<春夏秋冬> 39年前の公開書簡 前嶋和弘

1987年9月2日のことです。『ニューヨーク・タイムズ』など3つの主要紙に丸々1ページを使う特大の公開書簡広告が掲載されました。
この書簡は「日本や他の国はアメリカを何十年もの間、食い物にしてきた」という衝撃的な言葉で始まります。「日本はアメリカへの輸出促進のためにドル高をしたたかに誘導してきた」「自国防衛をアメリカに任せ、日本はその分、自国の経済を発展させた」などの言葉がつづられています。
すでに想像できるかもしれません。この書簡を書き、広告を掲載させた人物の名前は、ドナルド・J・トランプです。当時はまだ41歳。若き不動産王として当時もメディアの寵児(ちょうじ)でした。
あれから39年。多少の変化もあったかもしれませんが、この書簡にあるトランプの対日観は、第2次政権の現在までも本質的には変化していないようにみえます。
トランプ大統領は過去に何度も、日米安保条約に対する不満を明らかにしてきました。その中心にあるのが「アメリカ人が血を流すのに日本人は流さない。日米同盟は片務的で不平等だ」という考え方です。
日米安全保障条約はいうまでもなく片務的なものではありません。日本は土地と駐留費用の多くを負担し、その大きな努力を基盤に米軍は駐留し、共同で「極東における平和と安全」のために活動しています。非対称かもしれませんが、不平等ではありません。
しかし、トランプは繰り返し、「日米同盟は片務的だ」と言い続けています。
一方で現場を良く知るアメリカの安全保障の担当者と話すと、みな日米関係の強固さを強調します。先日も政権に近いある人物とお話した際にも「日本とアメリカの協力で、中国の現状変更の動きを止め、インド太平洋の安定を図る。この考えはトランプ第2次政権でも変わっていない」と豪語していました。
その説明をうかがって、ほっとしたような気もしましたが、果たして安心していいのかどうか。トランプ第2次政権で重視されるのがトランプへの忠誠であるとすると、政権の残りの期間で日米関係が大きく変わってしまうのではないか、という懸念は尽きません。
(上智大学総合グローバル学部教授)









