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朝雲寸言


朝雲寸言(2025年5月29日付)
国境は地図には書かれているものの実際の地面や水面に線が引かれているわけではない。陸地の国境は河川や山脈など地形区分によって比較的明瞭である。一方で現地を確認せず机上で定規で引いたような直線の国境もある。さらに何故そこに国境が引かれたのか理解に苦しむ国境もある。 世界地図を広げると国境が点線で描かれた地域がある。カシミール地方はチベットとカラコルム山脈に連なる山岳地域でインド、パキスタン、中国によって実効支配され国境は定まっていない。 領土を巡る争いは人類の歴史を通じて幾度となく繰り返されてきた。また領土を巡る争いは資源を獲得する争いでもある。フランスとドイツに隣接するアルザス・ロレーヌ地区は古くから良質の石炭と鉄鉱石を産出する地域だった。ウクライナ東部のドンバス地域も石炭などが産出されることで知られている。 領土にはその土地で日々暮らす人々の生活がある。国境は民族の歴史や文化・宗教を分断する境界でもあるのだ。近年国境の争いは海に及んでいる。水産資源だけでなく海底に潜む石油やレアメタルなどの鉱物資源に注目が集まっている。 ロシアの一方的な侵攻から既


朝雲寸言(2025年5月22日付)
トランプ米大統領が称賛するマッキンリー大統領(在任1897~1901年)は、高率関税のほかフィリピンやハワイなどを併合したことでも知られる。その強引な手法は帝国主義そのものだった。 スペインの植民地だったフィリピンで独立運動が活発になったのは19世紀後半。激しい弾圧を受けるが、1898年の米西戦争で風向きが変わる。米国は独立軍の指導者アギナルドに独立を約束し、その協力を得て戦争に勝利。アギナルドは同年6月12日に独立を宣言し、初代大統領になる。これが同国の独立記念日になっている。 ところがマッキンリー政権は約束を反故(ほご)にし、スペインから2千万ドルでフィリピンを購入。これには米国内でも作家のマーク・トウェインや鉄鋼王カーネギーらから強い反対の声が上がった。 独立軍の反抗が始まるが、米軍による掃討は熾烈(しれつ)を極め、フィリピン側だけで4年間に20万人超の犠牲者が出たという。その後、大戦中の日本軍による占領を経て、1946年にようやく独立を果たす。 戦後、日米比3国は安全保障でも経済面でも良好な関係を培ってきたが、わずか数世代前には互いに憎悪


朝雲寸言(2025年5月15日付)
海洋国家とは「海との関り合いの深い国家」のことをいう。ただし島国や半島といった地理的条件だけでなく海岸線の長さ、領海の広さ、貿易収支や海軍力など、どの基準をもって海洋国家とするのか明確な定義はない。 我が国は領土の面積でいえば世界で61番目、一方で領海と合わせた経済的排他水域(EEZ)の広さは世界で6番目である。歴史的に見ても英国と並んで海洋国家の代表といえるだろう。 太平洋と大西洋の二つの海洋に面する米国は直接外洋に進出可能な長大な海岸線を有する。ロシアも長い海岸線を有するが、その海岸線は1年のほとんどが氷に閉ざされている。 海の地政学者マハンは国家が「シーパワー」を活用できるかどうかは「海に向かう者の数」によると考えた。国民が海を使って活動する適性を持っているかどうか。軍艦を建造し、軍艦に乗り、海軍や沿岸警備隊に加わろうとするかどうかが重要だと説いた。 近年の世界の造船業の占有率を見ると中国が50%を超え、韓国が30%、日本が17%、米国に至っては1%にも満たない。日米関税交渉の切り札と目されているのが造船業であるのは海洋国家米国の衰退を象徴


朝雲寸言(2025年5月8日付)
「日本一の桜、見に来てけじゃ」。先月、青森県弘前市に住む友人に誘われて、初めて弘前公園さくらまつりに行ってきた。淡いピンクのソメイヨシノがちょうど満開で、まだ雪に覆われた岩木山とのコントラストも絶景だった。 ガイドさんの説明によると、弘前城跡(現在の弘前公園)で桜の植樹が本格的に始まったのは明治になってから。廃藩後の荒れ果ててゆく光景に心を痛めた旧藩士らが苗木を寄贈し、その後、何度かの植樹を重ねて今の景観がつくられた。大正時代には初の観桜会が催され、100周年に当たる2018年のまつりでは航空自衛隊のブルーインパルスが祝賀飛行を披露している。 52種約2600本の桜のうちソメイヨシノが約1700本。その寿命は通常60~70年だが、園内には樹齢100年を超える老木が400本以上ある。秘密は青森県特産のリンゴの栽培技術を応用した「弘前方式」と呼ばれる管理方法にあるのだという。 かつてはベテランの樹木医が1人ですべての桜を管理していた。その技術を継承しようと、10年ほど前に「チーム桜守(さくらもり)」が発足。現在は3人の樹木医を中心に市公園緑地課の職員


