防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<54> 厳しさを増すアフリカの安全保障の現在
- 5 日前
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地域研究部アジア・アフリカ研究室主任研究官
1985(昭和60)年生まれ。静岡県出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業、同法学研究科政治学専攻修士課程および英キングス・カレッジ・ロンドン戦争学研究科修士課程修了。2013年防衛研究所入所。25年4月より現職。専門はアフリカ地域の安全保障・国際関係。主な業績として「アフリカにおけるクーデタの再来と対テロ戦争」『安全保障戦略研究』第4巻第2号(2024年3月)157~175ページなど。
求心力を失った「テロとの戦い」
中東情勢やウクライナ戦争に対して高い社会的関心が向けられるなかで、アフリカ地域の安全保障情勢が日本で取り上げられる機会は非常に少ない。2023年4月にスーダンで内戦が勃発した際には数十名の日本人が退避を余儀なくされ、自衛隊機も派遣されたために一時的に多くのメディアによる報道が行われた。だが邦人退避が成功裏に終わると、同国情勢への社会的な関心は急速に失われていった。もっともこれは日本だけの話ではなく、スーダン内戦は世界的にも「忘れられた戦争」と形容されることが多い。しかし、スーダンを含めアフリカの国々や人々はこれまで以上に厳しい安全保障環境に直面している。
2001年9月の米国同時多発テロをきっかけに「テロとの戦い」は国際安全保障における中心的テーマとなった。その文脈の中でアフリカでは、マリやニジェール、ブルキナファソなどのサヘル地域、ナイジェリアやチャド、カメルーンなどのチャド湖周辺地域、そしてソマリアという主に3つの国・地域でイスラーム主義武装勢力との戦いが、米国や欧州を中心とする国々や国際機関からの支援を受けて大規模に進められた。しかし2021年のアフガニスタンからの米軍撤退に伴って「テロとの戦い」は急速に国際的な求心力を失っていった。
地域の対立投影内戦で人道危機
ところが実際には、イスラーム主義武装勢力の脅威はアフリカにおいてはむしろ拡大傾向にある。同勢力の攻撃による犠牲者の数は2021年には1万3千人程度であったものが、2025年には2万3千人以上へと大幅に増えた。ソマリアでは依然として国土のおよそ30%がアル・シャバーブの支配下にあり、それはソマリア連邦政府が支配している地域よりも広く、首都モガディシュは常にテロの脅威にさらされている。マリでは2026年4月にアルカイダ系の組織である「イスラームとムスリムの支援団(JNIM)」と同国北部の分離派武装勢力が共同で行った攻撃により国防大臣が殺害された。ナイジェリアでは2026年に入って既に5件と、ここ数年で最も高い頻度で自爆テロが発生している。
テロの脅威に加えて、スーダンやコンゴ民主共和国では内戦も続いている。特に冒頭でも触れたスーダンについては、スーダン政府軍(SAF)と準軍事組織である即応支援部隊(RSF)との間で始まった内戦により、400万人以上が難民となって隣国へ避難しているほか、900万人近くが国内避難民となることを余儀なくされており、目下、「世界最大の人道危機」となっている。発生から3年が経過した同内戦はいまだに解決に向けた道筋が見えない状況にあるが、その理由の1つが隣国および中東諸国の支援である。SAFはエジプト、エリトリア、サウジアラビアなどから、そしてRSFはアラブ首長国連邦(UAE)やエチオピアなどから資金的・軍事的支援を受けていると考えられている。スーダン内戦には、サウジアラビアとUAE、そしてエジプト、エリトリアとエチオピアというそれぞれの地域における対立関係が投影されている格好であり、同内戦の構図を複雑化させ、解決をより困難なものとしている。
ドローン運用で紛争態様が変化
また近年では無人航空機(ドローン)の使用もアフリカで拡大している。これは政府軍のみならず、反政府勢力やテロ組織なども同様であり、アフリカにおける武力紛争の態様を変化させつつある。比較的安価に維持・運用することが可能なドローンはアフリカで今後さらに広まっていくことが見込まれる。こうしたドローンの拡散がもたらす影響は不透明な部分も多いものの、一般市民への被害拡大や紛争の長期化につながりうるものであり、その動向を注視する必要がある。
(2026年6月25日付「朝雲」)












