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日米の中国研究―歴史・現状・比較 海を挟んだ隣国の通商・安全保障などを徹底解説 國分 良成(前防衛大学校長)

2024年4月16日更新


國分 良成(こくぶん・りょうせい)
 1953年生まれ。81年慶應義塾大学大学院博士課程修了後、同大学法学部専任講師、85年助教授、92年教授、99年から2007年まで同大学東アジア研究所長(旧地域研究センター)、07年から11年まで法学部長。12年4月から21年3月まで防衛大学校長。日本防衛学会会長。法学博士、慶應義塾大学名誉教授。この間、ハーバード大、ミシガン大、復旦大、北京大、台湾大の客員研究員を歴任。専門は中国政治・外交、東アジア国際関係。著書は「中国政治からみた日中関係」(2017年樫山純三賞)、「現代中国の政治と官僚制」(2004年サントリー学芸賞)、「アジア時代の検証」(1997年アジア・太平洋賞特別賞)など。

 冷戦終結以降、国際社会で存在感を増していく中国。2010年に国内総生産(GDP)で日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位の経済大国となり、宇宙関連産業、人工知能(AI)、情報通信技術でも競争力を増大させる中国について、日米両国でもさまざまなレベルで研究が進められている。海を挟んだ隣国・日本と、通商、経済モデル、安全保障などで対立する米国の中国研究について、慶應義塾大学名誉教授の國分良成前防衛大学校長に比較、解説してもらった。

 戦前の日本の中国研究は一般に東洋史研究に包摂され、それは当時の世界の研究水準をリードしていた。例えば、京都帝国大学の内藤湖南教授は、中国史では西欧と異なる時期区分が可能であり、西欧的な意味での「近世」は中国においては早くも宋代に経験されていたと主張した。「唐宋変革論」あるいは「宋代近世説」がそれであり、今なお世界の中国史研究における有力な学説の一つとして君臨している。

 また、戦前の現状分析としては満鉄調査部などによる実地調査が有名だ。これは植民統治のための調査研究ではあったが、旧満洲を中心に農村社会に関する詳細な実態調査が行われていた。住みにくくなった日本を離れて満洲に渡ったマルクス主義者たちも、階級分析の手法で満洲の農村社会を調査するなど比較的自由に研究に従事したのであった。戦後、こうした研究成果の史料的価値に気付き、日米の研究者たちが競って活用するようになったが、その多くは今なおロシアのどこかの倉庫に眠っているはずである。

文革―中国研究の分岐点

 戦後の日本の中国研究は、東洋史学の伝統を汲む歴史学者、アジア主義者、日本共産党系のマルクス主義者、そして米国に源流をもつ地域研究(areastudies)の方法論を身に着けた現実主義者などに分類できる。地域研究とは戦中の米国で敵国のドイツや日本を深く理解する目的で生まれた研究領域であり、戦後は冷戦と共にソ連・中国研究などに重点が移動した。語学教育の徹底やフィールドワークなどがその方法論として重視される。

 日本の中国研究の分岐点は1960年代から70年代にかけての文化大革命にある。戦前の贖罪意識もあり、日本の多くの研究者たちは新中国の誕生に好意的な傾向があった。しかし、文革の勃発と共にその内実に触れ、歴史学者や文学者などの多くは現代中国を論ずるのを避けるようになった。また66年に訪中した日本共産党の宮本顕治代表団は、反ベトナム戦争の統一戦線においてソ連と連携するかどうかで毛沢東と激しい論争に陥り・・・

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