top of page
コラム


朝雲寸言(2026年1月8日付)
新春の花の話である。京都・北野天満宮では、まず今月、蝋梅(ろうばい)が見ごろを迎える。花は淡黄色、ロウ細工風の透明感がある。濃密な芳香が特長だ。続いて寒空に凜乎(りんこ)とした紅白梅が咲きそろい、天満宮は3月下旬ごろまで馥郁(ふくいく)たる香りに包まれる。 折しも受験シーズンでもある。北野天満宮は、学問の神様・菅原道真公(天神様)を祀る天神信仰の総本社。合格祈願の絵馬が多数奉納されるだろう。東京・湯島天満宮でも同様の光景が広がる。湯島もまた梅の名所である。梅と道真は切っても切れない。 「東風(こち)吹かば 匂ひおこせよ梅の花 主(あるじ)なしとて春な忘れそ」。よく知られた菅原道真の歌である。左大臣藤原時平の讒言(ざんげん)で右大臣の座を追われ、九州・大宰府に左遷された後、詠んだとされる。 学問と政治に長けた道真は、時平にはさぞかし脅威だったに違いない。政治はしばしば学問を排除するものだ。 人形浄瑠璃文楽や歌舞伎でも採り上げられ、名作「菅原伝授手習鑑」に結実。道真(芝居では菅丞相)の政治的敗北の懊悩(おうのう)をよく描きだしている。それにしても、こ


第120回 相克するナショナリズム
満州事変(1931年)は、政府の統制を無視した関東軍の暴走によって引き起こされたとよく言われます。もちろん、それは事実ですが、政治学者馬場伸也の著書「満州事変への道」を読むと、関東軍の暴走だけを事変の原因だと見なすのは短絡的なようです。


防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<48> 「能動的サイバー防御」
今月の講師 山口章浩氏 防衛研究所 政策研究部 サイバー安全保障研究室 研究員 1995(平成7)年生まれ、京都府出身。香川大学法学部法学科卒業、神戸大学大学院国際協力研究科博士後期課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員DC-1などを経て、2024年から防衛研究所。専門は国際法(国家責任法)、サイバー安全保障政策。主な著作として「武力紛争当事者による国際人道法の尊重を確保する第三国の義務」『六甲台論集』(22年)、「『能動的サイバー防御』導入と国際法上の評価――特に『アクセス・無害化措置』について」NIDSコメンタリー(25年)など。 攻撃元アクセスし協働で無害化措置 国家安全保障戦略で示されたサイバー安全保障の強化方針を制度化して、「能動的サイバー防御」関連法が5月に成立した。防衛省・自衛隊についても、今後は政府や重要インフラへのサイバー攻撃に対し、攻撃元のサーバーなどにアクセスし、無害化する措置を警察と協働して実施する役割を担う。


朝雲寸言(2025年12月25日付)
久しぶりに気の置けない仲間と会食する機会があった。いわゆる同期の飲み会というやつである。 参集の目的は参加者の快気祝いであった。二度の手術を経て退院を果たし、ようやく会合に出席できるほどに回復した友人を見て話題は必然的に健康に関することに集中した。 若いときは相当にむちゃをした仲間たちではあるが高齢者予備軍ともなれば身体のどこかに問題を抱えているのは当然のことだ。経験した病気や手術のことを忌憚(きたん)なく話せるのも濃密な青春時代を共有した仲間ならではのことである。 話題はすでに鬼籍に入った同期の話にも及んだ。先だった同期の数は年を追うごとに増える一方である。それでも多くの同期が現役を退いてもそれぞれの分野で活躍していることは同慶の至りというべきか。 若いときに集団生活の中でスポーツや訓練で身体を鍛え、勉学に励み、同期で切磋(せっさ)琢磨(たくま)した年月は確実にしぶとく元気な老人たちを生み出しているように思える。 すでに死語となった「若い時の苦労は買ってでもしろ」という格言は厳しい冷戦下を生き延びた仲間たちを見る限り的を射ているようだ。...


