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ブックレビュー


歴史を変えた戦略家たち上・下 フィリップス・ペイソン・オブライエン 著 加藤洋子 訳、石津朋之 解説
第2次大戦期を代表する指導者として必ず対比されるのがチャーチル、スターリン、ローズヴェルト、ムッソリーニ、ヒトラーの5人だ。 当時の世界情勢を左右した、いわゆる“ザ・ファイブ”について著者は「行動がいかに個人的かつ支離滅裂であったかを示したい」と、本書を書く動機について明らかにしている。 上巻は5人それぞれが指導者になる前にさかのぼり、「彼らの戦略的思考形成と全体像に迫る」。従軍体験などが若かりし5人に与えた影響を詳述する。 それらを踏まえ、下巻では「第2次大戦時の彼らの思考のぶつかり合いを見てゆく」。 下巻を読む醍醐味(だいごみ)について、著者はこう明解に表現する。 「欠点のある個人が流動的な状況下でいかに独自の選択を行ったかである」と。 たとえ優秀な部下からの助言や判断材料があろうとも「ザ・ファイブは聞く耳を持たず、良くも悪くもやりたいことをやってのけた」。 こうした戦略家たちの人生を垣間見て、今の世界情勢を考えてみるのもいいだろう。 (東京堂出版刊、上・下巻とも3080円)


台湾有事と憲法改正 西修 著
憲法9条2項に「戦力は、これを保持しない」とある。「自衛隊は?」という問いに政府はさまざまな解釈を答えてきた。そうした理論武装で冷戦を生き抜いた自衛隊の歴史は、明治維新から終戦まで77年間存在した旧軍の歴史を超えようとしている。 今や国民の9割が戦後生まれで戦争や軍隊は対岸の火事。軍人ではない「迷彩服を着た特別職の公務員が国を守ってくれる」と教わってきた。 終戦から80年。集団的自衛権の行使と防衛装備移転ができるようになり、国家情報局が創設される。「国論を二分する政策」が進められ、もし国民投票となったらどうするか。 本書は、憲法制定の経緯や政府答弁のほか、外国憲法と比較して、政府や自衛隊が抱える課題と憲法議論の論点を浮き彫りにする。 「正義と秩序を基調とする国際平和を“誠実に”希求」するためにはきれい事も本音も知識も必要だ。 ウクライナやイラン情勢の先行きが見えない中、自分たちの国を「誰がどのように守るのか」考えずにはいられない。 (育鵬社刊、1980円)


米国海軍大学元教官が教える 自律型チームのつくり方 浅野 潔 著
軍事組織の最前線で磨かれた「自律型チーム」の育成メソッドを、ビジネスの現場で再現できるよう体系化した一冊だ。 元海上自衛官の幹部として災害派遣や中東派遣を経験した著者は、米国海軍大学で外国人教官として指導した経歴を持つ。 軍事組織マネジメントのスペシャリストである著者が、業務を「何のためにやるのか」という目的を示し、やり方は部下に任せる「ミッション・コマンド」を解説する。 さらに、部下の判断力と行動力を引き出す「GUIDES(ガイズ)モデル」、状況を読み切る「意思決定力」、複雑な課題を突破する「作戦発想力」など、実践的なフレームワークが豊富に紹介されている。 「指示待ちの部下が多い」「自分が多忙で任せられない」といった悩みを抱えるリーダーにとって、本書は「任せる力」と「任される力」を同時に育てるための具体的な道筋を示す。 「VUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)」の時代に成果を出し続けるチームづくりのヒントが詰まっており、現場で使える新しいマネジメント教本だ。 (フォレスト出版、1815円)


神国日本 小泉八雲著、田部隆次・戸田明三共訳
明治の文豪である小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の遺稿を復元し、日本人の精神性を独自の視点で描き出した。八雲の最晩年の著作とされる本書は、これまで“不敬”として削除された部分を追加したことで、当時の思想的背景や日本観をより立体的に浮かび上がらせた。 日本人の死生観、神道・仏教観、キリスト教観、そして天皇制は、外来の知識人である八雲が驚きをもって観察した日本文化の核心である。西洋的合理主義では捉えきれない「日本人の国民性」を、敬意と情熱をもって言語化しようとした。 特に天皇制を巡っては、当時の国際情勢や西洋の視線を踏まえ、日本社会の精神的支柱を読み解こうとする姿勢が印象的だ。 また、巻末には、昭和天皇の逸話として知られる「マッカーサーとフェラーズの会話」を引用し、八雲の日本論が戦後の歴史認識にも影響を与えた可能性を示唆する。日本人が忘れかけている精神文化を、外部の視点から再発見させてくれる点も本書の魅力だ。 日本文化の源流を知りたい読者、八雲作品の愛好者、あるいは日本の精神史に関心を持つ人にとって必読の本とも言えるだろう。 (毎日ワンズ刊、1650


