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コラム


朝雲寸言(2026年2月19日付)
「そうそう、墓じまいのことなんやけど……」。神戸市内の喫茶店で70代後半とお見受けした女性2人が話していた。墓じまいとは墓を撤去し、遺骨を永代供養付のお墓のマンションに移したり、散骨に付したりするというもの。終活の一環で、簡便、身軽が重視されている。 一般社団法人「日本石材産業協会」(会員758社)が2023年に実施した調査結果を見る。墓じまいの工事件数は、回答した188社の89・9%が5年前に比べて「増えた」と答えた。主な理由は「次代に迷惑をかけたくないから」。 物騒な言い回しながら、「人は二度死ぬ」と説いたのは放送作家・永六輔(故人)だった。(1)肉体の死(2)人々の記憶から消える死。これに(3)記録がなくなる死を加えてもいいかもしれない。墓じまいには、次代に迷惑をかけずに(2)と(3)の事態を避けたい気持ちが透けて見える。 カナダの詩人・作家アン・マイクルズの最近の長編小説『抱擁』は、こう始まる。「命に限りがあることは知っている。それなら、なぜ死のほうは永遠につづくと信じるのか」(26年1月、早川書房刊、黒原敏行訳)。多くの胸中に刺さる見事


時の焦点<国内> 高市政権再始動
大勝で「1強多弱」へ 衆院選は自民党が衆院の3分の2を超す316議席を獲得した。単独政党として戦後最多の獲得議席数となる歴史的大勝利である。日本維新の会と合わせた与党では計352議席となった。一方の野党は、数十人単位の少数政党が並んだ。日本政治は、経験したことのない「1強多弱」の時代を迎えた。 高市早苗首相は、投開票から一夜明けた2月9日の記者会見で、「政策転換を何としてもやり抜いていけ、と背中を押していただいた」と述べた。衆院の解散がなければ、2028年の参院選まで国政選挙がない。 今回の衆院選で強固な基盤を整えた首相は国家情報局の創設や、旧姓の通称使用を拡大するための法制化など、国論を二分するような政策にも着手すると見られる。ただ、野党が大きく退潮する中、仮に政権が判断を誤れば、取り返しの付かない事態を招きかねない。首相や自民党は、自律的な政権運営を心がける必要がある。 昨年の参院選以降、衆参両院では少数与党の状態が続いていた。与党は予算成立への協力を得るためとして、野党の要求を受け入れてきた。 与党は今回、衆院で「3分の2」以上の議席を確保


時の焦点<海外> 欧州が求愛
中国を当てにできるか トランプ米政権は欧州の自己防衛努力、貿易、関税問題などでは甘言を弄(ろう)しない。その率直さにすっかり気力を失った欧州とカナダは、これにどう対応したか。数カ国の首脳が次々と“北京詣で”である。 中国は覇権国として米国に取って代わりつつあるのか。カナダや英国が中国にすり寄り、他の欧州諸国が引き続き取り入っていく様子は興味深い。 「ニューヨーク・タイムズ」の記事(1月31日)はコンパクトで上手い。 「事前の予測はこうだった。これら諸国は結局、対米防護策を取るために中国との関係緊密化を求める。彼らはその際は中国の利益に一層好意的だろう」 「予測は当たった。欧州とカナダの指導者は世界第2位の経済大国との関係を深めようと、列をなして中国に着いた。中国政府が人権問題、スパイ行為、他国の選挙への干渉、貿易不均衡など、かつて双方の関係を裂いていた問題のほとんどを認めなかったのに」 「今やすべての道は中国に通ず」というのが、1月30日の米CNBCテレビのトーン。 「1月だけでも、スターマー英、カーニー・カナダ両首相ら少なくとも5人の国家指導者


朝雲寸言(2026年2月12日付)
立春は過ぎたものの朝晩はまだ寒い。天気予報は各地の春の訪れを告げているが北海道・東北・北陸では連日雪が降り続いている。北国に生きる人々にとって立春はあくまで暦の上のことでしかない。 記録的な大雪に見舞われた青森県は独り暮らしの高齢者世帯の屋根の雪下ろしのため自衛隊に災害派遣を要請した。少子高齢化が加速する地方では屋根の雪下ろしもままならない。無理な除雪作業中の死亡事故も発生している。 2024年1月1日の午後、震度7の地震が能登半島を襲った。地形が大きく変わるほどの地震災害によって道路は寸断され山間の集落が孤立する事態となった。自衛隊は燃料、医薬品、生活必需品などを背負い、寸断した山道を徒歩で克服して孤立集落を支援した。 24年1月末、名神高速道路の関ケ原付近において1200台もの車両が立ち往生する事態が発生した時も自衛隊は救助のために派遣された。一夜にしてすべてを覆いつくす雪と氷点下の気温は一切の交通手段を拒絶する自然の脅威である。そんな極限の環境において最も確実でそして最後の手段は人間の歩みである。 自衛隊は雪に強い。国土を侵す敵と戦う前に冬