朝雲寸言(2025年4月24日付)
カレンダーに予定を書き込むのは時代遅れなのか。スマホやパソコンでスケジュールを管理するのが若い人の常識かもしれない。 我が家の定番のカレンダーは2カ月表示のもので日付欄の余白に今月と来月の予定を書き込んである。予定を忘れないためではない。自分の予定を家族に知ってもらうためのものだ。若い頃は手当り次第にさまざまなスケジュール管理を試した。システム手帳や黒い背表紙のノート、業務ノートにひと月の予定表を貼り付けたこともあった。 初級幹部時代に先輩から厳しく教えられたのは業務予定表や作業工程表の作成だった。やるべきことをリストアップして優先順位を考え、やるべきことを縦軸に日時を横軸に配置した棒グラフで表したものをガントチャートと呼ぶ。年間、月間などの業務予定表もガントチャートの一つである。 大きな組織になればなるほど各部署の連携と情報共有が必要で各々(おのおの)の作業開始時期と完了時期が明らかになれば全体の進捗(しんちょく)を左右するクリティカルパス(重要タスク)が見えてくる。 それでも計画が思うよう進捗しない場合もある。いわゆるボトルネックを解決する手


朝雲寸言(2025年4月17日付)
昇進(任)に異動。4月は人事の季節でもある。この時期、数多(あまた)の自衛隊員が新しいポストに就く。希望していたポストに就けた人もいれば、動きたくないのに異動になる人。同じ辞令でも明暗が分かれるし、昇任したが単身赴任で家族と離れ離れになる悲喜こもごもの辞令もあるだろう。 本人だけではない。次に来る上司は誰か、あるいは気心の知れた同僚や部下が異動する。「えっ、俺が!」「どうしてあの人が?」。官民問わず、職場ではさまざまな人間模様が展開される。人事は、本人の能力だけではなく、「星の巡り」が作用するものだ。しかし、昇進はめでたいと思うのだが、どうもそうでもないらしい。 『日経ビジネス』誌3月10日号で「続・管理職罰ゲーム」という特集が組まれた(2年前の続編)。日本能率協会マネジメントセンターが実施した一般会社員を対象としたアンケート調査によると、77・3パーセントが「管理職になりたくない」と回答。理由として管理職は「働き方改革」や「コンプライアンスの強化」への対応に忙殺されることなどが挙げられていた。 あくまでこの調査は企業人を対象としたもの。では、自


朝雲寸言(2025年4月10日付)
桜の開花と共に新年度がやってきた。多くの企業や組織が新入社員を迎える季節である。 自衛隊も新しい人材を迎えていることだろう。しかし自衛官採用の現状は厳しい。対象者である若者の絶対数が減っているからだ。少子化はその影響範囲の大きさから「静かなる有事」とも呼ばれている。 防衛省の公表資料によれば2023年度の自衛官の採用数は9959人、その達成率は過去最低の51パーセントだった。防衛力強化の方針を受けて計画数を増やしたものの実際の採用は前年より減少した。 自衛官採用の難しさは今に始まったことではない。しかし自衛官募集を自衛隊だけに任せ、国として特段の施策を行わなかったことが本問題をさらに深刻なものにしていると小欄は見る。 難しいが解決策はある。その一つは給料である。現在の新卒者の採用において自衛官の給与は民間企業に太刀打ちできない。給与面で民間企業をはるかに凌駕(りょうが)する処遇を与えることでようやく自衛官採用は厳しい就職戦線で戦えるのだと思う。 もちろん給与だけで自衛官の採用環境が全て解決されるとは思わない。多様な魅力化も必要だ。しかし然るべき処


朝雲寸言(2025年4月3日付)
春は異動の季節。入隊、入校、そして退官などさまざまな出会いと別れが交差する。家族を伴っての全国転勤や海外勤務、単身赴任……隊員たちが後顧の憂いなく任務に精励できるのは、家族の支えがあってこそ。 3月24日、防衛省で隊員家族約100人を招いて「統合作戦司令部」の新編行事が行われた。ご家族に向けて吉田統幕長がユーモアを交えながら語り掛けた言葉を紹介したい。 「本日ご来場のご家族の皆さん、最初はお父さん、お母さんが元日の夕餉(ゆうげ)の直前に大地震が発生し、しばらく帰宅しなかったり、真夜中に隣国からミサイルを撃たれて家を飛び出して行ったりすることに驚かれるかもしれません。ただし、あまり心配しないでください。それもやがて慣れます。何よりもお父さん、お母さんが我が国の防衛にとってかけがえのない仕事をしているということを、どうかご理解いただきたいと思います」 両親と共に全国を頻繁に転校する隊員子弟も多いだろう。数年置きに友達と離れ、新天地の言葉やしきたりに戸惑い、今は辛い転校生活かもしれないが、将来、この経験は必ず人生の役に立つし、何よりも崇高な防衛の任務に


