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ブックレビュー


大人も知らない? 仏像のふしぎ事典 田中ひろみ 著
座っていたり、立っていたり、手に何を持っているのか、髪型やポーズに至るまで、仏像の姿にはすべて意味が込められている。 〈大人も知らない?〉シリーズ第7弾は、そんな仏像の世界をやさしくひもとく一冊だ。 仏像は大きく4つに分類され、位の高い順に如来、菩薩、明王、天部と続く。それぞれの姿や表情、装飾には、仏さまの役割が象徴的に表されている。信仰の対象であると同時に、仏教の教えをわかりやすく伝えるシンボルでもある。 見る人が「仏さまのように優しい心でいたい」と願ったり、「守ってほしい」「病気を治したい」と祈ったりする――。仏像は、そんな人々の心に寄り添う存在だ。 仏像の前で手を合わせると、不思議と心が落ち着き、前向きな気持ちになれるという人も多い。 著者は、仏像を知ることは自分の心を見つめることにもつながると語る。本書を手に取れば、これまで何気なく見ていた仏像が、全く違う表情で語りかけてくるはずだ。 (マイクロマガジン社刊、1100円)


国際社会の紛争解決学 理論と事例からみる分析と対処法 富樫耕介、中村長史 編著
国際紛争の発生要因から和平構築までを体系的に整理した。国連や地域機構による調停、停戦監視、民間仲介など多様化する紛争対応の実態を最新事例と共に示す。 国際政治学を専門とする学者たちが、紛争予防や紛争のメカニズム、危機管理、和平合意、紛争後の再建など、紛争解決のための国際社会の取り組みを多角的な視点から分析した。 紛争の背景にある政治・経済・社会要因を解説した上で、当事者間の力関係や国際社会の関与が解決の成否にどう影響するかを検討した。 シリアやウクライナ、アフリカ諸国の内戦、イスラエル・パレスチナ紛争など近年の事例を取り上げ、国際機関やNGO(非政府組織)の役割、仲介者の条件、合意形成の難しさを具体的に論じる。複雑化する紛争が発生している中、国際情勢の理解を深めたい読者や学生にとって有益な内容となっている。 (法律文化社刊、3520円)


現代陸戦概説 クリストファー・タック著、梅田宗法、齋藤大介 訳
本書は、現代の陸上戦闘に関する概念や問題などを徹底的に学べる専門書だ。陸戦に関する知識や考えを持つためには必須ともいえるだろう。 世界各地で発生する現代の係争において、「land-warfare(陸戦)」は重要な意味を持つ。その代表ともいえるのがロシアによるウクライナ侵略だ。本書では、ロシアによる軍事作戦がなぜこれまで長引き、今の状況に陥ってしまったのかを説明している。 さらに、自衛隊が国際平和協力活動(PKO)に力を入れて取り組んでいるが、これまで経験を積んできたPKOやイラク派遣などの活動の背景を理論的に学ぶことができる。 著者は、英国の国防大学でもあるキングス・カレッジ・ロンドンで戦略研究学部の准教授を務めている。 サンドハースト王立陸軍士官学校で上級講師の経験を持ち、幅広く陸戦を研究してきた視点は明晰(めいせき)で魅力的だ。 訳者の2人は現役陸上自衛官で、専門的な鋭い視点と理解しやすい文章で本著をまとめている。 (作品社刊、3960円)


秀吉再考 倉山満 著
農民から天下人へと上り詰めた「日本一の出世人」として知られる豊臣秀吉。その人物像にあらためて光を当て、多面的に捉え直した。 著者が着目したのは、戦国三英傑を象徴するホトトギスの句だ。「鳴かぬなら殺してしまえ」の織田信長、「鳴かせてみせよう」の秀吉、「鳴くまで待とう」の徳川家康。著者はこの三句に3人の本質が凝縮されているとみる。 信長は決断、家康は忍耐、そして秀吉は「工夫」。力でも忍耐でもなく、状況を動かす知恵こそが秀吉の核心だと位置づける。 一方で、秀吉像の扱いについては容易ではないと著者は指摘する。 一般には善玉として語られることが多いが、実際には残虐な側面も併せ持つ。著者はその二面性を排除せず、権力掌握から崩壊までの過程を通じて、秀吉の「人間としての揺らぎ」を描き出した。 章題には「秀吉に学ぶ、粛清されない生き方」「アメリカ合衆国より400年先駆けている刀狩り」など、現代的視点を交えた切り口も並ぶ。 (ワニブックス刊、1500円)


