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コラム


朝雲寸言(2026年3月19日付)
いきなりだが、「遅さ」に効用はあるのかと、のろまな筆者は昨今よく考える。早い報告・連絡・相談、メールへの即返信、素早くこなすこと。世間で偏重されるのは「早さ」である。 だが、相手の発言に即答するパターンは往々にして相手のペースにのまれ、自らを見失う。頭の回転の早さを過信し、怒る相手の話を遮って言葉を被せれば、余計に紛糾する。 いずれも、深呼吸で一拍置いてから相手に接する「遅さ」を訓練することで、自身を喪失や混乱から守ることにつながるのではないか。ビジネス界で盛んに言及される「マインドフルネス」の眼目もここにありそうだ。 三島由紀夫が自著「文章読本」で触れているが、仏文芸評論家ティボーデは小説の読者を「リズール」(精読者)と「レクトゥール」(普通読者)に大別した。小説世界に自ら生きるように読む「リズール」、手あたり次第に読む「レクトゥール」。「リズール」の読む速度は当然遅く、理解は深い。 屈指の名門校として知られる灘中学校ではかつて、中勘助著「銀の匙(さじ)」一冊を3年間かけて味読する、橋本武氏による国語授業があった。「リズール」への教導だ。全読者


時の焦点<国内> 国家情報会議
新たな司令塔の創設 政府が、インテリジェンス(情報収集、分析)の司令塔を創設する法案を閣議決定した。首相を議長に、官房長官や外相、防衛相ら9閣僚で構成する「国家情報会議」を内閣に設置し、情報収集の基本方針などを定める。 内閣官房の情報部門である内閣情報調査室(内調)を国家情報局に改組し、会議の事務局とする。国家情報局には総合調整の権限を与え、外務省や警察庁など各省庁の情報部門から必要な情報提供を受けることができるようにする。 国家情報局で分析された情報は、外交・安保政策を立案する国家安全保障会議(NSC)に提供される。 新たな組織の設置には、情報と政策の機能を分離し、政策判断の客観的な判断材料を求めようとする狙いがある。 ただ、情報の集約は今もNSCで行われ、それは今後も続くという。国家情報会議とNSCは同格となり、双方が重要情報を扱うことになる。情報が錯綜(さくそう)しないよう、各組織の役割を精査することが求められる。 留意すべきは、今回の法案が国家情報会議という「ハコ」作りに限られる点だ。現在の内調は、情報収集衛星を運用する部門を除けば300


時の焦点<海外> 米中G2
勢力圏分割の危うさ 米国とイスラエルのイラン攻撃が世界を混乱に陥れている中、王毅・中国外相兼共産党政治局員は3月8日の記者会見で「世界は100年に一度の変動にある」と述べ、国際秩序の劇的変化を強調してみせた。米中両国が、新たな時代の主軸となることへの自信をのぞかせながら。 3月末から予定されていたトランプ米大統領の訪中を踏まえた発言だ。中東情勢で米側が一カ月延期を申し出たが、トランプ氏と習近平・中国国家主席の間ではこれを含め年内に4回もの首脳会談が見込まれている。トランプ氏が昨年10月、韓国・釜山の米中首脳会談で「米中G2」と呼んだ関係が本格的に動き出せば、イラン攻撃と併せて今年はまさに歴史の分水嶺(れい)の年となろう。 トランプ政権で対中戦略の中核を担うのはコルビー戦争次官である。対ソ封じ込めを主導したジョージ・ケナンになぞらえ、21世紀のケナンとも呼ばれる若手だ。そのコルビー氏は著書で、中国封じ込めを大前提に、重要なのは「中国への優越ではなく中国とのバランス」と主張している。経済的相互依存の進んだグローバル時代にあって、米中両国が互いの勢力均


時の焦点<国内> イラン情勢と日本
中東の安定に貢献せよ 米国は日本にとって唯一の同盟国であり、良好な関係を維持することは重要だ。とはいえ、今回の米国のイランに対する攻撃は、国際法を逸脱している可能性は否定できない。日本は米国、イラン双方に事態の沈静化を求める必要がある。国連の場を積極的に活用するなど、外交努力を尽くすべきだ。 トランプ米大統領は、イランに対する軍事作戦が4週間以上続くとの見通しを示している。イランも反撃を続けており、戦火は中東全域に広がりつつある。報復の連鎖を懸念せざるを得ない。 こうした中、日本は米国を支持も批判もできない難しい立場にある。高市早苗首相は国会答弁で「イランによる核兵器開発は決して許されない。交渉を含む外交的解決を強く求める」と述べた。ただ、米国の軍事行動への論評は避けた。 米国は今回、国連安全保障理事会の決議なしに攻撃に踏み切った。トランプ氏は「差し迫った脅威」があったとしているが、その根拠は不十分との見方が多い。 国際法に基づかない武力の行使が許されれば、世界各地で力による衝突が繰り広げられてしまう。日本の領土・領海が力ずくで奪われる危険性も高