時の焦点<国内> 衆院選自民圧勝
1強を生かし難局に挑め 第51回衆院選で、自民党が圧勝した。獲得した316議席は、戦後の政党が単独で確保した議席数としては最大だ。日本の政治史に刻まれる地滑り的な勝利と言える。 来年は統一地方選が行われるが、2028年の参院選までは、衆院を解散しない限り、大型の国政選挙は行われない。他方、少子高齢化への対応や、平和と秩序を取り戻すための外交、安全保障環境の悪化を踏まえた防衛力の強化など、課題は山積している。 「1強」ともいえる体制を整えた高市早苗首相は、中長期的な視点に立ち、腰を据えて難題に取り組む必要がある。首相は選挙戦を通じ、「国論を二分する政策を進めたい」と述べ、保守的な政策の実現に意欲を示してきた。 具体的には、インテリジェンス(情報収集、分析)機能の強化に向けた国家情報局の創設や、スパイ防止法の整備、旧姓使用の法制化などが念頭にあるようだ。 国家情報局の構想は、現在の内閣情報調査室を、警察庁や外務省、防衛省などによる省庁横断の組織に改編するものだ。日本でも、外国勢力がSNSなどを使って偽情報を流布する事態が起きている。こうした偽情報対策


前事不忘 後事之師 第121回 英米覇権交替劇
20世紀前半の世界史的事件と言ったら、何を挙げるでしょうか。常識的な答えなら、第1次世界大戦、ロシア革命、第2次世界大戦、中国革命といったところでしょう。 中西輝政京都大学名誉教授は「アジアをめぐる大国興亡史」において、20世紀初頭に起きたイギリスからアメリカへの覇権交替という事象こそ上記の出来事の背後に存在した重大事案であり、これを看過すると20世紀世界史の全体像は把握できないと主張します。


朝雲寸言(2026年2月5日付)
生成AI(人工知能)の活用が叫ばれている。総務省「情報通信白書」(2024年度)によると、個人の生成AI利用率は日本の場合、26・7%という。 企画書作成や企業会計といったビジネス界だけでなく、家庭や医療の現場でも普及しつつある。国会答弁に活用できないか、という議論も散見される。AI搭載ロボットの導入も始まっている。人間の仕事を奪う猛攻ぶりだ。 確かに便利この上ない。代表的なAI「チャットGPT」の無料版でさえ、長文を一瞬で短文にまとめあげる。未知の言葉の意味を尋ねれば、概意をつかませてくれる。 しかし、元となるインターネット上のデータにフェイク情報が混在していても「正確に」取り込んでしまうのだ。元は既存データだから、突き抜けた個性的な成果物は得られない。 先日、機械メーカー倉庫の数十メートル級シャッターの解体作業を見た。散乱する無数の細かな機器や電気配線、防犯用回線。あたかも臓器や血管のように横たわり、手術現場のように感じられた。これらの再構築をヒューマノイドロボットが手掛けられるのか。 我々の社会は正確さだけでは立ち行かない。人間の手技は、状


時の焦点<国内> 名護市長3選
基地移設を着実に進めよ 沖縄県名護市長選で、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を推進する自民党などの支援を受けた現職の渡具知(とぐち)武豊氏が3選を果たした。移設反対を掲げた次点の前市議に、2倍近い差をつけた。 渡具知氏は移設受け入れの是非には言及せず、保育料や給食費、子どもの医療費の無償化などの実績を強調した。いずれも国からの米軍再編交付金を財源に、実現してきた。渡具知氏の圧勝は、移設問題で国との対立を再燃させるより、身近な地域課題の解決を優先するべきだと市民が判断した結果ではないか。 移設作業は新たな段階に入っている。防衛省は、約152ヘクタールに上る埋め立て海域全体のうち、4分の1にあたる南側をほぼ埋め立てた。辺野古東側の軟弱地盤の改良工事を巡る国と県との法廷闘争はこれまでにすべて決着し、昨年末からは土砂の投入が始まった。 ただ、2024年から始まった地盤の改良工事は、気象や海洋の影響で思うように進まない。計画では約7万1000本のくいを打ち込む予定だが、進捗(しんちょく)率は4%程度にとどまる。30年代初めと見られていた埋


