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ブックレビュー


税の日本史 諸富 徹 著
「税」という一見地味だが、社会の根幹を支えてきた制度を軸に、日本史を読み直す一冊。古代の租庸調から始まり、中世の荘園制や近世の年貢、近代国家の租税制度、そして現代の消費税や所得税に至るまで、税の変遷を通じて国家と社会、そして人々の暮らしの関係を描き出す。 著者は、税を単なる財源確保の手段としてではなく、「誰が、何のために、どのように負担するのか」という政治的・社会的選択の結果として捉えている。また、為政者と民衆のせめぎ合い、戦争や社会不安が税制に与えた影響、逆に税のあり方が社会構造をどう変えてきたのかを具体的な史料やエピソードを交えて解説している。 近代以降の章では、中央集権国家の成立と税制改革、福祉国家化の過程で拡大した財政と国民負担の関係にも踏み込み、現代日本が抱える「税と社会保障」の問題へと視線をつなげていく。歴史書でありながら、現在の税制論議を考えるための視座を与えてくれる点も魅力だ。 税の歴史をたどることで、日本社会がどのように形作られてきたのかを理解できるだろう。 (祥伝社刊、1100円)


セルフスターター 自分で自分を動かすスキル 有薗光代 著
米陸軍工兵学校で鍛えられた「自ら考え、動く」思考をビジネスや日常向きに翻訳した一冊。 2陸士から3佐まで上り詰めた著者が、国連PKOや災害派遣の経験を踏まえて理論を補強。現場で磨いてきた鉄則を語る。 その核は「勉強や仕事の動機はすべて自分の中にある」というセルフスターター精神だ。他者や環境に依存せず自分でエンジンを回すことを繰り返し促す。 「モチベーションの自律」「主動性のスイッチ」「メンタルの守りと攻め」、これらを「支える力」といったテーマを掲げ、「評価は待つな、仕掛けろ」「周辺視を鍛えよ」などの短く力強い言葉で読者に行動のトリガーを引かせる。 加えて、著者の女性自衛官としてのキャリアや母親の一面を織り込み、リーダー論にとどまらない人間論にも言及している。 訓練の厳しさと即応性は、ビジネスの持つ不確実性にも通ずる。 情報過多で迷いの多い現代人に即効性のある処方箋。「自分で自分を動かす」ために小さな習慣を一つでも始めてみよう。 (日本実業出版社刊、1760円)


大人も知らない? 仏像のふしぎ事典 田中ひろみ 著
座っていたり、立っていたり、手に何を持っているのか、髪型やポーズに至るまで、仏像の姿にはすべて意味が込められている。 〈大人も知らない?〉シリーズ第7弾は、そんな仏像の世界をやさしくひもとく一冊だ。 仏像は大きく4つに分類され、位の高い順に如来、菩薩、明王、天部と続く。それぞれの姿や表情、装飾には、仏さまの役割が象徴的に表されている。信仰の対象であると同時に、仏教の教えをわかりやすく伝えるシンボルでもある。 見る人が「仏さまのように優しい心でいたい」と願ったり、「守ってほしい」「病気を治したい」と祈ったりする――。仏像は、そんな人々の心に寄り添う存在だ。 仏像の前で手を合わせると、不思議と心が落ち着き、前向きな気持ちになれるという人も多い。 著者は、仏像を知ることは自分の心を見つめることにもつながると語る。本書を手に取れば、これまで何気なく見ていた仏像が、全く違う表情で語りかけてくるはずだ。 (マイクロマガジン社刊、1100円)


国際社会の紛争解決学 理論と事例からみる分析と対処法 富樫耕介、中村長史 編著
国際紛争の発生要因から和平構築までを体系的に整理した。国連や地域機構による調停、停戦監視、民間仲介など多様化する紛争対応の実態を最新事例と共に示す。 国際政治学を専門とする学者たちが、紛争予防や紛争のメカニズム、危機管理、和平合意、紛争後の再建など、紛争解決のための国際社会の取り組みを多角的な視点から分析した。 紛争の背景にある政治・経済・社会要因を解説した上で、当事者間の力関係や国際社会の関与が解決の成否にどう影響するかを検討した。 シリアやウクライナ、アフリカ諸国の内戦、イスラエル・パレスチナ紛争など近年の事例を取り上げ、国際機関やNGO(非政府組織)の役割、仲介者の条件、合意形成の難しさを具体的に論じる。複雑化する紛争が発生している中、国際情勢の理解を深めたい読者や学生にとって有益な内容となっている。 (法律文化社刊、3520円)