朝雲寸言(2025年12月18日付)
映画「国宝」が話題を集めている。歌舞伎界で繰り広げられる才能と血筋の相克、壮絶な野心の様相を描く映画である。 興行収入は177億円超(興行通信社調べ、12月7日現在)。日本の歴代興行収入ランキングで実写邦画のトップに輝いた。「国宝(観た)」は流行語に。社会現象化したと言っていい。 一般の男性俳優が歌舞伎を演じるという大奮闘が、若い女性を中心に人々の琴線に触れたのだろう。「京鹿子娘二人道成寺」「鷺娘」「曽根崎心中」など歌舞伎の名作の映像美も、目を引きつける。 映画館で女性客がこう言うのを聞いた。「歌舞伎って美しいものだったんだね」。日本人の歌舞伎再発見である。松竹関係者によると、東京・東銀座の歌舞伎座に若者客が増えているのだそうだ。 日本の伝統芸能・文化は世界的にも特殊だ。時代に寵愛(ちょうあい)され、様式を築いたジャンルは、おおむね時を超えて継承される。 先発は後発を否定しない。後発も先発を批判しつつも否定しきれず、共存する。貴族の雅楽は武家の能に否定されず、武家の能は庶民の歌舞伎に否定されない。いずれも現代まで続く。政治学者の丸山真男が語った「


朝雲寸言(2025年12月11日付)
冬の訪れとともに慌ただしい年末がやってきた。1961年のフィラデルフィア、感謝祭の翌日から始まる年末セールで住民が道路にあふれ交通渋滞と混乱が起きた。警察交通係が嘲笑的な意味でブラックフライデーと呼んでいることを地元の新聞が報じた。 以来、北米、欧州などで年末の在庫一斉セールをブラックフライデーと呼ぶようになった。我が国において大々的にブラックフライデーが始まったのは2022年のことである。 宅配サービスが一般化した我が国ではお歳暮商戦と相まって1年で宅配需要がもっとも急増する時期である。 国会では新内閣が打ち出す補正予算案の総額が18兆3034億円となり新型コロナ禍以降で最大の規模となった。特徴的であるのは8472億円を計上した防衛予算が結果として政府が掲げた防衛費の対GDP比2%を2年前倒しで達成したことだ。 有体に言えば冷戦時代、防衛費は常に叩かれ政争の具となってきた。年末、人件費が増加したため防衛費がGNP1%を超えそうになった時、止む無く導入予定の装備品を諦めたことさえあったと聞く。 時代の変化とはいえばそれまでだが過去を知る者から見れ
第119回 満州事変の背景 ――Even a spark dies without fuel.
幣原喜重郎 田中義一 満州事変(1931年)は、政府の統制を無視した関東軍の暴走によって引き起こされたとよく言われます。もちろん、それは事実ですが、政治学者馬場伸也の著書「満州事変への道」を読むと、関東軍の暴走だけを事変の原因だと見なすのは短絡的なようです。


朝雲寸言(2025年12月4日付)
最近、西広整輝さんのことが思い出されてならない。1988年に防衛庁生え抜き組で初の事務次官になり、「ミスター防衛庁」と呼ばれた。防衛課長時代の76年、必要最小限の防衛力保有をうたった最初の「防衛計画の大綱」(51大綱)を書いたことでも知られる。 40年ほど前、西広さんを囲む月例の勉強会に参加していた。メンバーは若手研究者やジャーナリストら十数人。議論が深夜に及び、西広さんが「今夜は野宴(やえん)をやろうや」と、大鍋をコンロにかけてスルメ酒をふるまってくれたこともあった。 ある時、日米安保体制以外の選択肢があるか否かでメンバー同士のブレーンストーミングがあった。結論は、理屈の上では(1)通常兵器による自主防衛(2)核武装を伴う自主防衛が考えられるが、前者は装備にカネがかかり過ぎ、後者は国民世論が許さない。「従って日米安保を基軸とする現体制がベスト」というものだった。 すると、それまで黙って聞いていた西広さんが「ソ連との同盟は?」。米ソ冷戦の真っただ中である。冗談でしょうと笑っていると、「じゃあ、米軍がアジアから撤退したら? いまの自衛隊だけでソ連と
時の焦点<国内> 首相の台湾答弁
中国の愚行にあきれる 日本を貶(おとし)めようとする中国の対応は、常軌を逸している。威圧を強めれば強めるほど、自らの品位を落としていることに気づかないのだろうか。
時の焦点<海外> 中国・イラン
「脆弱性」を示す最新例 中国、イランは地政学的に米国の敵。だから、違法薬物の大量密輸や国際テロの支援などで、公然・非公然の対米戦を続けているのが実態だ。しかし、いかに強固な敵でも、完璧に難攻不落ということはなく、両国も「脆(ぜい)弱(じゃく)性」の例外ではない。つい最近のニュースもその事実を明示している。


