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時の焦点<海外> 力による秩序

  • 2月18日
  • 読了時間: 3分

ルールなき核の時代


「強者はしたいことをして、弱者はそれを耐え忍ぶ」。1月20日、スイスのダボス会議で演説したカナダのカーニー首相は、古代ギリシャの歴史家トゥキディデスの言葉を紹介した上で、大国同士の競争でルールに基づく秩序が衰え、世界がトゥキディデスの時代に逆戻りしてしまうことに強い懸念を示した。


カーニー首相は2013年から約7年、外国人で初めてイングランド銀行総裁を務めたほどの頭脳と知性を備えた人物である。その品格によって抑制されたトーンではあったものの、演説はトランプ米大統領の「力による秩序」に対する、主要同盟国首脳からの事実上の拒否宣言だった。


トランプ大統領は年明け、米紙のインタビューで「私に国際法は必要ない」「私を止められるのは私のモラルだけだ」と語っている。耳を疑う、とはこのことだろう。早い話が、トランプ大統領のやっていることは、世界中を相手にした国家的パワハラに等しい。


世間でいうパワハラの要件とは(1)優越的な関係を背景に(2)社会通念上必要な範囲を超えて(3)労働者の就業環境を害すること、の3つだ。(1)は外交上の力関係、(2)は国際法無視、(3)は相手国を不快にさせる言動にあたる。


会社の上司とは違い、軍事と経済を武器にした超大国指導者のパワハラはおとがめなしなのだ。トランプ大統領はまさしく「したいことをして」、各国は「耐え忍ぶ」。


ルールなき世界。その新たな象徴は2月5日の新戦略兵器削減条約(新START)失効だ。米国と旧ソ連による72年の核軍縮条約以降初めて、我々は核大国間の核管理の枠組みを失った。


中国を加えた3カ国でなければ無意味、との見方はもっともだ。とはいえ米露がそれぞれ所有する約5000発の核弾頭に対し、600発とされる中国が不利な規制に同意するはずはない。4月の核拡散禁止条約(NPT)再検討会議も決裂の道を歩んでおり、世界はまさに「ルールなき核開発競争の時代」に突入したと言ってもいい。


国連のグテーレス事務総長は、先月末の安全保障理事会で「法の支配がジャングルの掟(おきて)に置き換えられつつある」と警鐘を鳴らした。ジャングルに野放図に置かれた核兵器は、人類滅亡の危機を告げるかのようだ。


人間の自然状態とは永遠平和ではなく戦争であり、平和の状態は「新たに創出」されなければならない、と主張したのは18世紀の哲学者カントだった。カーニー演説にも「ルールに基づく国際秩序」とはもっとも強い国が自分を例外扱いにできる便利な虚構の物語だったのだ、という歴史の教訓が盛り込まれている。


平和への新たなルールを作り出すため総力をあげなければ、世界はカントの言う「戦争という自然状態」に戻り、混乱と恐怖が続くだろう。ジャングルを大国だけが気ままに動き回る時代に引き返してはならない。


高旗良(外交評論家)

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