一気にわかる! 池上彰の世界情勢2026 トランプ関税ショック、その先にある世界編 池上 彰 著
国際情勢の複雑さが増すいま、ニュースの背景を丁寧に読み解く解説で定評のある池上彰氏の最新刊。 2025年以降の世界経済と外交を揺るがす「トランプ関税ショック」を軸に、米中対立の長期化、ウクライナ戦争の行方、中東情勢の不安定化、さらには日本経済や企業活動への波及まで、多角的な視点から未来を展望する。 池上氏ならではの平易な語り口はそのままに、複雑な国際問題を「なぜそうなるのか」という根本から丁寧に整理・解説している。写真や図も随所に使って理解しやすい構成だ。 また、時事解説にとどまらず、各国の政策がどのように連鎖し、世界全体の秩序や市場に影響を与えるのかといった「未来への予兆」にも光を当てる。 国際情勢を学び始めた学生から、ニュースを深く理解したい社会人まで、変化の激しい世界の動きをつかむための入門書として心強い存在となる。 (毎日新聞出版刊、1210円)


飛鳥の古代史 大化の改新と日本国誕生の謎を解く 瀧音能之 著
長きにわたる日本の歴史の中で、政治的に最も不安定だったと言われる飛鳥時代。史上唯一の天皇暗殺や、栄華を極めた蘇我氏が滅亡した乙巳の変のほか、古代最大のクーデターとなった壬申の乱など、大きな混乱が生じた。その中で、政治の大改革を担ったのが、5代4人の女帝だった。 7世紀当時、日本は有力な豪族によるヤマト王権から天皇を中心とする律令国家への転換期を迎えた。しかし、そうした変革によって多くの反発や抵抗を招いたが、女帝たちが振るった大ナタが、激変する時代を導いていった。 特に41代持統天皇から43代元明天皇までの藤原京は、その後の平城京や平安京を超える規模だったとも考えられ、後世にも大きな影響を与えたことがうかがえる。 飛鳥時代は、制度や王都のスクラップ・アンド・ビルド。王権から朝廷へ、天皇の絶対的地位の確立など、それまでには見られないような大胆な変化があった。また、仏教の伝来や、遣唐使を通じた外交の確立など、文化の面でも大きな変化があった。 当時は日本の国家像を模索した「実験の世紀」であり、この1冊には変革の時代を紐解(ひもと)くロマンがあふれる。 (


中東戦争最前線 飯山 陽 著
「日本のメディアによる中東報道は現実と乖離(かいり)している」――。イスラム思想研究者である著者は本書でそう断言する。 日本のマスメディアとは異なる視点から、激動する中東情勢を読み解いた一冊だ。 日本のメディアは「可哀想なパレスチナと残虐なイスラエル」という二元論で報じがちだ。例えばイランの核問題に関しても「民生利用のための開発であり、兵器開発はしていない」と伝えるが、現実には民生用に不要な高濃縮ウランを大量に生産・保有している。 世界各国が核保有阻止に奔走している中、日本だけが別の世界にいるかのような錯覚に陥る報道っぷりだ。 著者はこうしたメディアの姿勢を痛烈に批判しており、既存のニュースに不信感を抱く人には、特にお薦めしたい。 また、アメリカの動向に切り込んでいる点も見どころだ。トランプ政権による「ハーバード大学への政府助成金などの凍結」騒動を取り上げ、なぜ凍結に至ったのか、名門大学でどのような中東研究が行われているのかを詳解している。 偏った報道のベールを剥がし、国際政治のシビアな現実を浮き彫りにする本作は、中東情勢の「真実」を知るきっかけ