朝雲寸言(2026年3月12日付)
日本人の祖先がどこから来たのかは諸説あっていまだ解明されていない。しかし日本人の祖先となる集団のひとつが何万年もの長い年月を経てユーラシア大陸を東進して極東の島国にたどり着いたことはほぼ間違いない。 その地には気候温暖で四季があり、海と山に囲まれた島々からなる豊かな住処であった。しかし同時にその地は火山噴火、台風そして大きな地震が起こる自然災害の多いところでもあった。 太古の日本人たちは自然の恵みに感謝しつつ毎年のように訪れる自然の脅威に立ち向かった。集団が部族になり小国家となり、やがて古代の日本が形成されていった。 3月11日に起きた大震災の日から15年の月日が流れた。しかしあの日あの時のことは今も忘れることが出来ない。千年に一度という地震と津波によって街が壊され、人々の命が奪われ、そして家族の絆が分断された。 しかし多くの日本人は土地を捨てなかった。長い旅路の果てにたどり着いた日本列島は最後の到達点であり、祖先が開き守り抜いた土地であったからである。 日本人が共通して持つという集団としての規律、協調性、忍耐、自然に対する畏怖と崇拝は長い年月の


時の焦点<海外> 米、イラン攻撃
核兵器排除など4目標 2026年2月28日、米国とイスラエルは対イラン攻撃を開始した。イスラム専政の指導部を壊滅状態にし、ペルシャ(イランの旧称)国民に自由へのチャンスを与えた日になる。 1979年のイスラム革命で、親西側のパーレビ政権は崩壊。革命政権は同年11月4日に在テヘラン米大使館員52人を人質にし、レーガン政権発足まで444日間、拘束した。以来、約50年間、イランは米国など西側を標的に世界各地でテロを続け、米軍要員869人を殺害した。 米国はついに反撃に出た形で、「イランとの戦争を始めたのは米国ではないが、米国はそれを終わらせる」(ヘグセス国防長官)ということだ。 同長官とケイン統合参謀本部議長が3月2日の記者会見で、今戦争の4つの目標を明らかにした。(1)核兵器を製造する可能性の完全排除(2)米、欧州、湾岸同盟国に到達し得る弾道ミサイル製造能力の除去(3)海洋上の脅威と国民への暴力の排除(4)中東の同盟国および世界に展開する米国軍民要員への脅威の除去――。 ヘグセス長官は、政治体制の変更はイラン国民の役割だと言明。米国は4つの目標を達成


時の焦点<海外> 米一般教書
ドンロー主義の正体 史上最長の1時間48分に及んだトランプ米大統領の一般教書演説(日本時間2月25日)だったが、11月の中間選挙を意識してか経済や治安、国境管理などに大半が割かれ、国際情勢に触れたのは開始から実に1時間以上たってからだ。 それもベネズエラのマドゥロ前大統領拘束作戦の成功や、北大西洋条約機構(NATO)に国防費の国内総生産(GDP)比5%支出をのませた話など、既視感のある自画自賛ばかり。「どの国も世界一の軍事力を持つ我々の決意を疑ってはならない」と凄んだ「力による平和」が、あえて言えば国際社会への唯一のメッセージだった。 各国が耳をそばだてていたのは、昨年12月の国家安全保障戦略(NSS)や今年1月の国家防衛戦略(NDS)の中核を占める本土・西半球中心主義と対中抑止・同盟国の負担強化などに、トランプ大統領がどう踏み込むのかだった。その意味では肩透かしだったわけだが、見方を変えればいわゆる「ドンロー主義」なるものの正体が、はからずも見えてきた演説だったとも言える。 建国後の米外交の基調となってきたモンロー主義は19世紀初頭、第5代モン


