱から守ることにつながるのではないか。ビジネス界で盛んに言及される「マインドフルネス」の眼目もここにありそうだ。 三島由紀夫が自著「文章読本」で触れているが、仏文芸評論家ティボーデは小説の読者を「リズール」(精読者)と「レクトゥール」(普通読者)に大別した。小説世界に自ら生きるように読む「リズール」、手あたり次第に読む「レクトゥール」。「リズール」の読む速度は当然遅く、理解は深い。 屈指の名門校として知られる灘中学校ではかつて、中勘助著「銀の匙(さじ)」一冊を3年間かけて味読する、橋本武氏による国語授業があった。「リズール」への教導だ。全読者


朝雲寸言(2026年3月12日付)
日本人の祖先がどこから来たのかは諸説あっていまだ解明されていない。しかし日本人の祖先となる集団のひとつが何万年もの長い年月を経てユーラシア大陸を東進して極東の島国にたどり着いたことはほぼ間違いない。 その地には気候温暖で四季があり、海と山に囲まれた島々からなる豊かな住処であった。しかし同時にその地は火山噴火、台風そして大きな地震が起こる自然災害の多いところでもあった。 太古の日本人たちは自然の恵みに感謝しつつ毎年のように訪れる自然の脅威に立ち向かった。集団が部族になり小国家となり、やがて古代の日本が形成されていった。 3月11日に起きた大震災の日から15年の月日が流れた。しかしあの日あの時のことは今も忘れることが出来ない。千年に一度という地震と津波によって街が壊され、人々の命が奪われ、そして家族の絆が分断された。 しかし多くの日本人は土地を捨てなかった。長い旅路の果てにたどり着いた日本列島は最後の到達点であり、祖先が開き守り抜いた土地であったからである。 日本人が共通して持つという集団としての規律、協調性、忍耐、自然に対する畏怖と崇拝は長い年月の


朝雲寸言(2026年3月5日付)
若者言葉に勢いが足りない。昨年の若者の流行語は「〇〇界隈」「エッホ、エッホ」などだった。「〇〇界隈」は「人付き合いキャンセル界隈では」といった使い方。地理的概念が団体概念に転じている。こぢんまりしている上、何ともじじくさい。「エッホ、エッホ」はSNS上ではやった。「よいしょ、よいしょ」の感覚に満ちている。 ひところはどうだったか。接頭辞として「超」「鬼」「神」をつけ、言葉を強調する。関西弁の「めっちゃ」も加わり、これらは今や「市民権」を得ている。 1990年代のコギャル文化では「最低」と言わず、「チョベリバ」(超ベリー・バッド)と言ってのけた。当時、都内の電車で高校生女子が「ワタシのマイブームなんだけど、今日CCBなんだよね」「何それ?」「コンディション、かなり、バッド」。共有できるレベルをはるかに超えていた。 言語学者は言葉の乱れを嘆くのだろう。しかし、中高生女子たちによる、歴史もルールも蹴散らす恐るべき破壊力はダダイズム的ですらあり、輝かしい。ここに未知の表現の原野が広がっているかもしれないからである。多様な豊かさも感じさせる。...


朝雲寸言(2026年2月26日付)
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始したのは2022年2月24日早朝のことである。戦争は5年目に突入した。侵攻開始当時、戦争がこれほど長期にわたることを予測した専門家は小欄も含め少なかった。ロシアとウクライナの戦力差が歴然であったからである。 戦争の長期化は国力を衰退させる。それが大国の場合、世界に与える影響は甚大である。米国の場合、ベトナム戦争は8年に及んだ。長引く戦争は結果的に米国の絶対的な経済・軍事的優位を低下させ米国衰退の始まりをもたらした転換点となった。 ソ連の場合、1978年のアフガニスタンへの軍事侵攻は11年に及んだ。この戦争がなくともソ連は崩壊したかもしれない。しかし戦争がソ連崩壊を加速させたことは間違いない。 ウクライナ戦争の場合、ロシアにはソ連時代からの装備品・弾薬の大量の備蓄があった。だが、4年が経過しロシアの兵器備蓄は物理的限界に近付いている。何より増え続ける人的損耗はロシアを着実に苦しめているように見える。 そしてウクライナ戦争は我が国の安全保障に多大な影響を及ぼした。ドローン兵器、サイバー、宇宙、電磁波領域などの新しい脅