時の焦点<海外> 西洋と東洋
アジアは一つなり ニューヨーク・マンハッタンから198キロのロングアイランドの最北端モントークから見える大西洋は限りなく広大で壮観である。この対岸にマサチューセッツ州ボストンがある。 ボストン美術館中国・日本美術部長を務めた岡倉天心もまたこの広大な海を見ていただろう。同時に茨城県五浦の日本美術院の眼下に限りなく広がる荒波の太平洋の壮大さも天心の「アジアは一つなり」の思想を育んだに違いない。 美術家にして偉大な思想家でもある岡倉天心は、アメリカの哲学者アーノルド・フェノロサと共に日本の美術発掘に努めた。さらに中国美術視察やインドの美術品収集のために訪れたインドでは、詩人タゴールとも思想的交流を深めた。 天心は、鹿鳴館外交など行き過ぎた西洋文化至上主義に警鐘を鳴らし、東洋の思想、文化、美術こそが人間の精神の奥深さを示すものとして英文著作三部作『茶の本』『日本の覚醒』『東洋の思想』を著し、日本文化を世界に発信した。 同時代にやはり英文著作として世界的評価を得た内村鑑三の『代表的日本人』と新渡戸稲造の『武士道』もあったが、西洋文明に圧倒されている時代に、


朝雲寸言(2026年1月29日付)
2023年、国土地理院は日本列島の島の総数は1万4125島であると発表した。小欄の記憶によれば日本の島嶼の数は約6800島だったはずである。領土に大きな変化がない限り倍以上増えることはないはずだ。気になったので調べてみた。 過去の島嶼数は海上保安庁が1987年に調査した時のものだ。当時の海図や地図に基づいて数えたもので自然に形成され満潮時に水面上にある陸地が対象だった。 現在の島嶼数は国土地理院が航空写真や衛星画像を用いて周囲長100メートル以上の自然の陸地を数えた結果で、国土面積や領土・領海に影響を与えるものではなく数え方の精度が上がったことによるものである。 日本が島国であることは理解していたが我が国土がこれほど多くの島々から成り立っていることに改めて気づかされた。しかし海洋国家としてこれらの島々を上手く活用しているかと問われると疑問が残る。 現在、住民が居住する有人島は417島で継続的に減少し続けている。日本全体が人口減少局面に入ってからは減少速度が本土を大きく上回っているという。 離島は我が国の海洋資源確保の観点から重要な価値を有する。さ


防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<49> 日本と同志国の防衛協力
――増大する重要性と日本の役割 今月の講師 小熊真也氏 防衛研究所 政策研究部 防衛政策研究室 研究員 1997(平成9)年生まれ、新潟県出身。国際基督教大学教養学部卒業、オーストラリア国立大学大学院修士課程(国際関係学)修了。2021年防衛研究所入所。専門分野は日本の安全保障政策、インド太平洋地域の安全保障、政策決定過程論。主な業績として、「防衛戦略の変化と継続性 ―2022年「国家防衛戦略」と新時代の防衛力―」(『安全保障戦略研究』第5巻第2号、2025年)など。 日本は諸外国と防衛協力を行っているが、特に近年活発になっているのが米国以外の「同志国」と呼ばれる国々との連携である。2022年に策定された国家防衛戦略では、「同志国等との連携」は防衛目標を実現するためのアプローチの一つに位置付けられている。 2つに大別される同志国との連携 防衛省・自衛隊が実施する同志国との協力は、目的の観点から大きく2つに大別することができる。 1つは武力を交えた有事の抑止や対処能力向上、一方的な現状変更を試みる挑戦国の牽制といった効果を期待するものである。...