朝雲寸言(2026年3月5日付)
若者言葉に勢いが足りない。昨年の若者の流行語は「〇〇界隈」「エッホ、エッホ」などだった。「〇〇界隈」は「人付き合いキャンセル界隈では」といった使い方。地理的概念が団体概念に転じている。こぢんまりしている上、何ともじじくさい。「エッホ、エッホ」はSNS上ではやった。「よいしょ、よいしょ」の感覚に満ちている。 ひところはどうだったか。接頭辞として「超」「鬼」「神」をつけ、言葉を強調する。関西弁の「めっちゃ」も加わり、これらは今や「市民権」を得ている。 1990年代のコギャル文化では「最低」と言わず、「チョベリバ」(超ベリー・バッド)と言ってのけた。当時、都内の電車で高校生女子が「ワタシのマイブームなんだけど、今日CCBなんだよね」「何それ?」「コンディション、かなり、バッド」。共有できるレベルをはるかに超えていた。 言語学者は言葉の乱れを嘆くのだろう。しかし、中高生女子たちによる、歴史もルールも蹴散らす恐るべき破壊力はダダイズム的ですらあり、輝かしい。ここに未知の表現の原野が広がっているかもしれないからである。多様な豊かさも感じさせる。...


時の焦点<国内> 竹島の日
韓国への働きかけ続けよ 首脳同士が頻繁に往来し、防衛分野での協力も緒に就くなど、日韓関係は改善基調にある。その一方で領土問題が前進する気配は見えない。重要な隣国であるからこそ、政府は竹島が日本固有の領土であることを、粘り強く韓国に伝えていく必要がある。 2月22日、島根県などが主催する「竹島の日」の記念式典が松江市で開かれた。内閣府の古川直季政務官が出席し、竹島問題の解決を目指す政府の方針を改めて示した。 式典は島根県が1905年に県が竹島を編入した日にちなんで開催されてきた。今回で21回を数える。竹島が、国際法上も歴史的にも日本固有の領土であることは論を待たない。韓国は日本が竹島を編入する際、異議を唱えなかった。戦後のサンフランシスコ平和条約でも、日本が放棄すべき地域から除かれている。 だが、条約の発効直前、韓国は「李承晩ライン」を一方的に設定し、竹島の不法占拠を開始した。竹島が領土であるとの韓国の主張には、正当性はない。 日本は江戸時代初期には竹島の領有権を確立していた。証拠となる資料も数多い。2年前には、鳥取県米子市の複数の商家が幕府の許可


前事不忘 後事之師 第122回 バルト三国訪問記(1)
―バルト三国の冬は厳しい― 1月に防衛企業の方々とバルト三国を訪問し、国防省や北大西洋条約機構(NATO)の研究センター、政府のサイバー防衛部局、スタートアップ防衛企業などを訪問してきました。


朝雲寸言(2026年2月26日付)
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始したのは2022年2月24日早朝のことである。戦争は5年目に突入した。侵攻開始当時、戦争がこれほど長期にわたることを予測した専門家は小欄も含め少なかった。ロシアとウクライナの戦力差が歴然であったからである。 戦争の長期化は国力を衰退させる。それが大国の場合、世界に与える影響は甚大である。米国の場合、ベトナム戦争は8年に及んだ。長引く戦争は結果的に米国の絶対的な経済・軍事的優位を低下させ米国衰退の始まりをもたらした転換点となった。 ソ連の場合、1978年のアフガニスタンへの軍事侵攻は11年に及んだ。この戦争がなくともソ連は崩壊したかもしれない。しかし戦争がソ連崩壊を加速させたことは間違いない。 ウクライナ戦争の場合、ロシアにはソ連時代からの装備品・弾薬の大量の備蓄があった。だが、4年が経過しロシアの兵器備蓄は物理的限界に近付いている。何より増え続ける人的損耗はロシアを着実に苦しめているように見える。 そしてウクライナ戦争は我が国の安全保障に多大な影響を及ぼした。ドローン兵器、サイバー、宇宙、電磁波領域などの新しい脅