現代陸戦概説 クリストファー・タック著、梅田宗法、齋藤大介 訳
本書は、現代の陸上戦闘に関する概念や問題などを徹底的に学べる専門書だ。陸戦に関する知識や考えを持つためには必須ともいえるだろう。 世界各地で発生する現代の係争において、「land-warfare(陸戦)」は重要な意味を持つ。その代表ともいえるのがロシアによるウクライナ侵略だ。本書では、ロシアによる軍事作戦がなぜこれまで長引き、今の状況に陥ってしまったのかを説明している。 さらに、自衛隊が国際平和協力活動(PKO)に力を入れて取り組んでいるが、これまで経験を積んできたPKOやイラク派遣などの活動の背景を理論的に学ぶことができる。 著者は、英国の国防大学でもあるキングス・カレッジ・ロンドンで戦略研究学部の准教授を務めている。 サンドハースト王立陸軍士官学校で上級講師の経験を持ち、幅広く陸戦を研究してきた視点は明晰(めいせき)で魅力的だ。 訳者の2人は現役陸上自衛官で、専門的な鋭い視点と理解しやすい文章で本著をまとめている。 (作品社刊、3960円)


秀吉再考 倉山満 著
農民から天下人へと上り詰めた「日本一の出世人」として知られる豊臣秀吉。その人物像にあらためて光を当て、多面的に捉え直した。 著者が着目したのは、戦国三英傑を象徴するホトトギスの句だ。「鳴かぬなら殺してしまえ」の織田信長、「鳴かせてみせよう」の秀吉、「鳴くまで待とう」の徳川家康。著者はこの三句に3人の本質が凝縮されているとみる。 信長は決断、家康は忍耐、そして秀吉は「工夫」。力でも忍耐でもなく、状況を動かす知恵こそが秀吉の核心だと位置づける。 一方で、秀吉像の扱いについては容易ではないと著者は指摘する。 一般には善玉として語られることが多いが、実際には残虐な側面も併せ持つ。著者はその二面性を排除せず、権力掌握から崩壊までの過程を通じて、秀吉の「人間としての揺らぎ」を描き出した。 章題には「秀吉に学ぶ、粛清されない生き方」「アメリカ合衆国より400年先駆けている刀狩り」など、現代的視点を交えた切り口も並ぶ。 (ワニブックス刊、1500円)


愛国心とは何か 貝塚茂樹 著
愛国心があるか問われて即答できる人は多くない。一方、郷土愛なら誰でも少なからずある。 「愛国心」は明治時代に持ち込まれた言葉だ。先祖や故郷への愛着を表す「パトリオティズム」と、民族の統一と国家へのこだわりを表す「ナショナリズム」を、天皇ありきの「忠君愛国」と訳したのが始まりだ。 「『愛国心』という言葉が好きではない」――。 意外にも三島由紀夫の言葉だ。理由は「官製のにおいがするから」。自身が国の一員でありながら切り離された対象として愛するのが「わざとらしくて嫌い」という。 戦後、愛国心はタブー視されている。義務教育のカリキュラムに記されてはいるが、そんな授業を受けた覚えはない。 とはいえ、戦前と比べれば、国を好きとも嫌いとも思わずにいられるのは幸せなことかもしれない。 ただ、少子化が進み移民も増える中、誰も愛国心を語らずに残るのは「無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、抜け目のない国」なのだろう。 (扶桑社刊、1155円)


「平和国家」日本の軍事を考える ―自衛・安全保障・国際協力― 佐道明広 著
「アメリカがもはや『世界の警察官』ではありえず、またそのようなものとして行動する意思を捨て去ったことを宣言した」。これは現トランプ米政権を踏まえた発言ではない。 今から半世紀以上前の1969年7月、当時のニクソン大統領が提唱した「グアム・ドクトリン」に基づき国際政治学者の高坂正堯氏が著書の中で言及したものだ。 戦後、日本は憲法を頂点に「平和国家」の道を歩み始めた。その歩みについて著者は「戦力を持たないという憲法の規定を前提」にした「非軍事国家」だったと主張する。 本書は、日本がまだ軍事分野への関与をためらっていた時代から、「自衛隊がインド太平洋を視野に米軍と一体化して戦う『軍隊』になりつつある」現在までの防衛政策の変遷を概観する。 日本の防衛と外交は「アメリカに依存することを前提として成り立つもの」から、「日米安保体制の見直しや自主性が改めて唱えられる」までに変容した。 著者は今こそ「日本にとってふさわしい安全保障政策と、その中での自衛隊の位置付けを本格的に検討する時期だ」と強調する。 (吉川弘文館刊、2750円)