愛国心とは何か 貝塚茂樹 著
愛国心があるか問われて即答できる人は多くない。一方、郷土愛なら誰でも少なからずある。 「愛国心」は明治時代に持ち込まれた言葉だ。先祖や故郷への愛着を表す「パトリオティズム」と、民族の統一と国家へのこだわりを表す「ナショナリズム」を、天皇ありきの「忠君愛国」と訳したのが始まりだ。 「『愛国心』という言葉が好きではない」――。 意外にも三島由紀夫の言葉だ。理由は「官製のにおいがするから」。自身が国の一員でありながら切り離された対象として愛するのが「わざとらしくて嫌い」という。 戦後、愛国心はタブー視されている。義務教育のカリキュラムに記されてはいるが、そんな授業を受けた覚えはない。 とはいえ、戦前と比べれば、国を好きとも嫌いとも思わずにいられるのは幸せなことかもしれない。 ただ、少子化が進み移民も増える中、誰も愛国心を語らずに残るのは「無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、抜け目のない国」なのだろう。 (扶桑社刊、1155円)


「平和国家」日本の軍事を考える ―自衛・安全保障・国際協力― 佐道明広 著
「アメリカがもはや『世界の警察官』ではありえず、またそのようなものとして行動する意思を捨て去ったことを宣言した」。これは現トランプ米政権を踏まえた発言ではない。 今から半世紀以上前の1969年7月、当時のニクソン大統領が提唱した「グアム・ドクトリン」に基づき国際政治学者の高坂正堯氏が著書の中で言及したものだ。 戦後、日本は憲法を頂点に「平和国家」の道を歩み始めた。その歩みについて著者は「戦力を持たないという憲法の規定を前提」にした「非軍事国家」だったと主張する。 本書は、日本がまだ軍事分野への関与をためらっていた時代から、「自衛隊がインド太平洋を視野に米軍と一体化して戦う『軍隊』になりつつある」現在までの防衛政策の変遷を概観する。 日本の防衛と外交は「アメリカに依存することを前提として成り立つもの」から、「日米安保体制の見直しや自主性が改めて唱えられる」までに変容した。 著者は今こそ「日本にとってふさわしい安全保障政策と、その中での自衛隊の位置付けを本格的に検討する時期だ」と強調する。 (吉川弘文館刊、2750円)


15歳からのインテリジェンス うえだ あつもり著
インテリジェンスの本来の意味と価値を、大人から子どもへと手渡していく必要がある――その思いが物語を通して描かれている。 虫の目、鳥の目、魚の目。多様な視点をつなげて考えることで意味ある情報が生まれる。さらにコウモリの目は相手の立場や異なる文化・価値観から物事をとらえる柔軟な発想を、トンボの目は状況に応じて視点を変え、多角的に情報をとらえる力を象徴する。 防衛省で情報分析官として勤務した著者は、語られなかったことや触れられなかったことに意味を見いだすまなざしこそが、情報に振り回されない「静かな力」になると説く。情報源の信頼性、内容の正確性、そして有用性を吟味する姿勢が欠かせない。発信者には、何を発信しどう受け取られるかまでを考える責任がある。 情報が正しいか、自分の視点がずれていないか、思考のくせ(バイアス)がないかを問い直すことも重要だ。仮説や情報は面白さで評価されるのではなく、目的にどれだけ貢献するかが本質である。正解のない問いに向き合い、自分の頭で考え、判断する力を養うことがこれからの時代を生き抜くための必須の力だ。 (並木書房刊、1,650


あばたもえくぼ 自分でできる天然痘対策 柳田 保雄著
人類史上もっとも恐れられた感染症である天然痘をテーマに、歴史的背景と予防の知恵を一般読者向けにまとめた一冊だ。 タイトルの「あばたもえくぼ」の“あばた”は皮膚が病気やけがでひどく傷つくと生じる。天然痘は特にひどい、あばたを残す。その痕跡を残す天然痘に関する歴史や予防策などを平易な言葉で解説している。 天然痘は20世紀に根絶が宣言されたものの、古代から近代に至るまで世界各地で猛威を振るい、社会や文化に深い影響を与えてきた。 本書では、ワクチン普及以前に人々が試みた生活習慣や民間療法など「自分でできる対策」のほか、最新の医療技術による対策も紹介し、感染症と人間社会の関わりを文化史的に読み解いている。 著者は、天然痘について適切に対応すれば対応は可能だと指摘する。感染症史を振り返りながら、現代社会における「備え」の重要性を再認識させる。 (アジア・ユーラシア総合研究所刊、1,650円)


小泉八雲と水木しげるに学ぶ 異界の歩き方 小泉 凡監修
異界とは、遠く離れた幻想の世界ではなく、私たちのすぐ隣にあるもうひとつの現実かもしれない――。 本書は、怪談と妖怪という異界の表現者である小泉八雲と水木しげるの人生と思想をたどりながら、「見えないもの」をどう受け止め、描いてきたかを探る一冊だ。 小泉八雲の曾孫であり、研究者でもある小泉凡氏が監修を務め、二人の生い立ちや体験、創作の背景にある「異界へのまなざし」を丁寧に紐(ひも)解(と)く。巻末には、彼らにゆかりのある土地を紹介する「異界タウン探訪」も収録され、読者を実際の旅へと誘う構成になっている。 ちょうど今、NHKでは連続テレビ小説『ばけばけ』を放送中。小泉八雲とその妻・セツをモデルにしたこのドラマでは、明治の日本を舞台に、異文化を越えて結ばれた二人の姿が描かれている。本書を手にすれば、ドラマの背景にある実像や精神世界がより深く味わえるだろう。 異界を歩くとは、世界を深く味わうこと。現代社会の喧騒の中でこそ、こうした感性が必要なのかもしれない。 (マイクロマガジン社刊、1760円)


