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コラム


<春夏秋冬> 10・7から3年 酒井啓子
イスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃を契機としたガザ戦争が始まって、3年が経つ。昨年10月に、トランプ米大統領の仲介でイスラエルとハマスの間で停戦が成立したが、停戦後も戦火は続き1000人以上が死亡、ガザでの死者は7万3000人以上に上る。残された住民の9割が浄水に問題を抱え、産業・商業施設の9割以上が破壊され、7割以上の道路が破壊された。 停戦成立にもかかわらず、国際機関など海外からの支援は十分に行き届いていない。昨年、ガザで飢餓が進行しているという国際機関の深刻な警告があって、欧州連合(EU)諸国などの危機感から停戦が成立した。その時に比較すれば多少改善したようだが、物資や人員のガザへの搬入は引き続きイスラエル政府の厳しい管理下にあり、検問所で阻まれるケースが少なくない。 一方で、最近ではもうひとつのパレスチナ自治区である西岸でのパレスチナ人住民の被害が増えている。西岸地域では、イスラエルの入植者が地元のパレスチナ人を襲撃し家屋の破壊や住民に危害を加えることが常態となっているが、2023年以降その頻度はうなぎ上りで、昨年の被害件数は18


朝雲寸言 (2026年10月8日付)
作家村上春樹の新作「夏帆」が好調だ。7月に発売、30万部を突破するベストセラーとなっている。活字離れが進む時代にあって、目覚ましい。 正直なところ、筆者は長らくハルキの良さが分からなかった。米作家フォークナーの構成方法の影響を感じ取ってからは理解が進むようになった。 彼の作品には通奏テーマがある。代表作「ノルウェイの森」で描かれた実体験である。親友の自死、その恋人の女性への恋情、彼女の自死……。愛情は、対象を奪われ、行き場なく空しく漂う。愛の不毛や喪失感が脈打っている。 彼の生き方も、これまた刮目(かつもく)に値する。海外に住み、日本の文壇と距離を置き、世界中にファンを獲得した日本人作家は彼以外には皆無だろう。 ハルキは走り、書き、聴く。書く土台となる体を作るためにジョギングする。愛好するジャズを中心とする音楽にひたる。お気に入りの曲を気ままに紹介するラジオ番組「村上RADIO」を続ける。 彼は彼の作品の評論を読まない。ある米作家の作品を褒める一文を書いた時、周囲に言われたそうだ。「君の作品をこき下ろしている相手を褒めるとは、君は寛大というか、お


時の焦点<国内> 高市改造内閣
有識者会議の議論始まる インテリジェンス(情報活動)機能のあり方を検討する政府の有識者会議が初会合を開いた。高市早苗首相は「我が国でも外国の情報機関員が関わる先端技術の不正流出、官民の重要情報を狙ったサイバー攻撃、偽情報の拡散といった脅威が高まっている。国民の安全や国益を守り抜くためには、情報力強化が不可欠だ」と述べた。 インテリジェンスの司令塔となる国家情報会議と事務局の国家情報局は7月に発足した。有識者会議は、情報活動の指針となる国家情報戦略の内容について議論する。 戦略では、外国勢力による不当な干渉などに直面する中での情報活動の意義や重要性をはじめ、情報部門と政策部門の連携強化、情報活動を担う人材の育成方針、人工知能(AI)に代表される先端技術の活用など、中長期的に進める方策を盛り込む。 専門知識を持つ有識者会議の意見を取り入れながら、中長期の視点も含めた実効性のある戦略とせねばならない。 先の国会で成立した国家情報会議設置法を巡る審議では、政府の情報収集力の強化に対し、プライバシーが脅かされないか、政治的中立や民主的統制が確保されるのかな


時の焦点<海外> 米中関係
戦後物語の書き換え 「二人の指導者は、米中両国が第2次世界大戦の同盟国であり、共に勝利のために戦ったことを想起した」――。9月24日のワシントンでのトランプ米大統領と習近平中国国家主席の会談後、ホワイトハウスが公表したファクトシートにはこう書かれてあった。既にトランプ氏自身が会談前の歓迎式典で口にしていたことであり、その意味では想定内かもしれない。 だが、81年前に終わった戦争の蜜月関係がわざわざ米側公式文書に明記された意味は、軽視すべきではないだろう。 むろん、当時の中国が国民党政権であって現在の共産党政権ではないこと、戦後の米国にとって同盟国は日本と韓国であり中国ではないこと、などを挙げて対抗することはいくらでもできる。 とはいえ問題の本質はそうした教科書的説明の正しさにはない。トランプ氏と習氏が図らずも世界に示したのは、永遠の同盟というものはなく、1世紀も経てば国際政治はいくらでも変動すると言う歴史の法則である。 いや、より正確に言えば中国のそうした歴史認識を巡る手の込んだ刷り込み戦略に、直近の利益しか念頭にないトランプ氏が軽率に乗ってしま


