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朝雲寸言(2026年4月16日付)

  • 4月16日
  • 読了時間: 2分

更新日:5月13日


「散る桜 残る桜も 散る桜」(良寛)。桜が散り始めている。日本人は平安期ごろから桜を愛(め)でて盛んに和歌を詠み、咲く姿、散る姿に無常観も投影してきた。


中世の鴨長明「方丈記」や「平家物語」、それ以降の多くの作品にも無常観が底流している。▽西洋の「石の文化」に対し、東洋は「木の文化」といわれる。ギリシャのパルテノン神殿は残りやすく、日本の神社仏閣はそのままでは残りにくい。


松浦晃一郎氏が第8代ユネスコ事務局長だった2006年から、ユネスコの「無形文化遺産」制度が始まった。アジア初の事務局長という意気込みもあったのだろう。有形の「世界遺産」だけでなく、世界の伝統芸能や祭、技術といった無形の文化財に光を当てようとした。慧眼(けいがん)である。


松浦氏がこの制度を主導した内心には、無常観に裏打ちされた日本人的心性が宿っていたはずだ、とみるのは穿(うが)ち過ぎだろうか。同氏と直接言葉を交わした際、この点については明言を避けていた。が、無常を肯定的にとらえる姿勢は否定しなかった。世は常ならず。無常は希望の母ともなり、絶望の母ともなる。対立するものが、あざなえる縄のごとく去来する。思えば、古代オリエント史などを眺める時、人の世では、いにしえより、戦争と平和が繰り返されてきたことを思い知らされる。


桜が散っていく。日本人のこまやかな感性や悠久の歴史への思いは尽きない。「さまざまの 事おもひ出す 桜かな」(芭蕉)


(2026年4月16日付『朝雲』より)

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