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ブックレビュー


大人も知らない? ふしぎなバイアス事典 ふしぎなバイアス研究会編
私たちが日常生活の中で無意識に抱いている「思い込み」や「先入観」=バイアスを、具体例と共に丁寧に解き明かした一冊。人はなぜ自分に都合のよい情報ばかりを信じてしまうのか、なぜ第一印象に大きく左右されるのか――。本書ではそんな「確証バイアス」や、周囲の人々、集団の意見・行動に合わせてしまう「同調バイアス」など代表的な心理のクセを多数取り上げ、それぞれの仕組みと影響を解説する。 各項目はイラスト付きで簡潔にまとめられ、子どもでも理解できるやさしい構成でありながら、大人も思わずうなずく内容が詰まっている。さらに、買い物や人間関係、仕事上の判断といった身近な場面でバイアスがどのように働き、時に誤った意思決定を招くのかを具体的に示す。 単なる知識の紹介にとどまらず、自分の考え方の偏りに気付くためのヒントや、より客観的に物事を捉えるための視点も提示。情報があふれる現代において、冷静に判断する力を養う手助けとなる実用的な入門書になるだろう。 (マイクロマガジン社刊、1100円)


戦争論 レクラム版 カール・フォン・クラウゼヴィッツ 著、日本クラウゼヴィッツ学会 訳
クラウゼヴィッツの有名な言葉「戦争の本質は他の手段による政治の継続である」――。この思考を原典に即して読み解く入門書として評価されてきたレクラム版『戦争論』が、新装改訂版として生まれ変わった。 初版から四半世紀を経て、日本クラウゼヴィッツ学会が基本的な意義を損なうことなく、より正確なテキストとして再構成した。クラウゼヴィッツ思想の中核をなす第一編「戦争の本質について」、第二編「戦争の理論について」、第八編「戦争計画」など、戦略の骨格部分を中心にまとめている。 摩擦、偶然、情報の不確実性といった概念は、現代のリスク社会や安全保障環境にも通じる視座を提供する。 戦争の本質を政治との関係から捉えるクラウゼヴィッツの思考を、原典の流れに沿って解説している。 今回の改訂では、訳語の統一や文意の精査に加え、クラウゼヴィッツの生涯、『戦争論』の成立過程、現代戦への射程を論じた解説論稿を収録。初学者にも読み進めやすく、専門的な議論にも耐える内容となった。 研究者から安全保障分野の実務者まで幅広い読者に向けたクラウゼヴィッツ研究の定番テキストだ。 (芙蓉書房出版刊


昔話の民俗学入門 島村恭則 著
日本人なら誰もが親しんできた昔話。その背後には、長い歴史の中で育まれた“日本文化の古層”が静かに息づいている。 本書は、民俗学者の島村恭則氏が昔話や童謡、民話といった身近な伝承に潜む意味を丁寧に読み解き、民間伝承の世界へと読者をいざなう。 桃太郎はなぜ山から下ってきたのか、金太郎の正体は精霊なのか、「因習村」は実在するのか――日常の中で何気なく触れてきた物語の奥に潜む“謎”が、次々と浮かび上がる。 図解イラストを交え、一項目ごとに見開きで完結する構成は、読みやすさと理解のしやすさを両立している。読み進めるほどに、民俗学の基礎知識だけでなく、伝承を読み解くセンスが自然と身についていくであろうと著者は言う。 昔話の奥深い世界をひもとき、伝承が生まれ、語り継がれてきた仕組みを把握し、さらに現代の都市伝説へと視野を広げていく全4章から成る構成。民間伝承の面白さを自ら発見したくなる最良の入門書だ。 (創元社刊、1980円)


日露戦争と日本像の転換 飯倉 章 著
20世紀初頭、欧米列強の眼中になかった日本。しかし、日露戦争で勝利を重ねていく日本は次第に注目されるようになる。本書は日露戦争期に欧米社会が抱いた「日本像」がどのように変化したのかを、当時の新聞や雑誌などの膨大なメディア史料から解き明かした一冊だ。 日本が単なる極東の小国から、白人支配の国際秩序を揺るがす「異質な強国」として認識され、欧米各国にとっての「脅威」や「ライバル」、さらには「モデル」へと変貌していく過程を実証的に描き出している。 本書で特筆したい点は、その圧倒的なリサーチ力だ。欧米の権威ある主要メディアだけでなく、大衆向けの三流紙に至るまで幅広い文献が引用されており、当時の「世論の様子」が手に取るように分かる。 「世界から見た日本」というイメージが、メディアの報道によってどう作られ、どう変わっていったのか。歴史好きはもちろん、現代のネットニュースや、SNSの世論の動きに興味がある人にも薦めたい作品になっている。 (吉川弘文館刊、9350円)