時の焦点<海外> トランプ政権
「イラク症候群」の終焉 米軍のマドゥロ・ベネズエラ大統領拘束で、明確になった点が一つある。過去20年以上も米外交をゆがめてきた考え方「イラク・シンドローム(症候群)」は終わったということだ。 イラク戦争の失敗とその後の長期にわたる大きな損失を出した占領の結果、同症候群は出現した。端的に言うと、海外で軍事力を行使すれば泥沼にはまるのは必然という心理である。 ベトナム戦争当時を想起するとよく分かる。同戦争後、米外交方針は混乱。そして、敗北の理由は戦略の誤りではなく、そもそも戦うべきではなかったのだという論理が主流になる。 これが、米国は世界における役割を根本的に考え直すべきだとの主張に発展した。いわゆる「ベトナム症候群」の世界観で、米国は積極的な外交政策を取らずに、むしろ抑制か撤退すべしとする姿勢だった。 しかし、米のリーダーシップ不在に伴い、世界はとてつもない代償を払った。カンボジアでの大虐殺、ソ連軍のアフガニスタン侵攻、イランのイスラム政権誕生などだ。 1981年にレーガン政権が発足し、83年のグレナダ侵攻で同国に民主主義を復活させた。後継のブッ


時の焦点<国内> 衆院選公示
難局打開へ具体策を競え 国際情勢が激動する中、日本の針路を問われる衆院選が公示された。初の女性宰相を擁する自民党と日本維新の会の連立が、政権基盤を安定させられるのか。あるいは「中道」を掲げる新党が政局の主導権を握ることになるのか。力をつけつつある新興政党も無視できない。 民意が多様化し、多党化時代を迎えている。しかも与野党共に基本的に選挙協力を行っていない。このため衆院選の帰趨(きすう)は見通しにくい。有権者の選択はこれまで以上に重みを増していよう。 高市早苗首相は今回の衆院選について、自らが首相を続投して良いのか、それとも中道改革連合の野田共同代表らに代わるべきかを国民に問う機会と位置付けた。 高市内閣は高い支持率を維持しているが、自民の政党支持率はそれほど伸びていない。今回、首相が「首相選択選挙」の構図を強調しているのは、自らへの支持を自民の得票に結びつける狙いがあるのだろう。 中道改革は、高市政権の発足で日本が右傾化しつつある、と主張し、「右派か中道か」の選択という構図に持ち込もうとしている。党の綱領では「生命・生活・生存を最大に尊重する人


朝雲寸言(2026年1月22日付)
町の書店が減り続けている。1960年代をピークに漸減し、2000年代に入ってからの落ち込みが激しい。 一時期、2万店以上あったが、全国出版協会や出版科学研究所などの調べでは1万417店(2024年現在)。「書店ゼロ」の自治体数は全国1741市区町村の約27%超を占める(出版文化産業振興財団調べ)という。 そもそも圧倒的にもうからない。書籍の定価に対する利益率(粗利率)は出版社60~70%、取次約7~8%、書店約22%。家賃、人件費など運営経費を差し引いた営業利益率はわずか0~0,5%ともいわれる。 追い打ちをかけているのが、紙媒体離れの風潮だ。アマゾンで本や漫画を買い、スマートフォンで読む。読まないという活字離れも進む。 一方、苦境から新種が生まれている点も見逃せない。棚ごとに個人が店主となる「シェア型書店」、カフェを充実させ雑貨も販売する「ブックカフェ・複合型書店」、アートなどのジャンルを設ける「専門特化型・コンセプト書店」…。「蔦屋書店」や「大垣書店」などを思い浮かべてほしい。 新種の業としての成立を願うのはもちろんである。さらには書籍販売の


時の焦点<海外> 中央アジア
カスピ海ルートと一帯一路 昨年12月18~20日、中央アジア5カ国の首脳が来日し、初の日・中央アジア首脳会議が開催された。輸送路整備、気候変動対策、人的交流促進を重点協力分野とする「東京宣言」が採択された。 サプライチェーン(供給網)の強靱化を目指し、中央アジアからロシアを経ずに欧州を結ぶ輸送路「カスピ海ルート」の整備で日本が支援することになった。 しかし、すでに先行し南米にまで「一帯一路」を拡大し、急成長している「中欧班列」との関係に触れておらず、国際物流の要である中欧班列との調整がなければ「カスピ海ルート」の整備実現は困難なのではないか。 「中欧班列(China Railway Express)」とは、アジアと欧州間の国際定期貨物列車のことだ。中国の巨大港湾から陸揚げされたコンテナが、毛細血管のように張り巡らされた中国の鉄道網で天山山脈の北と南の回廊ルートを経て、中央アジアからカスピ海、黒海を通る。そしてイスタンブール、ミラノ、マドリード、デュッセルドルフ、ハンブルクなど欧州主要都市を横断する鉄道「ユーラシア・ランドブリッジ」の巨大なサプライ
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