時の焦点<海外> 苦境のキューバ
「同盟国」はどこへ? 支援が必要なこの時に同盟諸国はどこへ行ったのか? 現在、キューバ政府の胸中はこんな感じだろう。同国に石油を供給しようとする国には関税を発動する(1月29日・トランプ米大統領が大統領令に署名)という圧力など、トランプ政権の対キューバ政策が狙い通りに効いてきたのだ。 同国の石油不足は深刻で、インフラの崩壊も進む。学校の授業も病院の手術もキャンセル。ホテルも閉鎖され、国際ビジネスや大使館は人々に早期出国か電気と水のない生活が長期間続く事態に備えるよう警告している。 しかし、出国についてはそう容易ではないのが現状のようだ。政府は飛行家に対して、国内9カ所の飛行場で航空機の燃料補給はできない旨を公式に通告。その結果、主要航空会社のフライト削減やキャンセルに発展し、旅行客が取り残されるなどの混乱が起きている。 例えば、カナダの航空最大手エア・カナダは2月9日からキューバ便の運航を停止する一方、キューバで立ち往生のカナダ人約3000人の出国のために“カラの便”を飛ばす。また、スペイン第3の航空会社エア・ヨーロッパは、マドリード―ハバナ便の


時の焦点<国内> ミュンヘン会議
米欧の溝埋める役割を果たせ 自国第一を掲げるトランプ米政権と欧州との距離が広がり、ウクライナを巡る和平交渉の行方も不透明な状況だ。日本は米欧との関係を強化し、双方の溝を埋める努力を続けねばならない。多国間の協力体制の構築にも努める必要がある。 ドイツで、世界各国の首脳や外相、国防相らが参加する「ミュンヘン安全保障会議」が開かれた。主要なテーマとなったのは、ロシアのウクライナ侵略である。 ウクライナと米国、ロシアは現在、和平交渉を行っている。安保会議に出席したゼレンスキー大統領は「米国は譲歩をロシアではなく、ウクライナの文脈で語ることが多すぎる」と述べ、和平交渉で譲歩を促す米国へのいらだちを示した。 米国はウクライナに対し、東部ドンバス地方を非武装化するよう求めている。ドンバス地方を「自由経済圏」とする構想も浮上しているが、ウクライナとロシアのどちらの法制度に基づく経済圏なのかは、定かではない。このためウクライナは、領土や主権が脅かされるのではないか、と警戒している。 侵略した側のロシアに「戦果」を与えるようなことがあってはならない。国際社会全体で
防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<50> 韓国のWPS政策
今月の講師 小池修氏 防衛研究所 政策研究部 防衛政策研究室 研究員 京都生まれ横浜育ち。東京大学教養学部卒業後、同大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程修了、博士後期課程単位取得満期退学。専門分野は韓国の外交・安全保障政策。韓国国防大学校(KNDU)との日韓教官交流や安全保障戦略課程(旧・一般課程)の東アジアの安全保障講座などを担当。 日本に先立つ韓国の取り組み 2000年に女性・平和・安全保障(WPS)に関する国連安全保障理事会決議第1325号(決議1325)が採択されて以来、韓国では14年の第1期に始まり、24年の第4期まで4回にわたって国家行動計画が策定されてきた。 これは15年に第1次政府行動計画を策定した日本に先立つものである。 韓国のWPS政策推進の司令塔は性平等家族部(旧・女性家族部)であり、国家行動計画には国防部のほか外交部、統一部、法務部、行政安全部など11個の部処(省庁)と機関が参加している。 「性暴力の視点」と「4期行動計画」 決議1325に至る動因のうち、大きな一つは1990年代に内戦下の戦時性暴力が世界的な注目を


時の焦点<海外> 力による秩序
ルールなき核の時代 「強者はしたいことをして、弱者はそれを耐え忍ぶ」。1月20日、スイスのダボス会議で演説したカナダのカーニー首相は、古代ギリシャの歴史家トゥキディデスの言葉を紹介した上で、大国同士の競争でルールに基づく秩序が衰え、世界がトゥキディデスの時代に逆戻りしてしまうことに強い懸念を示した。 カーニー首相は2013年から約7年、外国人で初めてイングランド銀行総裁を務めたほどの頭脳と知性を備えた人物である。その品格によって抑制されたトーンではあったものの、演説はトランプ米大統領の「力による秩序」に対する、主要同盟国首脳からの事実上の拒否宣言だった。 トランプ大統領は年明け、米紙のインタビューで「私に国際法は必要ない」「私を止められるのは私のモラルだけだ」と語っている。耳を疑う、とはこのことだろう。早い話が、トランプ大統領のやっていることは、世界中を相手にした国家的パワハラに等しい。 世間でいうパワハラの要件とは(1)優越的な関係を背景に(2)社会通念上必要な範囲を超えて(3)労働者の就業環境を害すること、の3つだ。(1)は外交上の力関係、(
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