前事不忘 後事之師 第129回 戦争の抑止か勝利の追求か
―決着していない議論― 歴史家・川田稔は、「満州事変と政党政治」という本の中で昭和初頭に活躍した二人の人物について興味深い比較をしています。一人は政党政治家の浜口雄幸、もう一人は陸軍軍人の永田鉄山です。 浜口雄幸元内閣総理大臣 浜口雄幸(1870年~1931年)は大蔵省出身の政治家で、張作霖爆殺事件の責任をとって田中義一内閣が総辞職した後に内閣総理大臣に就任(在任:1929年7月~1931年4月)。協調外交を推進し、ロンドン海軍軍縮条約を締結します。 永田鉄山陸軍中将 永田鉄山(1884年~1935年)は陸軍士官学校、陸軍大学を優秀な成績で卒業した秀才肌の軍人で、軍政家として陸軍本流を歩み、陸軍の改革・刷新を主張したいわゆる「統制派」のリーダーでした。 川田はこの二人の安全保障観の違いについて分析します。二人は第一次大戦によって戦争の性質が大きく変化し、今後の近代工業国間の戦争は陸海軍のみならず、兵器・機械工業とそれを支える人的・物的資源を総動員する「国家総力戦」となるとの共通認識を持ちました。しかし、ここから先の見解は異なります。...


時の焦点<海外> トランプ演説
「邪悪な体制」は決断を トランプ米大統領は9月22日、国連総会で演説した。率直かつ単刀直入ないつもの“トランプ流”で、特に対イラン関係では、決定を遅らせる時は終わったとし、同国に厳しい選択を突き付けた。 今回の対イラン戦争に関しては、左派勢力および声高な素人集団から「不必要な戦争」との批判がある。 これに対し、トランプ氏は「想像してみるといい。邪悪な体制が核の盾の背後で大規模なテロ攻撃を実施する力を得ている。我々が対決しなければならないリアリティーはこれだ。あまりにも多くの人が無視することを好んだリアリティーだ。多くの大統領が無視したがり、この問題で何かするのをためらった。しかし、彼らは問題の存在を知っていた」 知っていたのに何もしなかった。議会内で響き渡る「米国に死を!」のシュプレヒコールも、いずれ消えてなくなるだろうと期待した。 しかし、実態はもっと悪かった。オバマ政権はイランに数十億ドルもの金を極秘に送った。しかも、出どころを明かさないように「現金」で、また目立たないように深夜の航空機で送った。その後、一般市民の生活が楽になったという話は聞


時の焦点<国内> 高市改造内閣
維新は責任自覚せよ 内外の課題は山積している。第2次高市改造内閣と与党は連携を密にし、「強い経済」の実現と積極的な外交・安全保障政策の推進に全力を挙げてもらいたい。 高市早苗首相が自民党役員人事と内閣改造を行い、第2次高市改造内閣が発足した。内閣の要となる木原稔官房長官、茂木敏充外相、片山さつき財務相、小泉進次郎防衛相らを続投させた。党役員は麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長、小林鷹之政調会長らを再任した。 首相は党の会合で「公約の実現に向けて総力を挙げた執行体制とする」と述べた。政権の骨格となる顔ぶれを維持し、安定を重視したのは妥当と言える。 これまで閣外協力だった日本維新の会からは中司宏・前幹事長を規制改革相に起用した。閣僚を出したからには維新は与党としての連帯責任を自覚し、党の主張を強引に進める姿勢を改めるべきだ。 先の特別国会では、維新の要求で衆院議員定数の削減法案を与党が提出し、野党の反発を招いて国会が空転した。民主主義の根幹である選挙制度について合意形成を軽視する行動は看過できない。 自民内でも定数削減に慎重論がある中、特別国会での法案成


<春夏秋冬> 9.11と、歴史的健忘症 前嶋和弘
アメリカ同時多発テロの25年追悼集会の中継を見ながら、この原稿を書いています。数時間前には、この「春夏秋冬」のコラムニスト陣の一人で、心から尊敬する酒井啓子先生とTBSラジオ『セッション』で25年の歴史を振り返る特集でご一緒しました。 実は酒井先生とは同じ番組で5年前の9・11のタイミングでも同じテーマでお話をしています。ただ、5年前以上に今回は同じ点で意見が一致しました。 それは「同時多発テロとその後の対応から我々は何も学んでこなかった」「それどころか、“自衛”という名目をかざして、どんどん軍事的強者が自分の論理で法の秩序を破っている」ということです。いうまでもなく、この5年間にはウクライナ侵攻、ガザ攻撃、今年に入ってからはベネズエラ侵攻、イラン攻撃を世界は目にしています。 25年でアメリカ国内も大きく変わりました。 9・11当時、私はワシントンに住んでいましたが、社会の緊張が一夜にして究極に高まったのを覚えています。この日、ワシントン周辺を環状に囲む高速道路・ベルトウェーで車を走らせましたが、向かってくる車はまばらでした。...