ゲーム作家 小島秀夫論 エスピオナージ・オペラ 藤田 直哉著
小島秀夫監督の代表作「メタルギア・ソリッド」シリーズはただの戦争ゲームではない。スパイアクションで、SFの要素もあり核抑止や安全保障論の教科書でもある。そして、愛を問う物語でもある。 小島監督の作品はどれも小説のような奥行きと映画のようなユーモアとボリューム感がある。 日本映画大学准教授の著者は、映画「007」のようなスパイ・エンターテインメントで、国際政治と個人の愛憎を結びつけて描く様式を「エスピオナージ・オペラ」と名付けた。 小島監督は冷戦や核戦争を何に結びつけているか、作中の描写をはじめ、過去の発言や著書から分析している。 本書はシリーズ作品の象徴的なシーンやせりふを精緻に読み解き、ゲームがプレイヤーに突きつけるジレンマを解説。作中での不可解なキャラクターの言動や、監督が込めたメッセージの真意を考察する。 1990年代から核抑止論やAI(人工知能)を通じて情報が処理される社会のあり方に警鐘を鳴らしつづけてきた小島監督。そんな天才の脳内を垣間見ることができる一冊だ。 (作品社刊、2,970円)


第二次世界大戦(四) ~戦いの諸側面~ 軍事史学会編
第2次世界大戦の終結から80年を迎えた今も、世界で戦火が続いている。特に「ロシアによるウクライナ侵略」と「ガザ紛争」という新たな戦争の生起と展開が、過去の戦争の見方にどのような視点を提供するのか――。 本書は、国内外の第一線で活躍する研究者から寄せられたオリジナリティーあふれる論文16本のほか、戦史史話や史跡探訪、書評7本を収録した総合論集だ。 「戦いの諸側面」という副題の通り、大戦の前史から戦いの様相、戦争終結から戦後の活動に至るまで、戦後80年の視点から鋭く考察しているのが大きな特徴だ。 本書は「第二次世界大戦」シリーズの4巻目。これまで本題はそのままに、副題を変えて刊行されてきた1巻目「発生と拡大」(1990年)、2巻目「真珠湾前後」(91年)、3巻目「終戦」(95年)――と比較しながら、ようやく30年を経て刊行された本書を読むと、さらなる研究の広がりを感じると共に、新たな発見があるだろう。真摯(しんし)で丹念な歴史の見つめ直しの中に、混沌(こんとん)とした今を読み解く知恵が隠されている。 (錦正社刊、4,400円)


夜、寝る前に読みたい宇宙の話 野田 祥代著
「あなたは最近、星を見ましたか?」――。本書は、広大な宇宙の神秘を静かでやさしい語り口でつづったエッセイ。2023年度の緑陰図書(夏休みの本)に選定、複数の名門中学校の国語入試問題や日本語教科書としても活用され、今年文庫化された。 著者は大学で宇宙物理学を専攻。理学博士として宇宙、地球、命をテーマに講演やイベント活動などを行う。科学に軸足を置きつつ、込み入った内容は省いて「宇宙からの視点」をつづった本書は、夜空に輝く星々や惑星、銀河、そして宇宙の果てに思いをはせながら人間の存在を見つめ直す時間を与えてくれる。 ビッグバンやブラックホールといった壮大なテーマだけでなく、月の満ち欠けや流れ星、地球という星の奇跡など、身近な宇宙の姿もていねいに紹介。 どの章も短くまとまっているため、寝る前の静かな時間に読むのにふさわしく、宇宙のおもしろさや基礎知識を教えてくれる1冊。読者の知的好奇心を満たしながら、心をゆるやかに解きほぐしてくれるだろう。 (草思社刊、990円)


奪われた集中力 もう一度“じっくり”考えるための方法 ヨハン・ハリ著、福井 昌子訳
現代人の集中力が「失われた」のではなく「奪われている」とする視点から、注意力低下の原因を社会構造に求めたノンフィクション作品。著者は世界中の専門家に取材し、スマートフォンやSNS、マルチタスク、情報過多、教育制度の変化などが複合的に集中力を奪っていると指摘。 本書では、個人の努力だけでは集中力を取り戻すことは難しく、社会全体を見直す必要があると訴える。例えば、監視型テクノロジーの台頭や、持続的読書の崩壊、フロー状態の喪失などが注意力の分断を加速させていると分析する。 著者自身の体験や旅の記録も交えながら、読者が自身の生活と照らし合わせて考えられる構成となっている。 集中力の回復には、環境の整備と制度的な改革が不可欠であるとし、企業や教育現場、家庭における実践的な提案も示している。 情報化社会に生きるすべての人にとって、豊かな時間を取り戻すためのきっかけとなる一冊だ。 (作品社刊、2,970円)
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