名画は知っている 恐ろしい世界史の秘密 力石幸一 著
本書は、歴史に名を残す絵画を手がかりに、世界史の裏側に潜む恐怖や人間の業を読み解いていく一冊だ。 著者は、名画は鑑賞者に美や感動を与えるだけでなく、当時の権力構造や社会不安、宗教的緊張を如実に映し出す存在だと捉えている。 王や王妃の肖像画には権威を誇示するための演出が施され、宗教画には異端への恐怖や信仰を巡る争い、時に残酷な現実が色濃く反映される。処刑や戦争、疫病といった重いテーマも、象徴や構図に隠されながら描き込まれてきた。 さらに著者は、画家が何を強調し、何をあえて描かなかったのかに注目することで、教科書では見えにくい歴史の実像が浮かび上がると指摘。専門的な知識を押しつけるのではなく、名画に込められた意図や背景を丁寧に解説しており、美術になじみのない読者でも理解しやすい。 名画を通じて人間の弱さや業に目を向ける著者の姿勢が随所に感じられ、世界史を見つめ直すことで、人間の恐ろしさやその時代を生き抜いた人々の切実な思いが伝わってくるだろう。 (ビジネス社刊、2090円)


FSB ロシア連邦保安庁 沿革・任務・機構 ケヴィン・P・リール 著、並木均 訳
KGBの後継組織として知られるロシアの治安機関「FSB」を真っ正面から取り上げた。FSBは、国内統制から対外工作、サイバー領域まで幅広い任務を担い、プーチン政権の長期化と共にその存在感を強めてきた。米政府で分析官を務めた著者が公開資料や証言をもとに、その複雑な実像を丹念に描き出す。 反体制派への圧力や国外での暗殺疑惑、情報操作など、国際社会で注目される活動の背景を丁寧に解説。 加えて、ウクライナ情勢を含む近年の動向も取り上げ、FSBがロシア国家の意思決定にどのように関わっているのかを読み解く。 サイバー攻撃やハイブリッド戦といった新たな領域での活動にも触れ、現代ロシアの権力構造を理解するための視点を提供する。 ロシアの情報機関を包括的に扱う邦語文献は限られており、国際政治や安全保障に関心を持つ読者だけでなく、現代史を学ぶ上でも有用な一冊とも言えるだろう。 (作品社刊、2970円)


軍用ドローンの飛行 ダリル・ジェンキンス、デビッド・クライン 著、從二光平 訳
無人機の技術と運用に関する知識を同時に学べる「軍用ドローンの教科書」シリーズの第2弾。 単なる知識の羅列ではなく、「なぜそのように動作するのか」「どの順に確認すべきか」といった思考の流れを重視し、設計・整備・運用の各段階を横断的に理解できる構成で、初学者から実務者までが共通の基盤のもとで議論や訓練を行えることを目指している。 通信・電源・推進・センサーといったドローンシステムの構成要素と飛行原理の関係性を明らかにし、それぞれの相互依存性を踏まえた統合設計や保守運用のポイントを丁寧に解説。 また、運用に影響を与える気象条件についても、指標や限界、確認手順、回避策を含めて体系的に整理。平時の訓練から実任務に至るまで、現場での判断に役立つ知識と意思決定のフレームワークを示している。 訳者の從二(じゅうに)氏は元陸上自衛官。能登豪雨水害、八潮市道路陥没事故などの災害支援活動や防災訓練でドローンを活用した経験を持つ。ドローンの運用だけでなく、防衛のためのアンチドローンシステム(CUAS)にも精通。現場感覚に裏打ちされた翻訳が、本書の実用性をさらに高めている


