前事不忘 後事之師 第126回 中国人民解放軍
- 3 日前
- 読了時間: 4分

今から20年以上前のことですが、当時の石破茂防衛庁長官が訪中し、曹剛川国防部長と会談されました。防衛庁の広報課長だった私も随行しましたが、とても興味深いことがありました。
中国側の接遇によって、人民解放軍の陸、海、空の部隊を視察する機会があり、北京近郊の陸軍部隊を訪れた時のことです。解放軍が保有している装備品を見せるのだろうと想像していたところ、旧式の戦車を見せたのは視察の最後で、冒頭に見せたのはなんと解放軍が経営している養豚場とハム工場でした。
中国側の説明によれば、人民解放軍はその創設以来、「民衆から略奪しない、民衆から借りたものは返す、農作物は傷つけない」という「三大規律」を定め、この規律を実践するため、解放軍は軍隊であると同時に生産組織とのことです。
実際、解放軍は農業、畜産、衣料生産、兵器の簡易製造や修理、医療などを自ら行っています。私は建軍以来の伝統を維持していることに感心しましたが、歴史は、良き動機から始められたことがしばしば時代の経過と共に悪弊に変わることを教えています。
人民解放軍もこの教えに従ったようです。1980年代の鄧小平時代、軍事費が抑制され解放軍は予算不足に陥ったことから、軍は自活のため経済活動をすることが認められます。
この結果、軍の経済活動が爆発的に拡大し、解放軍は建軍当初のその需要を満たす生産組織から、1990年代半ばには不動産、ホテル、貿易、通信・電子、航空、軍需輸出、金融、果ては娯楽産業までに手を伸ばす巨大企業集団となります。こうした軍の商売は将校の腐敗、軍紀の弛緩のみならず軍による密輸の横行などを生み出し、大きな問題となったことから、1998年に江沢民国家主席は軍隊と武装警察は商業活動から撤退せよとの指示を出します。
しかしながら、軍の腐敗は払拭できていないようです。中国大使を経験されたある外務省OBによれば、自衛隊では考えられないことですが、軍内での官職の「売り買い」などが横行しているとのことですし、真偽は不明ですが、ロケットの燃料に水を入れたり、果てはミャンマーの反政府軍に地方の部隊が武器の横流しをしていたりとの噂があります。
現在の中国の指導者・習近平主席は「中華民族の偉大な復興」をスローガンに掲げています。復興という言葉には、自国が列強に蚕食された清朝末期以降の近代を「屈辱の歴史」と見なし、これに対する復仇の意味が込められています。
焦点は台湾問題の解決ですが、私たち日本人が知っておくべきことは、習主席が台湾問題の淵源をその日本植民地化が決定した日清戦争での敗北であると考えている点です。
実際、習主席は解放軍の部隊視察時に、しばしば日清戦争を挙げて将兵に「国の恥を忘れるな」と訓示しています。可能であるならば、軍事的手段を採ってでも台湾統一を実現したいと考えているはずです。
また習主席は日清戦争での敗因の理由を、当時の清の軍隊で腐敗が横行し、将兵の士気が低かったことと分析し、腐敗を払拭できない現在の解放軍に我慢できず、解放軍を「鍛造」するつもりのようです。
軍に対する徹底した反腐敗キャンペーンを実施し、その過程で江沢民時代からの軍の大物幹部を粛清するとともに、軍内における自らの指導権を確立するために、習主席が長く勤務していた福建省の軍関係者を抜擢・登用してきました。
ところが、解放軍で最近不可解なことが頻発しています。軍の最上位階級の上将を含む将軍が次々と腐敗や規律違反で失脚し、しかもそれらの多くは習主席自らが登用した軍人です。極めつけは今年1月、党中央軍事委員会の張又侠副主席(軍人のトップ)が「重大な規律・法律違反」の疑いで調査される事態となったことです。
元来、張又侠上将は習主席とは兄・弟と呼び合うほどの盟友関係にあり、習近平3期目体制が決定した際、慣例上の定年年齢を超えて軍のコントロールのために軍事委員会副主席として留任させたほど信頼関係の厚い人物でした。
ところが2024年の「第三回中央委員会全体会議」前後に二人は対立関係となり、今年1月、張又侠上将は失脚(生死も不明)する事態となりました。失脚直後に、真偽不明ですが張又侠上将自身の書簡がSNS上に流れ、二人の対立の理由が詳細に記載されています。
いずれにしても、中央軍事委員会主席でもある習主席と解放軍との関係は揺らいでいるようです。中国の最高指導者にとって軍権を握っていることが権力の源泉であり、仮にそこに揺らぎが生じているなら権力基盤は盤石ではなくなります。
来年、中国は5年に1度の共産党大会が開催され、習近平主席の4期目体制となるのかが決定されることとなり、既に中国は内政(人事)の時期に入っています。私は5月に行われた米中首脳会談は、軍との関係を含め内政に数々の課題を抱える習主席の国内に対するよく練られたパフォーマンスであったと感じています。
鎌田 昭良(元防衛省大臣官房長、元装備施設本部長、防衛基盤整備協会理事長)








