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防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<52> 「東昇西降」をめざす 中国外交とその限界

  • 4月22日
  • 読了時間: 4分
今月の講師 増田雅之氏
今月の講師 増田雅之氏

防衛省 防衛研究所 中国研究室長


慶應義塾大学大学院博士課程単位取得後、2003年防衛研究所入所。政治・法制研究室長、アジア・アフリカ研究室長などを経て24年から中国研究室長。これまでアジア太平洋安全保障研究センター客員教授、イースト・ウェスト・センター訪問学者等を歴任。専門は現代中国の外交と安全保障。編著書に『大国間競争の新常態』や『ウクライナ戦争の衝撃』など。『不均衡なパートナーシップ―中国、ロシア、北朝鮮』(中国安全保障レポート2026)の執筆責任者。

グローバルサウスへの関与強化


2020年以降、習近平は中国共産党内において「東昇西降」(東側のパワーが上昇する一方で西側のパワーが衰退する)との認識に繰り返し言及してきた。20年10月や21年1月の党内会議で習近平は「東昇西降」に言及したが、これらの発言は公表されなかった。また国家安全部長の陳一新によれば、それらは将来の趨(すう)勢(せい)の見通しとして示されたものであった。


23年初め習近平は、改めて「東昇西降」に言及した。この際、習は将来の趨勢ではなく現状認識としての「東昇西降」に触れ、この発言は24年夏に出版された文献集で公表された。つまり習近平および中国共産党は、グローバルなパワーバランスの変化について踏み込んだ情勢認識を示し、それを公式化したのであった。


この時期、中国外交においても、いわゆる「東昇」を促すべく「三大グローバル・イニシアティブ」の実行強化に動き始めた。その中核を成すのが経済アプローチであり、グローバル発展イニシアティブ(GDI)を通じたグローバルサウスへの関与と協力を強めた。


例えば、中国は「グローバル発展・南南協力基金」を拡充し、拠出額を40億米ドルに増額した。また国連世界食糧計画(WFP)、国連開発計画(UNDP)、国際農業開発基金(IFAD)など20以上の国際機関への支援を強化したほか、エチオピア、パキスタン、ナイジェリアなどの60カ国以上でGDIに基づく180以上のプロジェクトを実施し、3千万人以上が恩恵を受けたという。


加えて資金提供、技術支援および能力構築支援による、途上国の貿易関連能力の向上を通じて経済発展と貧困削減を達成しようとする世界貿易機関(WTO)の取り組み「貿易のための援助」への関与を中国は強めた。中国政府によれば、その目的は開発途上国、とりわけ後発開発途上国の多国間貿易体制への統合を促すことだという。


今なお変化ない「国際システム」


その一方で、国際政治の構図すなわちパワーバランスの変化が、どのような秩序を生み出していくのかについて、中国は楽観的な見通しを有しているわけではない。外交学院の王帆院長は「国際システムの質的な変化はなお実現していない」と指摘し、「東昇西降」にもかかわらず西側諸国が主導してきた国際システムの在り方がそう簡単に変わらない現状を認めている。


加えて、中国とグローバルサウス諸国との間でのビジョンの相違も認識されている。中国指導部はグローバルサウスの台頭を世界の多極化を促す要素と捉えているものの、王毅外交部長は、多極化の在り方についてのグローバルサウス諸国との間でのコンセンサスは「なお形成されていない」と述べている。グローバルなパワーバランスの変化をどこに導いていくのか。グローバルサウスとの関係において、中国は明確な回答を見出すにはなお至っていない。


地政学的な「東」限定的な「東洋」


東昇の「東」には、2つのカテゴリーがあり得る。1つは中国とロシアを中心とする、旧社会主義圏やポスト・ソ連空間を含む地政学的なまとまりである。中国とロシアは、「国際的な権力構造を21世紀の多極化プロセスに適応させる」ことで一致している。具体的には上海協力機構(SCO)やBRICSのさらなる拡大を含む政策協調である。


しかし2022年2月、ロシアがウクライナに対して軍事侵攻を行い、今なお軍事作戦を継続させていることは、ポスト・ソ連空間の一体性やそこでのロシアの主導性を毀損させている。加えて中露間のパワーバランスの急速な変化もあり、少なくともポスト・ソ連空間が中国を含むかたちで「西」への対立軸とはなり得ないだろう。中国国内でも旧社会主義諸国やポスト・ソ連空間を「東昇」の舞台とみる議論は少数派にとどまっている。


いま1つのカテゴリーは「東洋」である。中国人民大学の金燦榮教授は、「広範な東洋勢力はいまだ全面的に台頭していない」としつつも、中国、インド、ASEANの台頭を指摘したうえで「アジア時代の到来が『東昇』の局面をサポートしている」と評価している。彼の議論で興味深いのは日本の位置付けである。「日本経済、ひいては総合的な国際影響力の低下は明らかだ」として、金教授は日本を「西降」の事例とみている。


限定的な「東洋」は「西降」を促す「東昇」の舞台になり得るのであろうか。南シナ海問題や台湾問題をめぐって、中国は軍事的なプレゼンスの強化とより実戦的な態勢構築を進めている。インドとの間での国境紛争も存在する。中国の軍事動向は、関係国への安心供与を伴っておらず、中国の周辺国にとって中国への備えが安全保障政策の中心となっている。「東洋」もまた「東昇」の舞台とはなりそうにない。こうした限界への認識も中国にはあるのであろう。中国一国を西側に対置する「中昇西降」との議論も増えている。


(2026年4月23日付「朝雲」)


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