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コラム


朝雲寸言(2026年7月9日付)
「ヤルタからマルタまで」という成句は冷戦の始まりと終わりを表している。ヤルタ会談は1945年2月、マルタ会談は89年12月、冷戦の期間はほぼ半世紀である。 振り返れば米ソが対立していた戦後の半世紀は比較的安定した時代であったと言える。この冷戦間に我が国は戦後復興を成し遂げ世界第2位の経済大国に成長した。世界が混乱していれば我が国の高度成長は違ったものになっていただろう。 明治維新以降、軍拡と領土拡張を通じて世界の列強に肩を並べようとしていた我が国は敗戦後、国家の姿勢を180度変換した。日米同盟の下で平和で豊かな国家を目指したのである。 しかし今、時代は大きく変わった。冷戦という大きな枠組みは崩壊し多様で不安定な対立と混乱の時代に我々は生きている。 それでもいまだに時代の変化を認識しない人々が多くいる。安定した過去に固執し厳しい現実を見ようとせず変化を拒絶する人々がいる。 人の意識が変わることは難しい。企業や組織が衰退する最大の要因は過去の成功に溺れ変化を受け入れ ようとしない人々がいるからだと言われている。環境の変化に適応するためには世代交代とい


時の焦点<海外> 交渉パターン
米「合意」、イラン否定 米・イラン交渉を眺めていると、確たるパターンの存在に気付く。米側が「合意」と発表すると、イランは否定。あまりに頻繁なので、米国が意図的にミスリードしているのか、抵抗を続ければ強さの証明になるとイランが勘違いしているのか。 最新例その1―。バンス米副大統領は6月24日、プレス向け声明で「米国は、交渉に進展があればイランの凍結資産の一部解除に同意した。資金は米農産物の購入に充てられる」と確認。トランプ大統領が23日、自身のSNSで、解除された資金は米国産物資の購入に使用されると発表していた。 しかし、イランのガリバフ国会議長とヘンマティー中央銀行総裁は23日、直ちに「イランは米国産品を購入する義務はない」と合意を否定し、トランプ氏に反論した。 その2―。両国は21日にスイスで交渉を開始。しかし、イランはトランプ氏が同国を威嚇したとして協議を離脱したとの一部報道。バンス氏はフェイクニュースと説明したが、イラン代表団は自国メディアに「威嚇は覚書の第1項目に違反」とし、協議離脱をPR。 その3―。「イランは核査察の受け入れに同意した


時の焦点<国内> 国会空転
重要法案を蔑ろにするな 国会が空転していたら、象徴天皇制の根本に関わる法改正や、民主主義の土台に影響を与える議員定数の削減案など、重要法案の審議がないがしろにされかねない。与野党は、国民の負託に応えることを最優先に事態を打開すべきだ。 7月17日の今国会の会期末に向けて、与野党の駆け引きが激化している。与党は皇室典範改正案のほか、衆院議員定数削減法案、副首都構想の関連法案を成立させたい考えだが、野党は定数削減や副首都構想に反発し、審議を拒否した。 いずれの案件も丁寧な審議が欠かせない。十分な審議時間を確保するため、国会を延長するのは一案だろう。 政府・与党が最も重視しているのは、皇室典範改正案だ。改正案は、戦後に皇籍を離れた旧11宮家の男系子孫である一般男性を皇族の養子に迎えて皇族とする仕組みと、女性皇族が結婚後も皇室に残る制度が柱だ。ただ、いずれも問題を抱えている。 改正案では、養子本人には皇位継承資格を認めない一方、養子が皇族となった後に生まれた子が男子なら継承資格を持つ、という規定を設けた。政府内では旧宮家の男性が皇族の養子となった後、一般


<春夏秋冬> ワシントンDC(その一) 鈴木敦夫
1989年7月、1年間を条件に防衛庁から留学させてもらえるという幸運を得た。行き先は米国ワシントンDCにあるジョージタウン大学。その後出張で何十回と訪れるDCであるが、この時が初めてであった。 当時は、日米貿易摩擦の真っただ中、日本企業によるロックフェラー・センター買収、防衛面ではFSX(次期支援戦闘機)を巡る日米交渉など、良きにつけ悪しきにつけ、日本・日本人が米国で大変注目されていた。当時の私でも入学が許可されたのはこうした背景があると思う。 大学では国家安全保障学修士を取得できたが、国際関係論や外交史だけでなく、防衛に関する講座の充実ぶりも私には極めて新鮮であった。ただし、末期とは言え冷戦中である。米国以外の地域研究は、少数の中南米の講義を除けば、ほぼソ連に関するものばかり。ソ連軍の軍事ドクトリン、ソ連の対東欧外交政策、WTO(世界貿易機関ではなくワルシャワ条約機構である)。まだ、少なくとも安全保障面では、中国も北朝鮮も登場していなかった。中国は同年6月に天安門事件を起こしたばかりである。当時のジョージタウン大学の名物教授の一人に、後に国務長