日出ずる国へ イタリア外交官の日伊交流再発見の旅 マリオ・ヴァッターニ著、草皆 伸子訳
イタリアの外交官で現・駐日大使のマリオ・ヴァッターニ氏が、日本を旅しながら出会った風景や日伊両国の交流の歴史を紹介する味わい深いエッセイ集だ。 ヴァッターニ氏は大阪・関西万博イタリア館の政府代表も務めた人物で、日本への親しみと敬意が行間から自然に伝わってくる。 物語は2004年早春に著者がバイクで巡った東北の旅から始まる。会津の町並みや、雨宿りのために立ち寄った寺で過ごした静かな時間が、どこか懐かしい日本の原風景として描かれる。 飯盛山で自刃した白虎隊から陸上自衛隊東部方面総監部で割腹自殺した三島由紀夫まで話が飛ぶこともあれば、日伊交流の知られざる歴史についても語られる。 旅の終わりに京都・龍安寺の石庭を前にして、著者が静かに思索する場面は、両国の間に流れてきた長い時間をそっと見つめ直すような余韻を残す。 日伊のつながりを、歴史と旅の両面からやさしく照らし出す一冊である。 (三修社刊、1980円)


海鷲の翼 F2戦闘機 進化するマルチロール機 小峯隆生著、柿谷哲也撮影
「平成の零戦」と称されるF2戦闘機の完成までの道のりは平坦ではなかった。国産ゆえの技術課題や不具合が相次ぎ、実戦に使える機体へと育て上げたのは現場だった。 3飛行隊(百里)の歴代隊長をはじめ、パイロットや整備員の証言を積み重ね、同機がマルチロール機へと成長していく過程を追う。浮かび上がるのは、機体の限界を確かめるため命懸けで飛び続けた隊員たちの姿だ。前例のない課題に直面しながらも、それを乗り越えようとする執念と誇りが、機体の性能を引き出してきた。 写真家・柿谷哲也氏の口絵は、空を守る者たちの緊張と矜持(きょうじ)を静かに映し出し、証言の重みを視覚的に訴える。 本書は技術書の枠を超えた人間の物語だ。F2の真価は諸元表には表れない、人々の情熱と覚悟にある。 次期戦闘機の開発が進む今、日本の航空戦力の現在地を知る上で貴重な証言集となるだろう。 (並木書房刊、1980円)


大人も知らない? ふしぎなバイアス事典 ふしぎなバイアス研究会編
私たちが日常生活の中で無意識に抱いている「思い込み」や「先入観」=バイアスを、具体例と共に丁寧に解き明かした一冊。人はなぜ自分に都合のよい情報ばかりを信じてしまうのか、なぜ第一印象に大きく左右されるのか――。本書ではそんな「確証バイアス」や、周囲の人々、集団の意見・行動に合わせてしまう「同調バイアス」など代表的な心理のクセを多数取り上げ、それぞれの仕組みと影響を解説する。 各項目はイラスト付きで簡潔にまとめられ、子どもでも理解できるやさしい構成でありながら、大人も思わずうなずく内容が詰まっている。さらに、買い物や人間関係、仕事上の判断といった身近な場面でバイアスがどのように働き、時に誤った意思決定を招くのかを具体的に示す。 単なる知識の紹介にとどまらず、自分の考え方の偏りに気付くためのヒントや、より客観的に物事を捉えるための視点も提示。情報があふれる現代において、冷静に判断する力を養う手助けとなる実用的な入門書になるだろう。 (マイクロマガジン社刊、1100円)


戦争論 レクラム版 カール・フォン・クラウゼヴィッツ 著、日本クラウゼヴィッツ学会 訳
クラウゼヴィッツの有名な言葉「戦争の本質は他の手段による政治の継続である」――。この思考を原典に即して読み解く入門書として評価されてきたレクラム版『戦争論』が、新装改訂版として生まれ変わった。 初版から四半世紀を経て、日本クラウゼヴィッツ学会が基本的な意義を損なうことなく、より正確なテキストとして再構成した。クラウゼヴィッツ思想の中核をなす第一編「戦争の本質について」、第二編「戦争の理論について」、第八編「戦争計画」など、戦略の骨格部分を中心にまとめている。 摩擦、偶然、情報の不確実性といった概念は、現代のリスク社会や安全保障環境にも通じる視座を提供する。 戦争の本質を政治との関係から捉えるクラウゼヴィッツの思考を、原典の流れに沿って解説している。 今回の改訂では、訳語の統一や文意の精査に加え、クラウゼヴィッツの生涯、『戦争論』の成立過程、現代戦への射程を論じた解説論稿を収録。初学者にも読み進めやすく、専門的な議論にも耐える内容となった。 研究者から安全保障分野の実務者まで幅広い読者に向けたクラウゼヴィッツ研究の定番テキストだ。 (芙蓉書房出版刊