自由民主主義入門講義 仲正 昌樹 著
現代を生きる私たちは、自由とは何か、民主主義とは何かをどれほど深く考えてきただろうか。そして、自由民主主義を本当の意味で理解していると言い切れるだろうか。本書は、多くの人が身構えがちなこのテーマを、基本から丁寧に考えていく一冊だ。 著者は、現代の「自由民主主義」はもはや自明のものではなく、危機にひんしていると指摘する。近代最大級のリスクイベントとなった新型コロナのパンデミック初期には、個人の自由が「わがまま」とみなされ、自由の制限が当然視される空気が広がった。このとき、リベラル派が非常事態宣言を求めるなど、従来の立場を転換したかのような動きも見られたという。 さらに、安倍晋三元首相銃撃事件を契機とした統一教会問題では、山上徹也被告の行為を「仕方がない」と受け止める有識者が少なくなかった点に著者は驚いたと述べる。また、信者を「マインドコントロールされている」と決めつけ、自由な判断を認めない風潮にも疑問を呈する。 著者は、こうした自称リベラル派の言動が、実はトランプ氏の思考と大差なく、本来のリベラルから大きく逸脱していると論じる。そのうえで、自由主義


レッドチーミング入門 軍隊式意思決定術 北村 淳 著
思い込みや前提への固執は、思考を固めてしまう。そこに異論や敵対的な視点をあえて差し込む「レッドチーミング」はアタマの凝りをほぐしてくれるかもしれない。 古代から近現代の軍事演習までの幅広い事例を挙げ、認知バイアスや権威への盲信がどのように敗北を招いたかをひも解く。カトリック教会の聖人審査で設けられた役職「悪魔の代弁者」や米英軍の教範を挙げ、理論と手順を実務に結びつけて解説する。 台湾有事のシミュレーションで戦時閣僚役のホームチームと、反論するレッドチームが議論を通じて政策・戦略を磨き合う過程には、レッドチーミングの効果が如実に表れている。 後半では、日本の組織風土にも言及。異論を受け入れにくいJTC(Japanese Traditional Company)の癖を分析する。 変化の激しい今、最悪を想定し前提を疑う習慣は、軍事・外交だけでなく企業や個人の判断力を高めるためにも必須だ。 意思決定の現場に立つ全ての人に手に取ってほしい。 (並木書房刊、1980円)


〈平等〉の人類史 ―先史時代から アイデンティティ・ポリティクスまで ダリン・M・マクマホン 著、東郷えりか 訳
本書は、「平等」という概念の起源を先史時代にまでさかのぼって考察する。 石器時代の洞窟画に見られる処刑場面や集団行動の描写を手がかりに、権力の独占や序列化への警戒が働き、集団の結束を脅かす「成り上がり者」を排除することで秩序維持の機能が果たされていたことを紹介する。 しかし、農耕と定住が進むにつれて富と権力の集中が生まれ、「不平等」が構造化していく過程を、時代とともに追っていく。 古代ギリシャでは市民の「平等」が掲げられた一方で奴隷は排除され、宗教も共同体の結束を促しつつ異教徒を分断した。 近代においても「平等」がうたわれながら、性別・人種・資産による差別は依然として残った。 20世紀に台頭したファシズム国家は「平等」を自民族に限定し、他者の排除を正当化した。著者は、当時の日本もナショナリズムを利用し、国民統合と排除を同時に進めたと指摘する。 現在も格差拡大や排外主義など、「平等」は未完の課題である。だからこそ、その実現に向けて人類史をたどる作業は必要だと認識させられる。 (作品社刊、4950円)


「日航123便墜落『撃墜説』の真相」海上自衛隊元最高幹部が解き明かす 真殿知彦 著
1985年8月12日、御巣鷹(群馬県)の尾根に墜落した日航123便。520人が犠牲となった未曽有の航空事故から40年が経つ今も、ネット上では「自衛隊による撃墜説」といった陰謀論が繰り返し語られている。本書では、こうした言説に真正面から向き合い、科学的根拠に基づいて検証した。 著者は、海上自衛隊で長年にわたり防衛戦略や現場指揮に携わってきた人物。元最高幹部としての知見をもとに、撃墜説の根拠とされてきた「自衛隊機の関与」「ミサイル誤射」「レーダー記録」などの主張を一つずつ取り上げ、物理学・航空工学・運用実態の観点から検証していく。 特徴的なのは陰謀論を感情的に否定するのではなく、「なぜその主張が成立しないのか」を丁寧に示している点だ。 ミサイルの性能や自衛隊の運用手順、事故当日の状況など、専門家でなければ語れない情報を踏まえながら、撃墜説が抱える矛盾を浮き彫りにした。 著者は科学的証拠を積み重ね、陰謀論を論破し、長年流布されてきた疑念に終止符を打とうとする。 事故から40年を迎える節目に、事実に基づく検証を求める読者に応える内容となっている。 (PH


