top of page
ブックレビュー


合憲自衛隊 新自衛隊法 九条のままでも戦える組織に 小川清史 著
「憲法改正して自衛隊を軍隊に」との意見があるが、著者は「自衛隊法を変えれば事実上の軍隊にできる」と指摘する。さらには「改憲しても法を変えなければ自衛隊も変わらない」という事実を突きつける。 そもそも軍隊は主権の下に海外へ力を向ける武力組織で、原則は法規制を受けない。一方、警察は法を根拠として主権者に対し強制力を発揮できる行政機関だ。 そのため、任務の与え方も異なる。軍隊は、国際法や交戦規定を通じてやってはいけないことを示す「ネガティブリスト」、警察には職務執行法でやっていいことを示す「ポジティブリスト」方式だ。 ところが、自衛隊法の各条には「必要最小限度の」「やむを得ない場合」「承認を求めなければ」と差し込まれた、あいまいな文言が並ぶ。前例のないことをする度に解釈をこねくりまわしているのが実態だ。 本書は現行法の批判に留まらず、弁護士や史学者と協力して、エスカレーションさせない体制を目指した実務に沿った改正法案を示す。 複雑化する安全保障環境に対応するための示唆に富む1冊。 (ワニブックス刊、1870円)


日本人誕生 4万年の物語 神話と科学で読み解く古代史の謎 同前宏 著
日本人誕生 4万年の物語 神話と科学で読み解く古代史の謎 いわゆる「精神世界」の分野で数多くの専門書を世に送り出してきた老舗出版社「たま出版」。 今回、同社が世に送り出した本書は2月の発刊ながら、すでに重版が決定しているという。 神戸市で歯科医院を開業している著者は、これまで延べ2万5000人以上の患者を診察する傍ら、郷土史家として古代史の研究を続けてきた。 本書はその成果をまとめたもので、日本考古学会が軽視してきた「旧石器時代」からの日本人の系譜をたどる意欲作だ。 なかでも歯科医師だからこそ語れる著者の考察は興味深い。 著者自身、過去にさまざまな国籍の患者の口腔(こうくう)内を診察してきた中で、海外の人は国籍によって「歯の形や歯並び、骨格など、口腔内にそれぞれの特徴があるのに、日本人だけはかなり多くのパターンが存在する」と語る。 その上で「日本人は、他の民族に比べて遺伝子の多様性が豊かな集団」であるからして、「『和』を大切にしてきた」というのは大いにうなずける。 (たま出版刊、1540円)


強いトヨタの源流 杉本祥郎 著
織機の製造による世界的な発明で財を成し、その勢いで自動車産業へ進出し、世界的企業へと成長したトヨタの“強さ”がどこから生まれたのかを、歴史・人物・思想を軸に深く掘り下げた。 創業者・豊田喜一郎の挑戦心から始まったトヨタ。 戦後の混乱期にも国産車づくりを諦めなかった執念が花開き、「現場主義」を軸に独自の企業文化が実を結んだ。こうした系譜が、どのように現在のトヨタを形づくっていったのかを丁寧に描いている。 トヨタ生産方式(TPS)の誕生と進化、カイゼンの精神、現地現物の姿勢など、トヨタを象徴する思想がどのように育まれたのかを、豊富なエピソードと共に紹介している。 また、技術革新への飽くなき探求や、短期利益に左右されない長期視点の経営哲学が、どのように世界の製造業に影響を与え続けているのかにも迫る。 同書では、企業史だけではなく、企業としての強さを、元社長秘書でもある著者が真正面から答える内容だ。 ビジネスパーソンはもちろん、組織づくりやリーダーシップに関心のある方々にも多くのヒントを与えてくれる。 (牧歌舎刊、1980円)


謀略とインテリジェンス 認知戦に無防備な日本 上田篤盛 著
国家の命運を左右する「謀略」と「インテリジェンス」の実像に迫る。古典的な諜報活動から現代の情報戦まで、国家がいかに情報を収集・分析し、時に謀略を用いて戦略的優位を確保してきたのかを体系的に論じた。 防衛省情報分析官を務めた著者が、サイバー攻撃、偽情報の拡散、世論操作、経済的威圧など、近年顕著となった“見えない戦い”の手法を具体的事例と共に解説する。 さらに急速に変化する情報環境の下で、国家が直面する脅威の構造を浮き彫りにする。 同書は、インテリジェンス機関の役割や組織運用の実態、民主主義国家が抱える倫理的課題にも踏み込み、情報が政策決定に与える影響を多角的に示す。 戦争の形態が変容し、軍事力だけでは抑止が成立しない時代において、情報優勢の確保が国家安全保障の基盤となることを強調する。 見えない戦場が広がる現代戦では、認知戦や情報操作が国家を揺さぶる。 誰もが情報を発信できるSNSが浸透する今、真実を見極める力を養うために同書を一読してはどうだろうか。 (並木書房刊、1980円)