朝雲寸言 (2026年10月1日付)
本年9月4日、国際連合総会はアフリカ諸国などの提案に基づき面積の比率をより正確に表す「イコールアース図法」という世界地図の活用を加盟国に促す決議案を賛成多数で採択した。賛成は我が国を含め164カ国、反対は1カ国、棄権6カ国だった。 大航海時代から使用されているメルカトル図法が高緯度にある地域・国が極端に大きく投影される一方で赤道付近に所在する国々が小さく見える地図の歪(ゆが)みがアフリカなどへの過小評価や偏見を招いていると主張したのだ。 そもそも扁球楕円体である3次元の地球表面を正確に2次元に転換することは不可能なことだ。要は面積の均一性を重視するか、方位が正しく保たれるかの違いに過ぎない。 唯一反対票を投じた米国の主張は興味深い。「国連が本来向き合うべき国際社会の真の問題から目を背け急進的な政治的アジェンダを議論している」、さらに「それこそが国連が世界で信頼を失い真剣に受け止められなくなっている理由だ」と米国は猛反発する。 メキシコ湾やオンタリオ湖の名称変更を標榜する自国の勝手さはどうなのだと思うが米国の主張はうなずけるものがある。一方で長年に


防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<57> ウクライナ軍のドローン戦 3層を一体化した運用と技術
今月の講師 川村幸城氏 防衛研究所 先進領域研究部 宇宙安全保障研究室 主任研究官 慶應義塾大学を卒業し、陸上自衛隊に入隊(現在1陸佐)。職種はシステム通信科。防衛大学校総合安全保障研究科を修了し、博士号(安全保障学)を取得。 研究対象は「新領域と新興技術が軍事作戦に及ぼす影響」。 主な訳書:デルモンテ『AI・兵器・戦争の未来』(東洋経済新報社)、デーヴィス『陰の戦争――アメリカ・ロシア・中国のサイバー戦略』(中央公論新社)、ジャスパー『ロシア・サイバー侵略――その傾向と対策』(作品社)、ジョンソン『ヒトは軍用AIを使いこなせるか――新たな米中覇権戦争』(並木書房)、サレンダー『検証空母戦――日米英海軍の空母運用構想の発展と戦闘記録』(中央公論新社)、ヘルバーグ『サイバー覇権戦争――ソフトとハード、二つの戦線』(作品社)。 今年に入り、ウクライナ東部でのロシア地上部隊の攻勢が停滞している。その要因の一つが、ウクライナ軍による短距離、中距離、長距離の3層を一体化したドローン運用だ。 中距離攻撃(前線から25~200km) 昨年末以来、ウクライナ軍は


時の焦点<海外> 多極化と中露印
座視できぬ西側世界 ネパール・中国国境の土石流災害は地球温暖化の影響があると指摘されても、原因追及や対策を議論する機運は高まらない。国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長が米政権から制裁対象とされても、国際法規範を擁護する大きなうねりは起きない。今の世界にはグローバルな課題解決の先頭に立つ国も、国際秩序の解体を食い止める主役も不在なのだ。 戦後長く、それは米国が担ってきた。だが、9・11同時多発テロから四半世紀、米国が警察官の役目を降りた世界の勢力図は一変した。象徴的なのが、同時多発テロ25年を挟んで開催された上海協力機構(SCO)とBRICSの首脳会議だろう。二つとも中国とロシア、インドが軸となり、人口では世界の半分、経済規模でも四分の一から三分の一以上を占めるグループとしてG7(主要7カ国)の対抗勢力へと成長した。 SCOにはパキスタンも含む核保有国4カ国がおり、中央アジア各国を包含した巨大なユーラシア連合体である。ブラジルや南アフリカが参加するBRICSは、グローバルサウスの一大拠点だ。 中心は中国。SCOでのプーチン露大統領との個別会談で