朝雲寸言(2025年3月27日付)
今は昔、半世紀近く前の話である。年度末になると自衛隊は節約モードに入る。年度の予算配分が限度枠に達するからだ。 「小隊長、今年の運搬費は終わりましたから下道(一般道路)を行ってください」。当時も今も大型トラックでの長距離機動は厳しいものだった。特に荷台に荷物と共に乗車する隊員は大変だった。できれば高速道路を使用したいのだが年度末になると訓練で高速道路を使うことはほとんどできなかった。 だから自分のポケットマネーで高速道路を利用したこともあった。予算の制約は訓練ばかりではない。燃料、車両や隊舎の整備、隊員の食事、生活全般にわたって年度末は厳しいやり繰りをしなければならなかった。 令和7年度の予算案が衆議院を通過し参議院で審議中である。防衛関連予算が原因で審議が中断することや予算案を通過させるために防衛費が取引材料になることもあった。これも今は昔。 令和7年度の防衛関係予算は8兆7005億円。隔世の感がある一方で、一般部隊が感じていた予算の制約はどれほど解消されたのかと思う。隊員の処遇はどれほど改善されたのかと思う。 予算の厳しかった昔、制約のある中


朝雲寸言(2025年3月20日付)
早朝の地下鉄は通勤通学ラッシュでごった返す。妻子に「いってらっしゃい」と送り出された会社員、他愛もない話で盛り上がる女子高生たち、専門書を読み込む大学生、平日休みに観光地へ向かうカップルなど多くの人々が交差する。何気ない朝の風景は今も昔も変わらない。だが、30年前の今日、午前8時頃、この何気ない風景が一変する。 「地下鉄サリン事件」が起きたのだ。都心の地下鉄で猛毒サリンがまかれ、14人が死亡、6千人以上が重軽症を負った。オウム真理教の幹部ら5人が、サリンが入った計11のナイロン袋に傘の先を刺し、サリンが漏れ出して気化した。発生当初は「地下鉄で同時多発爆弾テロが発生した」との情報もあったが、後に化学テロだと判明する。 こうした状況で、自衛隊は災害派遣命令を受ける。化学防護隊のほか、山手線内唯一の普通科連隊、第32普通科連隊に「都内の毒物を探知し、これを除去せよ」との命令が下る。緊迫した状況の中、重い装備品を背負い、除染に奮闘した。 この任務に携わった多くの隊員たちは退官。当時の若手も現在は50代だ。この経験を後世に伝えていかなければならない。被害者


朝雲寸言(2025年3月13日付)
日本海側は大雪、太平洋側は晴れて乾燥。毎年のことだが今年の冬は両者の違いが著しい。豪雪地として知られる青森県酸ヶ湯で積雪量が5メートルを超える一方で太平洋側はほとんど雨が降っていない。東京は昨年末から2月までの降雨量が観測史上最少となった。 そのせいか今年は火災の報道をよく目にする。岩手県大船渡市で発生した山火事は乾燥と折からの強風で燃え広がり4000人を超える人々に避難指示が出された。消防車の入らない急斜面の山林の火事を消火することは難しい。自衛隊の大型ヘリの空中消火を含め関係者の懸命な消火活動が続いた。 まだ寒い東北の3月、避難所に身を寄せる人々の姿を見ながら、ふと東日本大震災の記憶が蘇った。災害派遣が終了した後もしばらくの間、脳裏に焼き付いた津波災害の映像がフラッシュバックとなって呼び起こされることがあった。 東北に未曽有の被害をもたらした震災の日から早14年が過ぎた。「去る者は日々に疎し」という。忸怩(じくじ)たるものもあるが忘れることで人は次に進むことができるのかもしれない。 震災で海辺の住み慣れた家を失い此度(こたび)の山火事で建て替