国防神社 古代から大東亜戦争、そして現在 久野潤 著
各地に点在する国を守るための祈りの場――国防と神社の知られざる関係を立体的に描いた。 著者は、15年にわたり全国600社以上を巡り、戦争経験者への聞き取りを重ねてきた歴史学者。その圧倒的なフィールドワークが本書の骨格を成している。 引き込まれる点は、神社を単なる宗教施設としてではなく、「国の歴史と精神の連続性を映す鏡」として読み解く視点だ。 旧海軍艦艇に祀(まつ)られた艦内神社や、各地の招魂社、楠木正成や西郷隆盛を祀る社など、歴史の節目に登場する「祈りの場」が、どのように国防意識と結びついてきたのかを丁寧に説明している。 また旧皇族の竹田恒泰氏との対談も収録し、神道と国家観、そして現代の私たちが見落としがちな「祀る」という行為の意味を掘り下げる。 神社といえば「静かな場所」を思い浮かべがちだが、その背後にあるダイナミックな歴史の流れを可視化し、祈りがどのように国を支えてきたのかが見えてくる。読み終えた後、思わずどこかの神社に参拝したくなるだろう。 (ワニブックス刊、1980円)


大人も知らない? 料理と食事のふしぎ事典 星玲奈 著
日々の食卓には、気づかないまま通り過ぎている小さな疑問がある。本書は料理と食事の身近な“なぞ”にそっと理由を添えてくれる一冊だ。 たとえば、せんべいの定番「サラダ味」。野菜サラダの味ではなく、サラダ油と塩味の組み合わせを指すという。 サラダ油が“生野菜にそのまま使えるさらりとした油”として名付けられたことに由来し、塩味との差別化のために「サラダ味」と表記されるようになった。知っているようで知らなかった背景に、思わずうなずいてしまう。 身近な“なぞ”を、短い読み物として軽やかに解説している。 「野菜や果物」「お米や小麦」「お菓子」「食材」「調理」「生活」の六つの章にわたり、55の“ふしぎ”を紹介。 「大人も知らない?」シリーズは、親子で楽しめる軽快さが魅力だが、世代を問わず会話のきっかけになる。食卓に置いておけば、家族の話題がひとつ増えるかもしれない。 (マイクロマガジン社刊、1210円)


日本消滅 今なら間に合う、保守の団結 平井宏治 著
本書は、経済安全保障の専門家である著者が、現在の日本が直面している外国勢力の静かなる侵略と存亡の危機を鋭く浮き彫りにし、真の国益を守るために保守層の団結を呼びかける一冊である。 著者は、保守を謳(うた)う自由民主党が近年の政権下において変質し、日本の国益や伝統的な価値観を自ら毀損(きそん)していると厳しく批判している。 本書の最大の読みどころは、それが単なるイデオロギー的な政治批判にとどまらない点にある。 著者の実務経験に裏打ちされた「経済安全保障」という冷徹なファクトに基づき、日本の危機的状況を論理的に解き明かしている。 具体的には、メガソーラーの乱開発などを取り上げ、日本のエネルギー・インフラや国土がいかに中国をはじめとする外国資本に依存・侵食され、安全保障上の重大なリスクを抱えているかを詳細に解説している。 また、過去の政権に対する批判も痛烈だ。小泉内閣が推進した労働規制緩和や郵政民営化などを例に挙げ、行き過ぎた競争原理を強いる「新自由主義」の価値観は日本の伝統や文化にそぐわず、結果として国力の衰退につながったと断じている。...