朝雲寸言(2026年7月2日付)
「だって言うじゃない、被害者にも非があるって。だまされる側も悪いということよ」。何げない日常、公然と大声でなされた喫茶店での会話である。筆者は発言の主である50代女性の顔をまじまじと見てしまった。 これから詐欺まがいのことでもしでかすのかという勢いがあった。事後に起きる非難の声を予防しようとしているかのようだった。 では、問いたい。例えば北海道旭川市で起きた女子高校生殺害事件について、被害者の女子高校生にも非はあったと思うのか。いじめを受ける小学生、ドメスティックバイオレンスを受ける妻、子ども、夫らに落ち度を勘ぐるのか。自死に追い詰められる多額詐欺の被害者を自業自得と白眼視するのか。殺害されたり心身を害されたりだまされたりするべき理由のある人間は誰一人いない。 心理学の「公正世界仮説」によれば、人は「世界は安全・公正だから被害者にも何か原因があったはずだ」と無意識に捉えてしまうのだそうだ。被害者非難を助長する陥穽(かんせい)である。 おぞましい心理的バイアスはSNSで異常に肥大化し、普通の倫理感覚を駆逐しがちである。いつの間にか加害行為の可罰性は


前事不忘 後事之師 第126回 中国人民解放軍
今から20年以上前のことですが、当時の石破茂防衛庁長官が訪中し、曹剛川国防部長と会談されました。防衛庁の広報課長だった私も随行しましたが、とても興味深いことがありました。 中国側の接遇によって、人民解放軍の陸、海、空の部隊を視察する機会があり、北京近郊の陸軍部隊を訪れた時のことです。解放軍が保有している装備品を見せるのだろうと想像していたところ、旧式の戦車を見せたのは視察の最後で、冒頭に見せたのはなんと解放軍が経営している養豚場とハム工場でした。 中国側の説明によれば、人民解放軍はその創設以来、「民衆から略奪しない、民衆から借りたものは返す、農作物は傷つけない」という「三大規律」を定め、この規律を実践するため、解放軍は軍隊であると同時に生産組織とのことです。 実際、解放軍は農業、畜産、衣料生産、兵器の簡易製造や修理、医療などを自ら行っています。私は建軍以来の伝統を維持していることに感心しましたが、歴史は、良き動機から始められたことがしばしば時代の経過と共に悪弊に変わることを教えています。 人民解放軍もこの教えに従ったようです。1980年代の鄧小平


時の焦点<国内> 宇宙政策と防衛
監視機能を強化せよ 航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に改編するための改正防衛省設置法が成立した。 防衛省は速やかに新組織を発足させる。自衛隊の名称が変更されるのは、1954年の陸海空3自衛隊の発足以来、初めてのことだ。 2020年の発足当初約20人だった宇宙領域の専門部隊の名称は、今年度中に「宇宙作戦集団」となり、880人に増員される。 空自が任務を宇宙に広げるのは、中国やロシアが他国の宇宙システムを妨害する「キラー衛星」などの能力を高めているためだ。キラー衛星は相手国の衛星をロボットアームで妨害したり、電磁波などで無力化したりする。 中露両国はキラー衛星の開発を進め、衛星同士を近づける実験を繰り返している。中露はまた、それぞれ自国の衛星を他国のものに見立ててミサイルで破壊する実験を行い、攻撃の有効性を確認したようだ。 日本の衛星が攻撃されれば、国民生活の機能が損なわれるだけでなく、衛星による監視・偵察を通じた自国の防衛もおぼつかなくなる。キラー衛星などへの抑止力を高めることは不可欠だ。 自衛隊は23年から、宇宙領域把握(SDA)と呼ばれる任務を実施し