朝雲寸言(2025年3月6日付)
先月封切られた映画『ゆきてかへらぬ』を見た。夭折の天才詩人・中原中也、文芸評論の奇才・小林秀雄、駆け出しの女優・長谷川泰子の3人の物語。日本の文学界史上、最も有名な「三角関係」と言われる話だ。大正から昭和初期にかけて京都と東京を舞台に展開する実話で、3人は共に強烈な個性を放っている。 17歳の中也が二十歳の長谷川泰子と同棲(どうせい)をはじめるが、中也の才能を高く評価する5歳年上の小林に彼女を奪われる。しかし、その小林もやがて彼女から逃げ出してしまう。これまで、泰子の魔性(ましょう)が2人の男を翻弄(ほんろう)したのだと思っていたが、どうもそうではないらしい。 中也と小林の文学的結びつきがあまりにも強く、その関係に泰子は入っていけない。文学の巨星2人にコンプレックスを抱き、彼女は精神を患ってしまう。 先週末に米・ウクライナ首脳会談がワシントンで行われた。記者を前に首脳同士が口論するという前代未聞の大波乱。ロシアのプーチン大統領はさぞかしほくそ笑んでいることだろう。トランプ、プーチン、ゼレンスキーの3氏。これまでの常識では計り知れない個性の持ち主だ


朝雲寸言(2025年2月27日付)
超絶な能力を付与された主人公が異世界で魔王や世界征服を企(たくら)む悪の帝国を倒すというアニメやゲームが人気であるらしい。 一部を除き多くのゲームは戦いや暴力を前面に押し出している。ゲームのプレイヤーは目的のために戦うか、または戦いそのものが目的である。 ウクライナ戦争で有効性が注目され各国で急速に開発が進むUAVいわゆるドローン兵器の操縦に使われているのは某ゲーム機のコントローラーに酷似した機器である。兵士にとって子供のころから使い慣れている装置であり、戦場はまさにゲームの延長線上にあると言えるのかもしれない。 退役米軍人が著した『戦場の心理学』という本によれば敵と戦う距離や手段によって兵士の心理的ストレスは劇的に変化するという。すなわちナイフで戦う場合と画面越しにミサイルの発射ボタンを押す行為では兵士の心理的な負担は全く異なるというのだ。 将来の戦場ではAIを活用したドローンの映像越しに敵と戦う場面が増える一方で、対人戦闘はより過酷で致命的なものになるだろう。戦場や多くの死傷者が発生する災害救援に任じる兵士はPTSD(心的外傷後ストレス障害)


朝雲寸言(2025年2月20日付)
「豪州は日本の同志国の中で別格の存在だ」。吉田統幕長が今月、ジョンストン豪国防軍司令官を防衛省に招いた席でこう発言した通り、近年の日豪防衛協力の深化は著しい。 中谷防衛相が前回大臣を務めていた2015年6月の日豪防衛相会談には、豪国防省から初の長期実務要員として同年2月から防衛省に派遣中のタラ・ボイド事務官が同席し、中谷大臣から豪国防相に紹介される場面もあった。 遡(さかのぼ)ること05年4月、豪空軍から初めて空幹校の指揮幕僚課程(CS)に入校した女性少佐がいた。一昨年まで約3年半、在日豪州大使館で国防武官を務めていたソニア・ハロラン大佐だ。 高校時代に日本への留学経験があり、豪州きっての日本語達者で親日家。東日本大震災では駐日国防武官補佐官(中佐)として豪空軍のC17輸送機3機の派遣調整で活躍し、豪軍関係者から「経験豊富な連絡将校の存在価値を示す例」と高く評価された。 ハロランさんがCS入校時に『朝雲』に語った言葉は印象的だ。「個人的なネットワークが国家間の平和と信頼醸成という大きな目的を達成する」――。それを見事に体現した。...


朝雲寸言(2025年2月13日付)
米トランプ大統領が就任して早々、その一挙一動に世界の注目が集まっている。返り咲いた大統領は選挙中や就任演説で約束した多くのことを実行に移し始めている。 就任初日に署名した26本にわたる大統領令は移民、エネルギー、貿易、教育、ジェンダー、地名変更などさまざまな分野にわたった。 さらにトランプ大統領は大幅な輸入関税率の引き上げ、世界保健機構からの脱退、中国製動画共有アプリに対する対応、不法移民の排除や送還などの動きを見せている。 2期目の大統領の最大の目的は歴史に名を残すことであるとよく言われる。彼のライバルは歴代の大統領であり残された期間は4年間しかない。 1世紀以上前、第25代大統領マッキンリーは関税率を大幅に引き上げ米国の製造業を保護したことで知られている。さらにスペインとの戦争に勝利してキューバやフィリピンなどの植民地を獲得、ハワイを併合した。西部の開拓が終わり米国の開拓精神は保護貿易と領土拡張主義に移行したのである。 トランプ大統領はアラスカの米国最高峰デナリ山を元の呼び名マッキンリー山に戻した。カナダやグリーンランドに対する発言も過去の大
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