パレスチナ/イスラエルを読み解く 錦田愛子 著
約500ページに及ぶ大著である。分量的に忌避する人が多いと思うが、この本は違う。 題名を見れば、この本が提供するべき情報や内容がこれだけのものになることは当然だと思うが、理由はそれではない。 著者はこの本を書き上げるに当たり、原稿執筆が「遅れに遅れた」ことで逆に「こうなったら徹底的にデータの裏を取り、納得のいくものを出したいという気持ちが強くなった」と吐露する。 「文章の読みやすさ、説明する事態の流れのつながりや因果関係など、気になる点をさらに書き込むことにした」 メディア出身の父から「文章は簡潔に書くべし」と言われ続けたエピソードなどからも、著者の本書にかけた並々ならぬ思いが伝わる。 「納得いくまでやらないと気が済まない」性分の著者が描くパレスチナとイスラエルの対立構造について、誰もが理解しやすいよう解説している。 今後の中東情勢を巡る議論の上で、まさにバイブル的存在となる大著だ。 (えにし書房刊、2970円)


ワインとビールの考古学 小泉龍人 著
ワインは約8千年前から、現・ジョージア周辺の南コーカサス地方で造られていたという。出土した土器にワインのカスが付着していたのだ。もともと野ブドウを保管する習慣があり、気候も栽培に適していることから、すでに名産地となっていたとされる。 一方、ビールはメソポタミアで生まれた。パンとビールのどちらが先かは分かっていないが、醸造法を伝える賛歌が見つかっている。 両地周辺の都市遺跡や飾り板・印章からは、ビールとワインが支配者に献上され、交易品として外交にも使われた形跡があり、少しずつ普及していったことが分かる。 古代には、貯蔵、飲用、注酒用といった用途ごとにさまざまな土器が作られた。その意匠から、支配体制の移り変わりや市民の暮らしぶりが読み取れる。 今でも、お世話になった人に贈るため、気の置けない人と酌み交わすため、楽しく晩酌するため、ワインとビールが流通している。古代の人々はどのように酒を楽しんでいたのだろうか。帰り道は書店と酒屋へ。 (同成社刊、2310円)


何がダサいを決めるのか 平芳裕子 著
ファッションの世界はおしゃれ至上主義である。しかし、世間一般の価値観は少し違っているようだ。本書では東京大学でファッションに関する講義を行った著者が、現代のファッション心理を歴史や社会背景を振り返りながら解き明かしていく。 ネット上では年相応でその人に似合っていないファッションをする大人が「パーカーおじさん」「カジュアルおばさん」といった名前で呼ばれ批判されてしまう。就職活動やビジネスの場では当然のようにスーツやヒールの高い靴が求められる。 その場にふさわしく、マナーを守り、年相応でなくてはならない。そこから逸脱したファッションは「ダサい」と呼ばれ、悪のように扱われる。そんなどこか窮屈で、不自由な空気がファッションの世界には蔓延(まんえん)しているのだ。 「なぜ他人の服装が気になってしまうのか」「パーカーが支持されるのはなぜか」「ビジネスではなぜスーツを着るのか」「ふさわしさとはどのように決まるのか」――。 ファッションの評価基準はどのように生まれ、何がダサいを決めているのか。 身近な服装をとりまく習慣や歴史を知ることで、私たちが囚(とら)われて


東大現代中国学 習近平時代の中国を問う 丸川知雄・伊藤亜聖 編
現代中国を多角的に理解するための講義形式の論集である。東京大学の政治・経済・社会・歴史分野の研究者が結集し、中国の現在像を体系的に描き出す。 長期化する習近平政権の統治構造やその安定性を軸に、不動産不況による経済減速、米中対立の長期化といった内外の課題を整理し、中国を総合的に解釈する。 内容は、(1)政治・国際関係(2)香港・台湾・民族問題(3)経済(4)社会(5)研究方法――の5部構成で、外交戦略から農村社会、華人ネットワークまで幅広く分析。 特に台湾や香港をめぐる問題や民族と歴史認識の関係など、安全保障とアイデンティティーの交錯領域に丁寧に踏み込む。また、産業政策や都市・不動産問題などの経済分析に加え、データ活用や歴史学的視点など研究方法論も提示し、「どう中国を捉えるか」という視座を示す。 講義形式の平易さと学術的厚みを兼ね備え、初学者から実務家まで現代中国の全体像を把握するための一冊だ。 (東京大学出版会刊、3300円)