時の焦点<海外> 米イラン合意
中東「Gゼロ」の世界 今年初め、国際政治学者のイアン・ブレマー氏率いる「ユーラシア・グループ」が世界10大リスクのトップに掲げたのは「米国の政治革命」だった。トランプ米政権による制度や秩序の破壊のことである。一年の半ばを過ぎ、それは想定を超えて世界中を侵食しつつあるように思える。 冷戦期の米露のような国際秩序を担う中核国家の不在を「Gゼロ」の世界と呼ぶブレマー氏は、トランプ米大統領のイラン攻撃が「中東を明白にGゼロへと突入させた。残りの世界も同じ道をたどるだろう」と予測する。 米イラン合意を受け、6月17日付の外交問題評議会ウェブサイトに寄稿し、米国がこれまで中東秩序で果たしてきた役割として (1)石油の安定的な流通 (2)イランと中国の影響力排除 (3)地域安保における欠かせない仲介者 の3つを挙げた上で、イラン戦争はそれらの破壊を加速させたと述べた。 同氏の見立て通りGゼロは現実化しつつあり、今の世界には国際的な安全保障を主導する国家も枠組みも見当たらない。米イラン合意と同じタイミングで開かれたG7サミット(主要7カ国首脳会議)は首脳宣言を出


<春夏秋冬> サッカーと戦争 酒井啓子
今年のワールドカップには、中東の国々が多く参加している。アジア枠が増えたせいもあるが、もともと中東諸国ではサッカーが盛んだ。イランはその代表格で、ワールドカップ初出場は1978年と日本より20年も早い。その後、今回を含めて6回も出場しており、98年の初勝利の相手が米国だったのは、不思議な縁だ。 イランと同様に長くサッカー大国だったのが、隣国イラクだ。ワールドカップ出場は86年だったが、その後湾岸戦争、経済制裁、イラク戦争、IS(イスラム国)の侵攻と、相次ぐ戦争や内戦で成績をあげるどころか、練習すらできない環境に置かれてきた。それが今年、40年ぶりの出場を果たしたことで、国内は歓喜に沸いている。 イラクのサッカーチームには、戦争の影が付きまとう。エースストライカーで、今回ノルウェー相手に初得点を挙げたアイマン・フセインは、父親をアルカイダに殺され、誘拐された兄弟は戻ってきていない。 一家の出身地はキルクークという世界有数の石油産出地で、アラブ人、クルド人、トルコマン人と異なる民族が住み、歴史的には民族間衝突も少なくなかった。少数派のアラブ民族である


朝雲寸言(2026年6月25日付)
「自衛隊に行く子は経済的に厳しい」。本国会における参議院決算委員会での野党議員の発言である。発言はすぐさま訂正され、大臣の指摘を受けて陳謝し撤回された。 しかし陳謝して撤回しようが議事録から削除されようが、その発言は人々の記憶に残る。SNSは瞬く間に拡散し、いわゆる炎上した。そのコメントの多くが自衛隊員に対する侮蔑または差別の発言ではないかというものであった。 小欄は自衛隊に入隊する若者が経済的に厳しい環境にあるのかどうか、具体的な統計資料を見たことがない。なぜなら自衛隊の受験要件に本人またはその家庭の経済状態は一切考慮されないからである。付け加えるならば、それは自衛隊に限らず全ての公務員の採用に共通することである。 確かに自衛隊への入隊動機に経済的な事情を挙げる人がいることは事実である。しかし志望動機が採用や入隊後の勤務に影響を及ぼすことはない。 自衛隊は創隊以来、幾度となく困難に直面してきた。はっきり言おう。それを乗り越えてきたのは外ならぬ自衛隊員自身の人知れぬ努力と献身に他ならない。 長沼判決で憲法違反と断じられようと、阪神淡路大震災で出動


時の焦点<国内> G7サミット
「成果」の実現を主導せよ 米国とイランが戦闘終結で合意した。多くの犠牲者を出し、世界経済を混乱させた戦闘を、ひとまず終わらせることを両国首脳が文書で確認した意義は大きい。今後は、核開発問題などの最終合意を締結できるかどうかに焦点が移る。エネルギーを中東に依存する日本は、中東の安定に向けて最終合意の実現を後押ししていきたい。 一方、仏東部エビアンで開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、昨年同様、包括的な首脳宣言の発出は見送られたものの、ウクライナ支援やエネルギーの安定供給などさまざまな分野で協力していく方針を各国首脳が確認した。 例えば、地域情勢に関する共同声明では、ウクライナへの「揺るぎない支持」を表明し、ロシアへの経済制裁を強化する方針が盛り込まれた。ウクライナに防空システムや長距離ミサイルを継続して供給していくことも明記された。 昨年のサミットでは、ウクライナ情勢に関する声明を出せなかった。当時、トランプ米大統領がロシア寄りの姿勢を示していたことが影響した。今回、あらためてウクライナを支える点でG7が足並みをそろえたことは評価でき


