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朝雲寸言(2026年6月18日付)

6月17日
読了時間: 2分

梅雨の季節である。じめじめとした鬱陶(うっとう)しさは例年通りだが、梅雨は日本文化に欠かせないファクターであることも事実だ。


まずもって、梅雨は和歌の題材だった。小野小町の「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせし間に」は、「降る」と「経(ふ)る」、「長雨」と「眺め」(物思いに沈むこと)の掛詞(かけことば)が秀逸。「五月雨を あつめて早し 最上川」という芭蕉の名句も、長雨なしでは成立しなかった。


近代以降も梅雨は日本人の美意識を刺激する。谷崎潤一郎の「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」では、厠(かわや)で耳にするしめやかな雨音を風雅の一つとして捉える。軒端を湿らす長雨の柔らかな感触。深緑は一層色を濃くする。永井荷風の「ボク(ぼく)東(とう)綺(き)譚(だん)」は、6月末のある日、夕立の中、男の傘に女が突然駆け込んでくるという、錦絵のような出会いの場面を描く。「つゆのあとさき」は、銀座のカフェーの女給を取り巻く腐敗した世相やはかなさのメタファーとして「つゆ」を扱う。


お茶屋に着いた芸妓(げいぎ)。雨滴を払い、傘をたたむそのつかの間、どんな思いが兆すのか。歌舞伎の思い入れのような内省の時。しっとりとした感情の濃淡が雨の多少に応じて移ろうようだ。どこからか三味線の音色があいまいに聞こえてくる。


梅雨に、これら鍾愛(しょうあい)すべき光景を重ねてみる。すると、世知辛い世に経る、ふだんはせわしない人々の動きを眺めた時でも、いくらかの情緒や風情を感じられるようになるかもしれない。


(2026年6月18日付『朝雲』より)

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