昔話の民俗学入門 島村恭則 著
日本人なら誰もが親しんできた昔話。その背後には、長い歴史の中で育まれた“日本文化の古層”が静かに息づいている。 本書は、民俗学者の島村恭則氏が昔話や童謡、民話といった身近な伝承に潜む意味を丁寧に読み解き、民間伝承の世界へと読者をいざなう。 桃太郎はなぜ山から下ってきたのか、金太郎の正体は精霊なのか、「因習村」は実在するのか――日常の中で何気なく触れてきた物語の奥に潜む“謎”が、次々と浮かび上がる。 図解イラストを交え、一項目ごとに見開きで完結する構成は、読みやすさと理解のしやすさを両立している。読み進めるほどに、民俗学の基礎知識だけでなく、伝承を読み解くセンスが自然と身についていくであろうと著者は言う。 昔話の奥深い世界をひもとき、伝承が生まれ、語り継がれてきた仕組みを把握し、さらに現代の都市伝説へと視野を広げていく全4章から成る構成。民間伝承の面白さを自ら発見したくなる最良の入門書だ。 (創元社刊、1980円)


日露戦争と日本像の転換 飯倉 章 著
20世紀初頭、欧米列強の眼中になかった日本。しかし、日露戦争で勝利を重ねていく日本は次第に注目されるようになる。本書は日露戦争期に欧米社会が抱いた「日本像」がどのように変化したのかを、当時の新聞や雑誌などの膨大なメディア史料から解き明かした一冊だ。 日本が単なる極東の小国から、白人支配の国際秩序を揺るがす「異質な強国」として認識され、欧米各国にとっての「脅威」や「ライバル」、さらには「モデル」へと変貌していく過程を実証的に描き出している。 本書で特筆したい点は、その圧倒的なリサーチ力だ。欧米の権威ある主要メディアだけでなく、大衆向けの三流紙に至るまで幅広い文献が引用されており、当時の「世論の様子」が手に取るように分かる。 「世界から見た日本」というイメージが、メディアの報道によってどう作られ、どう変わっていったのか。歴史好きはもちろん、現代のネットニュースや、SNSの世論の動きに興味がある人にも薦めたい作品になっている。 (吉川弘文館刊、9350円)


自由民主主義入門講義 仲正 昌樹 著
現代を生きる私たちは、自由とは何か、民主主義とは何かをどれほど深く考えてきただろうか。そして、自由民主主義を本当の意味で理解していると言い切れるだろうか。本書は、多くの人が身構えがちなこのテーマを、基本から丁寧に考えていく一冊だ。 著者は、現代の「自由民主主義」はもはや自明のものではなく、危機にひんしていると指摘する。近代最大級のリスクイベントとなった新型コロナのパンデミック初期には、個人の自由が「わがまま」とみなされ、自由の制限が当然視される空気が広がった。このとき、リベラル派が非常事態宣言を求めるなど、従来の立場を転換したかのような動きも見られたという。 さらに、安倍晋三元首相銃撃事件を契機とした統一教会問題では、山上徹也被告の行為を「仕方がない」と受け止める有識者が少なくなかった点に著者は驚いたと述べる。また、信者を「マインドコントロールされている」と決めつけ、自由な判断を認めない風潮にも疑問を呈する。 著者は、こうした自称リベラル派の言動が、実はトランプ氏の思考と大差なく、本来のリベラルから大きく逸脱していると論じる。そのうえで、自由主義


レッドチーミング入門 軍隊式意思決定術 北村 淳 著
思い込みや前提への固執は、思考を固めてしまう。そこに異論や敵対的な視点をあえて差し込む「レッドチーミング」はアタマの凝りをほぐしてくれるかもしれない。 古代から近現代の軍事演習までの幅広い事例を挙げ、認知バイアスや権威への盲信がどのように敗北を招いたかをひも解く。カトリック教会の聖人審査で設けられた役職「悪魔の代弁者」や米英軍の教範を挙げ、理論と手順を実務に結びつけて解説する。 台湾有事のシミュレーションで戦時閣僚役のホームチームと、反論するレッドチームが議論を通じて政策・戦略を磨き合う過程には、レッドチーミングの効果が如実に表れている。 後半では、日本の組織風土にも言及。異論を受け入れにくいJTC(Japanese Traditional Company)の癖を分析する。 変化の激しい今、最悪を想定し前提を疑う習慣は、軍事・外交だけでなく企業や個人の判断力を高めるためにも必須だ。 意思決定の現場に立つ全ての人に手に取ってほしい。 (並木書房刊、1980円)
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