実はサメなんです アクアワールド茨城県大洗水族館監修、 真崎なこ イラスト
「サメ=凶暴」という先入観をくつがえし、その実像を科学的視点から丁寧に解き明かす一冊。ホホジロザメやジンベエザメ、シュモクザメなど多様な種を取り上げ、体の大きさや形状、食性、行動、生息海域の違いを親しみやすいイラストと共に紹介する。 著者は「人を積極的に襲う危険生物」という印象が映画や報道によって強められてきた経緯に触れ、世界の事故統計や研究データを基に実態を示す。さらに、世界に500種類以上いるとされるサメの仲間の多くは小さくておとなしく、一見するとサメに見えない種や、思わず「かわいい」と感じるものも少なくないという。 数億年にわたり海で生き延びてきた進化の歴史や繁殖の多様性、頂点捕食者として海洋生態系の均衡を保つ役割にも言及し、個体数減少という現代的課題にも目を向ける。姿形からは想像もつかない「実はサメなんです」が数多く登場。恐怖の象徴だったサメのユニークな一面を知ることができる、見て楽しく読んで驚く「サメ図鑑」だ。 (1540円、マイクロマガジン社刊)


松本隆に学ぶ日本語の技術 齋藤 孝 著
副題の「刺さるコトバ・沁みるフレーズ・響くリズムの秘密を探る」が示す通り、本書は松本隆氏の言葉の魅力を読み解く。昨年、作詞家デビュー55年を迎えた同氏の作品は2000を超える。 その中から、著者が選んだ楽曲をテーマごとに、空欄を埋めるクイズ形式で紹介している。松本氏の語彙は独自の世界をつくり、どこかファンタジーのような心地よさと、現実に根差した普遍性をあわせ持つ。 宮沢賢治をはじめとする文学作品に通じる豊かなボキャブラリーが、その世界観を支えている。膨大な作品数とヒット曲の数々は、松本氏が「時代をつくった」存在であることを物語る。 本書では、松田聖子の声を聴いたときに松本氏が抱いた直感や、「声・マーケット・曲」を軸にしたプロデュース力にも触れる。職業作詞家としての柔軟さが名曲を生み出す大きな力になっている。 私たちは日常の中で無意識に「松本ワード」「松本ワールド」を受け取っている。本書は歌詞を楽しみながら、その技術に触れられる工夫が随所にある。文学的な下地を知れば、さらに味わいが深まる1冊だ。 (白秋社刊、1650円)


〈聖戦〉という思想 近代日本の宿命 田中久文 著
戦争はなぜ起こるのか――。人類にとって永遠ともいえるテーマに鋭く迫った1冊だ。 先の二つの大戦を経て、私たちは平和の大切さや戦争の危うさを十分に学んだはずだ。しかし今、まさに世界各国で安全保障環境が厳しさを増し、係争が相次いでいる。 そこで本書では逆説的な視点として、戦争を肯定的に捉えようとした者の考え方に分け入り、近代日本の聖戦論を思想史的に振り返っていく。 黒船の到来によって開国を迫られた日本は、急速に近代化・西洋化を進め、帝国主義化を加速させ、西洋の列強諸国と肩を並べようとした。その中で、もはや戦争が宿命といえるものになると、戦争を「聖戦」だとする思想も存在するようになった。 そうした聖戦という考えは、現代の日本では受け入れられないものだ。しかし、戦争を自己目的とする聖戦論は存在していない。 むしろ永久的な平和を実現する手段とされた。そこで各時代の聖戦論をひもといていくことで、平和につながる知恵の端緒を探ろうという強い願いが、本書には込められている。 (作品社刊、2970円)