朝雲寸言(2026年1月29日付)
2023年、国土地理院は日本列島の島の総数は1万4125島であると発表した。小欄の記憶によれば日本の島嶼の数は約6800島だったはずである。領土に大きな変化がない限り倍以上増えることはないはずだ。気になったので調べてみた。 過去の島嶼数は海上保安庁が1987年に調査した時のものだ。当時の海図や地図に基づいて数えたもので自然に形成され満潮時に水面上にある陸地が対象だった。 現在の島嶼数は国土地理院が航空写真や衛星画像を用いて周囲長100メートル以上の自然の陸地を数えた結果で、国土面積や領土・領海に影響を与えるものではなく数え方の精度が上がったことによるものである。 日本が島国であることは理解していたが我が国土がこれほど多くの島々から成り立っていることに改めて気づかされた。しかし海洋国家としてこれらの島々を上手く活用しているかと問われると疑問が残る。 現在、住民が居住する有人島は417島で継続的に減少し続けている。日本全体が人口減少局面に入ってからは減少速度が本土を大きく上回っているという。 離島は我が国の海洋資源確保の観点から重要な価値を有する。さ


朝雲寸言(2026年1月22日付)
町の書店が減り続けている。1960年代をピークに漸減し、2000年代に入ってからの落ち込みが激しい。 一時期、2万店以上あったが、全国出版協会や出版科学研究所などの調べでは1万417店(2024年現在)。「書店ゼロ」の自治体数は全国1741市区町村の約27%超を占める(出版文化産業振興財団調べ)という。 そもそも圧倒的にもうからない。書籍の定価に対する利益率(粗利率)は出版社60~70%、取次約7~8%、書店約22%。家賃、人件費など運営経費を差し引いた営業利益率はわずか0~0,5%ともいわれる。 追い打ちをかけているのが、紙媒体離れの風潮だ。アマゾンで本や漫画を買い、スマートフォンで読む。読まないという活字離れも進む。 一方、苦境から新種が生まれている点も見逃せない。棚ごとに個人が店主となる「シェア型書店」、カフェを充実させ雑貨も販売する「ブックカフェ・複合型書店」、アートなどのジャンルを設ける「専門特化型・コンセプト書店」…。「蔦屋書店」や「大垣書店」などを思い浮かべてほしい。 新種の業としての成立を願うのはもちろんである。さらには書籍販売の


朝雲寸言(2026年1月15日付)
米国第5代大統領ジェームズ・モンローが欧州と南北米大陸の相互不干渉政策を打ちだしたのは1823年、今から200年以上前のことである。以来、米国は欧州の紛争に巻き込まれることを回避する一方で欧州各国の米大陸への介入を排除し中南米に対する勢力の拡大を図った。 1902年セオドア・ルーズベルト大統領は英独伊によるベネズエラ干渉を調停し、パナマの独立を支援し、ドミニカ共和国の保護国化など、こん棒外交と呼ばれる一連の外交政策によって南米への拡大関与政策を展開した。 特に大西洋と太平洋を結ぶパナマ運河を開通させ南北米大陸における制海権・通商権を完全に掌握して中南米諸国に対する支配と圧力を高めた。 その後、ウィルソン大統領の宣教師外交、フランクリン・ルーズベルト大統領の善隣外交と名前を変えながらも中南米は米国の裏庭であるという認識は変わることなく今日まで続いている。 新年が明けて3日、トランプ大統領はベネズエラの首都カラカスに対し大規模な軍事作戦を遂行してマドゥロ大統領夫妻を拘束し米国に移送・収容した。実は米国は1989年、パナマ侵攻作戦で同様の軍事作戦を遂行
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