自衛隊に学ぶ 最強のチームをつくる 「リーダーの技術」 姉崎和敬 著
日々膨大な情報が流れ、人手不足の問題が叫ばれるようになった昨今、チームリーダーに求められる役割は一層大きくなっている。 本書は、「リーダーに誰でもなれる」をコンセプトとして、リーダーにとって必要な正しい知識や、学ぶべき技術を伝える。 著者は22年間、空自幹部としてさまざまな部隊を率い、退官後にはDXコンサルタントとして民間企業と向き合ってきた経歴を持つ。 自衛官時代に培ったノウハウは、チームをけん引するためのマネジメントやリーダーシップを総合した技術。それはコンサルタントとして、民間企業でも大いに活用できるものだ。 もしも本書を手に取り、読み終えたとき、あなたはメンバーの力を最大限に引き出せるようになり、チーム内に揺るぎない信頼関係を構築できるようになる。メンバーの個々が自律的に動くことのできる「最強のチーム」への道筋が見えてくるだろう。 (月待社刊、1870円)


ラーメン一杯いくらが正解なのか 井手隊長 著
ラーメン店の倒産件数が2024年に過去最多を記録――。頑固一徹だけでは乗り越えられないラーメン業界の現状を精緻な取材とデータをもとに、ラーメンを通じて日本経済の未来を読み解く。 ラーメン一杯の平均価格は、ある統計によると1970年は105円、75年は220円、90年は454円、2000年には548円と年々上昇し続けていた。だが、2000年以降は動きが一気に鈍化し、20年以上500円台で推移していた。 物価高騰もあり、ここ数年は「1000円の壁」を超えて、「2000円の壁」すら軽く超えてしまうのではないかと著者は分析する。 本書では、企業努力で1000円以内の価格を守り続ける店と、あえて予約制の高級路線で食事を提供する店の二極化が進んでいると指摘。 家系、二郎系、フランチャイズ系、個人店と多くの有名店や人気店を徹底取材した内容は、食べ歩きが好きな方の参考にもなる。 自らの足と舌で自分流ラーメンマップを完成できるだろう。 (早川書房刊、1386円)


秀長と秀吉 天下を取った 豊臣兄弟と野望に生きた戦国武将たち 黒田基樹 監修
2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟」の放送を機に、あらためてその功績が注目されている豊臣兄弟の実像に迫る一冊だ。監修した黒田氏は同ドラマの時代考証を担当している。 本書は天下人である豊臣秀吉の異父弟であり、豊臣政権のナンバー2であった豊臣秀長に焦点を当てた。 秀吉が天才的な発想と行動力で天下へ駆け上がる一方で、秀長は「調整」と「実務」という極めて重要な役割を担った。寺社勢力や外様大名との交渉、兵糧の差配、そして兄の暴走を唯一止めることができる「ブレーキ役」としての姿が史実をもとに詳しく解説されている。 秀長の死後、秀吉は朝鮮出兵や千利休に切腹を命じるなど混迷を極めていく。本書を読むことによって秀長の死が日本史の大きな転換点になったことを理解できる内容だ。 また、関連人物の解説も見どころだ。著名な戦国武将たちの生涯をわかりやすくまとめている点や、彼らがどのように秀長を支えていたのかが描かれている。 ドラマや時代小説はもちろんのこと、戦国時代のゲームなどをプレイする際にも参考になるだろう。 (宝島社刊、1100円)


BARレモン・ハート 意外に知らない酒の基本知識 山内聖子 著
好(い)い人とあてもなくバーに入る。横文字の書かれた酒瓶が並んでいるが、メニューも値札もない。気の利いた文句で気の利いた酒を頼みたいが「初めて来た」とはなぜか言えない。 男なら一度は経験するシチュエーションだろう。マスターに聞けば優しく教えてくれるが、やはりカッコつけたい。 本書は、漫画「アクション」での連載開始から40周年を迎えた酒コミック「BARレモン・ハート」の作者の孫で、実店舗「BARレモン・ハート 大泉学園店」のマスター・古谷陸が監修。 利き酒師の資格を持つ著者の筆は、飲まずともはっきりと風味を感じられるほど精巧で、一目で酒好きと分かる。 ウイスキーを皮切りに、ブランデーやスピリッツ、焼酎、日本酒、ビール、ワインなどのメジャーな酒を約160ページにわたってイラスト付きで解説。それぞれの原材料と主な産地、製法のほか、歴史や粋な飲み方を紹介する。 近所の気になるバーも、本書を読んでいけば歓迎してくれるだろう。 (双葉社刊、1925円)
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