永遠のAH―1Sコブラ 伊藤学 著
「古い機体だが、見た目は今でも最高にかっこいい」――。そう語るのは、長年この機体と空を共にしてきた現役パイロットだ。飛行時間が約3000時間を超えるというベテランは、この鉄の塊を「愛着が湧き、もはや仲間のようだ」と表現する。 世界初の攻撃専用ヘリコプターとして誕生したAH―1、通称「コブラ」。ベトナム戦争での実戦投入を機に、「攻撃ヘリ」という新たな兵器体系を世界に知らしめた。その後、同機を近代改修したものがAH―1Sである。 本書の魅力は、解説のバランスの良さにある。専門書の中には詳細を詰め込みすぎて理解しづらいものもあるが、本書は要点が適度に整理されており、読み手の理解を妨げない構成となっている。 各武装の射撃要領をはじめ、コクピット内に並ぶスイッチ類の操作、戦闘ヘリとしての隠蔽(いんぺい)を駆使した戦術など、初心者でも理解が進む内容だ。また、掲載されている写真も豊富で、実機のディテールを視覚的に把握できる点も大きい。 航空機ファンはもちろん、リアリティを求めるシミュレーションゲーム愛好家にとっても、実戦的な運用を知るための「教科書」となる一冊


チャーチル伝 F・ケルソディ 著、大嶋 厚 訳、君塚直隆 解説
「その異常なまでの記憶力や弁舌能力、そして何よりも次々と湧き出てくるアイディアと不屈の精神とが、ナチス・ドイツの脅威からイギリスはもとより、ヨーロッパ、さらには世界全体を救う要因になったことを、フランス的なユーモアも交えながら描いている」――。 本書を読む醍(だい)醐(ご)味(み)は、解説の君塚直隆・関東学院大学名誉教授のこの一文に尽きる。 著者のフランソワ・ケルソディはフランス人歴史家の中でも世界的な権威の一人だ。その彼がおそらくは英国で最も優れた指導者だとされるウィンストン・チャーチルを題材にした本書は多大な情報量によって、公平な視点で描かれている。 およそ700ページにも及ぶ大著は数あるチャーチル伝のなかでも群を抜く。これだけのページ数があるのは、それだけ著者が膨大な資料と多数の関係者に当たったからだ。 そのとてつもなく長い道のりを、著者はチャーチル自身の波乱の人生そのままに「長く、波乱に満ち、ときとして滑稽で、しばしば過度な疲労をもたらし、常に著しく危険な旅だった」と評し、こう付け加える。 「読者には退屈する暇はない」と。 (作品社刊、5


税の日本史 諸富 徹 著
「税」という一見地味だが、社会の根幹を支えてきた制度を軸に、日本史を読み直す一冊。古代の租庸調から始まり、中世の荘園制や近世の年貢、近代国家の租税制度、そして現代の消費税や所得税に至るまで、税の変遷を通じて国家と社会、そして人々の暮らしの関係を描き出す。 著者は、税を単なる財源確保の手段としてではなく、「誰が、何のために、どのように負担するのか」という政治的・社会的選択の結果として捉えている。また、為政者と民衆のせめぎ合い、戦争や社会不安が税制に与えた影響、逆に税のあり方が社会構造をどう変えてきたのかを具体的な史料やエピソードを交えて解説している。 近代以降の章では、中央集権国家の成立と税制改革、福祉国家化の過程で拡大した財政と国民負担の関係にも踏み込み、現代日本が抱える「税と社会保障」の問題へと視線をつなげていく。歴史書でありながら、現在の税制論議を考えるための視座を与えてくれる点も魅力だ。 税の歴史をたどることで、日本社会がどのように形作られてきたのかを理解できるだろう。 (祥伝社刊、1100円)


セルフスターター 自分で自分を動かすスキル 有薗光代 著
米陸軍工兵学校で鍛えられた「自ら考え、動く」思考をビジネスや日常向きに翻訳した一冊。 2陸士から3佐まで上り詰めた著者が、国連PKOや災害派遣の経験を踏まえて理論を補強。現場で磨いてきた鉄則を語る。 その核は「勉強や仕事の動機はすべて自分の中にある」というセルフスターター精神だ。他者や環境に依存せず自分でエンジンを回すことを繰り返し促す。 「モチベーションの自律」「主動性のスイッチ」「メンタルの守りと攻め」、これらを「支える力」といったテーマを掲げ、「評価は待つな、仕掛けろ」「周辺視を鍛えよ」などの短く力強い言葉で読者に行動のトリガーを引かせる。 加えて、著者の女性自衛官としてのキャリアや母親の一面を織り込み、リーダー論にとどまらない人間論にも言及している。 訓練の厳しさと即応性は、ビジネスの持つ不確実性にも通ずる。 情報過多で迷いの多い現代人に即効性のある処方箋。「自分で自分を動かす」ために小さな習慣を一つでも始めてみよう。 (日本実業出版社刊、1760円)
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