軍用ドローンの展開 ダリル・ジェンキンス、デビッド・クライン 著、小林恵介 訳
現代の戦い方を大きく変えた軍用ドローン。その運用を支える中核技術として、機体を空へ送り出し、安全に回収するための「発射・回収システム」と、対象に接触することなく情報を取得・分析する「リモートセンシング技術」を本書は分かりやすく解説する。 これらの技術を理解することで、ドローンの作戦能力を支える発射・回収機構の重要性と、意思決定に不可欠な情報収集の仕組みを体系的に学ぶことができる。 近年、軍事作戦における無人航空機(UAV)の重要性が高まっており、発射・回収技術やセンサー運用は、その能力を最大限に引き出すための要となっている。 著者の二人は航空・安全保障分野で長年にわたり研究と実務に携わってきた専門家で、複雑な技術的概念を専門外の読者にも明快に説明している。UAVの基礎から応用まで、段階的に学べる構成となっている。 軍事技術に関心のある読者はもちろん、UAVの最新動向を学びたい学生や研究者、関連業務に携わる実務者にとっても確かな知識を得られる一冊。「軍用ドローンの教科書」シリーズの第4弾。 (芙蓉書房出版刊、2750円)


海軍の選択 再考 真珠湾への道 相澤淳 著
日本史研究に貢献する同社の定期刊行シリーズ「読みなおす日本史」の最新作。 言わずもがな、太平洋戦争は旧日本海軍によるハワイ真珠湾への攻撃で幕を開けた。この作戦を指揮したのが、連合艦隊司令長官だった山本五十六だ。 戦果として見れば、この作戦で大きな結果を残したものの、欧米諸国の造詣が深い山本は、圧倒的に物量差のある英米との戦いには終始反対の姿勢だったという。その不安は的中し、戦争が進むにつれ日本は敗戦を重ねていくことになる。 ここまでは、多くの人が知るところ。しかし当時の日本海軍には、山本と同じく英米との協調を望む者が少なからずいた。しかも一方で山本自身、まるで戦いを望むかのような言葉を残している。本書では、従来の通説に疑問を呈し、独自の研究によって戦間期の日本海軍を書き直した。 著者は上智大学や防大で教授を歴任した博士。少年期に戦争をテーマにした映画を夢中になって観ていた中で、ふと山本の描かれ方に違和感を覚え、当時の日本海軍に興味を持ったという。そうした少年時代の「なぜ」が原点となって、海軍の真実を浮き彫りにする。 (吉川弘文館刊、2420円)


生還特攻 4人はなぜ逃げなかったのか 戸津井康之 著
本書は死を覚悟して飛び立ったものの、結果的に「生きて帰ってきた」元特攻隊員たちに光を当てた。 出撃命令を受け、家族を残し、死地へと向かった若者たち。しかし、機体のエンジントラブルや悪天候などの不可抗力によって、基地への帰還を余儀なくされた者も少なくなかった。 本作が突きつけるのは、生還した彼らを待ち受けていた過酷な現実だ。「なぜ死んでこなかったのか」「卑怯(ひきょう)者」といった周囲の心ない視線や軍上層部の冷遇などが克明に描かれている。 本書の最大の読みどころは、戦後何十年も沈黙を守り続けてきた元隊員たちが、重い口を開いて語る「生き残った者の罪悪感」である。「戦友は先に死にゆくのに、自分だけが生き延びてしまった」という十字架を生涯背負った彼らにとって、戦後は決して平穏ではなかった。著者の地道で誠実な取材が、分厚い心の扉を開き、その奥底にあった真実の声をすくい上げている。 歴史の影に埋もれがちな「生者の苦悩」を通じて、「特攻隊」に新たな視点を与える作品である。 (光文社新書刊、1144円)


歴史を変えた戦略家たち上・下 フィリップス・ペイソン・オブライエン 著 加藤洋子 訳、石津朋之 解説
第2次大戦期を代表する指導者として必ず対比されるのがチャーチル、スターリン、ローズヴェルト、ムッソリーニ、ヒトラーの5人だ。 当時の世界情勢を左右した、いわゆる“ザ・ファイブ”について著者は「行動がいかに個人的かつ支離滅裂であったかを示したい」と、本書を書く動機について明らかにしている。 上巻は5人それぞれが指導者になる前にさかのぼり、「彼らの戦略的思考形成と全体像に迫る」。従軍体験などが若かりし5人に与えた影響を詳述する。 それらを踏まえ、下巻では「第2次大戦時の彼らの思考のぶつかり合いを見てゆく」。 下巻を読む醍醐味(だいごみ)について、著者はこう明解に表現する。 「欠点のある個人が流動的な状況下でいかに独自の選択を行ったかである」と。 たとえ優秀な部下からの助言や判断材料があろうとも「ザ・ファイブは聞く耳を持たず、良くも悪くもやりたいことをやってのけた」。 こうした戦略家たちの人生を垣間見て、今の世界情勢を考えてみるのもいいだろう。 (東京堂出版刊、上・下巻とも3080円)