朝雲寸言(2025年11月27日付)
今は昔、知らない土地を運転することは神経を使うことだった。車には必ず道路地図が積んであった。事前に路線図を見ながら目的地までの主要な交差点と顕著な建物を確認することが必要だった。 同乗者がいる場合、助手席に座る者には地図が読めることが求められた。だが車の進行方向に合わせて地図を回転させるような人が助手席に座ると道に迷うこともあった。 GPSという衛星測位システムが普及してから長距離ドライブは激変した。「カーナビ」と呼ばれる経路検索ソフトウエアによって今では車の中で道路マップを開くことはなくなった。GPSが軍事的目的で開発されたことを知る人は意外と少ない。カーナビは軍用技術が民生用に転用された典型的な一例である。 現在、世界規模で衛星測位システムを保有しているのは米国のGPS、ロシアのグロナス、EUのガリレオそして中国の北斗であり、インドと日本が地域的な衛星測位システムを運用している。 なぜ独自の衛星測位システムが必要なのか。全世界に展開する米軍のGPSが使えれば十分ではないか。中国の北斗を使えば十分ではないかなどのさまざまな意見がある。だが衛星測


防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<47> 中国の認知戦と国際話語権
中国が世界に発信する「物語」にどう向き合うか 今月の講師 伊藤大輔3空佐 防衛研究所 戦史研究センター 安全保障政策史研究室所員 1976(昭和51)年生まれ。北海道出身。宇都宮大学大学院修了(経済学修士)、埼玉大学大学院修了(経営学修士)。開発集団、南混団、8空団、空幕防衛部、空幹校、中空などを経て2024年6月から現職。専門は軍事ドクトリン、旧海軍航空、習近平強軍思想。共著に『アミオ訳孫子』(ちくま学芸文庫、16年)、『米軍式人を動かすマネジメント』(日本経済新聞出版、16年)、『黄色い零戦』(飛鳥新社、21年)、『マレー進攻航空作戦』(芙蓉書房、23年)などがある。 自らに有利となる認知態勢を形成へ 『孫子』の兵法に「人を致して、人に致されず」という有名な言葉がある。
時の焦点<国内> クマの被害
政府全体で対応進めよ クマによる人的被害が相次ぎ、地方自治体のマンパワーでは対応できなくなっている。緊急の対策として、自衛隊が出動して駆除の支援に当たることになった。
時の焦点<海外> 世界新秩序
“敵の敵は味方” 1989年、マルタ会談で「冷戦終結宣言」がなされてから36年。四半世紀をとうに超えたが、グローバリゼーションという国際金融覇権の進展と共に地域紛争は激化し、人口問題、貧困問題、環境問題と世界の諸課題は複雑化し、より深刻になった。


朝雲寸言(2025年11月20日付)
新宿中村屋が、国内初の本格的インドカレーを売り出したのは1927年のこと。骨付き鶏肉にスパイスをふんだんに使い、1人前80銭。町の洋食屋のカレーの8倍もしたが飛ぶように売れたという。 これにはインド独立運動の指導者ラス・ビハリ・ボースが関わっている。英国の植民地だったインドで活動していたが、官憲の弾圧を逃れて日本に亡命。中村屋の創業者夫妻にかくまわれ、その娘と結婚する。ボースの助言でメニューに入ったのが今に続く「純印度式カリー」だ。 腹心のA・M・ナイルらと共に、インド国民軍に武器を送るなどして祖国の独立運動を側面から支えた。後の首相・犬養毅やアジア主義者の頭山満らも熱心な支援者で、一緒に中村屋のカリーに舌鼓を打ったこともあっただろう。 ボースは47年のインド独立を見ずに病没する。一方、ナイルはその後も日印親善に尽くすかたわら、銀座にインド料理店「ナイルレストラン」を開く。タレントでもある二代目を経て、現在は孫の三代目が継ぐ。 こんな背景もあってインドには親日家が多い。外務省の調査では、日本を「信頼できる」と答えたインド人は96%と友好国の中でも
bottom of page