時の焦点<国内> 防衛費概算要求
指揮統制にAI導入 無人機(ドローン)やAI(人工知能)など新たな技術を取得し、事態の長期化にも対応できなければ、日本の平和と安全を守ることは難しくなっている。「新しい戦い方」に向けた防衛予算が求められている。 防衛省が2027年度予算の概算要求で、過去最大となる8兆9000億円を計上した。政府は22年末の防衛力整備計画で、23年度から5年間の防衛費の総額を43兆円とすることを決めた。今回の概算要求では、43兆円の達成に必要な額が計上された。 高市政権は、計画を含む「安保3文書」を年内に改定する。この改定を前提に、概算要求には具体的な金額を明示しない事項要求の項目が多く並んだ。 防衛費は、年末の予算編成の段階では概算要求の8兆9000億円を上回ることが想定される。精緻な査定を重ね、真に必要な内容とすることが求められるだろう。 米軍再編費などを含む防衛関係費は国内総生産比で2%に達したが、米国は同盟国に防衛費のさらなる増額を求めている。 予算編成に当たっては、日本の防衛に必要な観点で吟味しなければならない。赤字国債に頼らない安定財源を示すことも大切


<春夏秋冬> 「韓国、南朝鮮」と「北朝鮮、朝鮮、北韓」 平岩俊司
「韓国と朝鮮という二つの国家が徐々に平和共存へ向かうことを期待する」。今年8月の中韓外相会談での王毅中国外相の発言だ。韓国の魏聖洛国家安保室長は「韓国の立場と異なる」として厳重に問題提起したという。 何が問題だったのか?「二つの国家」という文言だ。韓国と北朝鮮の関係について、1991年の南北関係基本合意書で確認した「国と国との関係ではない、統一を志向する過程で暫定的に形成される特殊な関係」とするのが韓国の公式の立場である。統一を放棄していない韓国にとって「二つの国家」は受け入れられない。 中国は、現在の北朝鮮が韓国は統一の相手ではない、とする「敵対的二国家論」を尊重して「二つの国家」としたのであろう。中韓国交正常化まで中国は、南北を「朝鮮、南朝鮮」と呼称してきたが、国交正常化以降は「朝鮮、韓国」に変更する。 北朝鮮は不愉快かも知れないが、中韓国交正常化は南北基本合意書や南北国連同時加盟など南北合意を前提としたものであり、南北双方に配慮した呼称変更というのが中国の立場だろう。その意味で今回は北朝鮮への配慮が優先したとも受け止められる。...


朝雲寸言 (2026年9月17日付)
大阪中之島美術館で今、オランダの画家ヨハネス・フェルメール(1632~75)の展覧会が開かれている。目玉は、日本では14年ぶりの「真珠の耳飾りの少女」だ。青いターバンを巻き、口元にほっと吐息のようなものを感じさせる名品。「北のモナ・リザ」などとも称賛されている。 フェルメールはバロック期の画家である。バロックの語源はポルトガル語で、意味は「歪んだ真珠」。西洋絵画史ではルネサンス、マニエリスムを経て、バロックが到来する。主な美の特質上、ルネサンスは均整美、マニエリスムはデカダンス美、バロックは動的瞬間の美とも言えよう。 絵の見方は千差万別だ。彼を「静謐(せいひつ)」な画家とみる専門家の解釈に頼るもよし、自分の思うままに感じ取るもよしである。 筆者はこの絵の魅力は、単なる少女の静謐さではなく、少女の動的姿態を描きとどめた点にあると思っている。バロックの、時に歪みをもたらす動的瞬間の美こそ核心なのだ。 彼の他の作品には、部屋のカーテンをさっと開けた瞬間に見えた、行動に集中する人物を描いたものも目立つ。この少女も肩をたたかれ、振り向いた瞬間の動的な姿態の


時の焦点<国内> ICC制裁
容認できぬ米国の横暴 国際刑事裁判所(ICC)を敵視してきたトランプ米政権が、ICCトップの赤根智子所長への制裁に踏み切った。「法の支配」を軽んじる暴挙と言わざるを得ない。日本は赤根氏を支援し、国際法廷を守らなければならない。 米国のルビオ国務長官は声明で、赤根氏らが、ICCに加盟していない米国などの政府関係者の捜査や訴追に直接的に関わってきたと主張し、「国家主権への攻撃は容認しない」と批判した。 ICCがかつて、アフガニスタンなどで活動する米軍人らを捜査対象としたことや、2024年にイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出したことを念頭に置いているとみられる。ネタニヤフ首相に対する逮捕状は、パレスチナ自治区ガザでの非人道的行為を重大な罪と判断したものだ。 米国もイスラエルもICCに加盟していない。だが、ICCは、検察官や裁判官らの正式な司法手続きを経て訴追している。米国が赤根氏ら個人を制裁するのは筋違いも甚だしい。 米国の狙いは、ICCを機能不全に陥らせることなのだろう。ルビオ氏は7月にICC解体を目指すと表明し、加盟国に脱退を迫っている。どう喝
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