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朝雲寸言(2026年6月4日付)

6月3日
読了時間: 2分

歌舞伎の大名跡、尾上菊五郎(音羽屋)の襲名披露興行が続いている。今襲名で八代目尾上菊五郎が誕生したのだが、実父の七代目尾上菊五郎も並び立つ。父子並立の「ダブル菊五郎」のような形態は史上初ともいわれる。話題を呼ぶわけだ。


歴史を遡(さかのぼ)る。歌舞伎は江戸時代の1603年、出雲阿国なる男装の麗人が京都で「かぶき踊り」を見せたのが嚆矢(こうし)とされる。


「遊女歌舞伎」「若衆歌舞伎」と推移するが、その理由は風紀(ふうき)紊乱(びんらん)を憂えた江戸幕府の禁圧だった。結果、成人男子のみによる「野郎歌舞伎」につながり、歌舞伎の特質を語る上で欠かせない女形が登場。為政者の弾圧が皮肉なことに、世界が賛美する女形を生んだともいえる。八代目菊五郎も清冽な女形を真摯に演じる。


さて、歌舞伎はその後も、幕府による改革で頻繁に指弾された。そこでどうしたか。家督継承、封建的主従関係、上意下達、型の重視などを浸透させ、生き残りをかけて武家を模した組織を構築したともいえるのだ。


相似形の組織が一種の防衛策として、度重なる弾圧への耐性を歌舞伎に付与した側面は否定できない。歌舞伎の組織には、したたかな意気地が波打っている。


上が下を掣肘(せいちゅう)する。為政者は庶民を弾圧する。庶民は圧を拡散させるため、為政者をまねる。接近する両者の組織構造。それらが定着した末の組織の在り方に、良しあしは別として日本人の心理の原像がほんのりと見えてくるようだ。


(2026年6月4日付『朝雲』より)

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