時の焦点<海外> 停戦60日間延長
米、「検証」を最重要視 トランプ米大統領は6月14日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、「イランとのディール(取引)が完了した」と発表した。 米軍によるイラン港湾の海上封鎖は既に解除され、ホルムズ海峡も開放されたと述べた上、「世界の船舶よ、エンジンを始動せよ、石油の供給だ!」と、いつものトランプ流儀で付け加えた。結果はすぐに現れた。石油の価格は下落し、株価は上昇した。 しかし、何より重要なのは、イランの核兵器保有は永久に交渉対象にはならないという実際の枠組みが初めて存在する点だろう。 現在はまだ覚書の形でまとめられており、米・イランの停戦を60日間延長し、その間に両国が包括的な恒久的合意を目指す。合意の正式調印は19日にスイス・ジュネーブで予定されていたが、延期された。 イランのガリババディ外務次官は、軍事作戦を14日から停止したことを確認し、同時に(1)米が合意に違反すれば、イランも対抗措置を取る(2)交渉の次の局面はイランの凍結資産の扱い次第――などの姿勢を明確にした。 はっきり言って、イランは今回の合意の限度を試そうとしている。それ


<春夏秋冬> 39年前の公開書簡 前嶋和弘
1987年9月2日のことです。『ニューヨーク・タイムズ』など3つの主要紙に丸々1ページを使う特大の公開書簡広告が掲載されました。 この書簡は「日本や他の国はアメリカを何十年もの間、食い物にしてきた」という衝撃的な言葉で始まります。「日本はアメリカへの輸出促進のためにドル高をしたたかに誘導してきた」「自国防衛をアメリカに任せ、日本はその分、自国の経済を発展させた」などの言葉がつづられています。 すでに想像できるかもしれません。この書簡を書き、広告を掲載させた人物の名前は、ドナルド・J・トランプです。当時はまだ41歳。若き不動産王として当時もメディアの寵児(ちょうじ)でした。 あれから39年。多少の変化もあったかもしれませんが、この書簡にあるトランプの対日観は、第2次政権の現在までも本質的には変化していないようにみえます。 トランプ大統領は過去に何度も、日米安保条約に対する不満を明らかにしてきました。その中心にあるのが「アメリカ人が血を流すのに日本人は流さない。日米同盟は片務的で不平等だ」という考え方です。 日米安全保障条約はいうまでもなく片務的なも


防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<54> 厳しさを増すアフリカの安全保障の現在
今月の講師 神宮司覚氏 地域研究部アジア・アフリカ研究室主任研究官 1985(昭和60)年生まれ。静岡県出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業、同法学研究科政治学専攻修士課程および英キングス・カレッジ・ロンドン戦争学研究科修士課程修了。2013年防衛研究所入所。25年4月より現職。専門はアフリカ地域の安全保障・国際関係。主な業績として「アフリカにおけるクーデタの再来と対テロ戦争」『安全保障戦略研究』第4巻第2号(2024年3月)157~175ページなど。 求心力を失った「テロとの戦い」 中東情勢やウクライナ戦争に対して高い社会的関心が向けられるなかで、アフリカ地域の安全保障情勢が日本で取り上げられる機会は非常に少ない。2023年4月にスーダンで内戦が勃発した際には数十名の日本人が退避を余儀なくされ、自衛隊機も派遣されたために一時的に多くのメディアによる報道が行われた。だが邦人退避が成功裏に終わると、同国情勢への社会的な関心は急速に失われていった。もっともこれは日本だけの話ではなく、スーダン内戦は世界的にも「忘れられた戦争」と形容されることが多い。しか


時の焦点<国内> 島嶼国海洋会議
温暖化の危機を発信 島国を巡る海洋問題を議論する世界島嶼国海洋会議が、東京都内で2日間開かれた。海洋の保全活動などを行ってきた日本財団が、外務省とユネスコ政府間海洋学委員会の協力を得て開催した。 太平洋やカリブ海、インド洋など35カ国の首脳や閣僚に加え、国際機関の関係者など約300人が出席した。会議では、気候変動や海洋汚染に関する新たな研究組織を東京に設置することを決めた。 研究組織は、島嶼国が受けている環境被害のデータを収集、分析し、今秋、トルコで開かれる国連の気候変動枠組み条約第31回締約国会議(COP31)に提供して具体的な対策を促すという。 小規模な島嶼国は、地球温暖化の影響を強く受けている。南太平洋のツバルやキリバスは、海面の上昇に見舞われて国土が水没の危機に瀕(ひん)している。西太平洋のパラオは、海面上昇のほか台風や高潮といった甚大な自然災害に見舞われている。 今回の会議の共同議長を務めたパラオのスランゲル・ウィップス大統領は「過去10年にわたりサンゴ礁の魚の個体数は減少を続けている。私たちの食料安全保障、経済安全保障を脅かしている」
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