朝雲寸言(2026年7月16日付)
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「ネガティブ・ケイパビリティー」という言葉がある。「消極的能力」とでもいうのだろうか。もともと、はかなくもみずみずしい名作を繰り出した英ロマン派の夭折詩人ジョン・キーツが提唱した。キーツの代表作の1つ「ナイチンゲールに寄せる」には、この考え方が如実に反映されている。
不確実な問題に直面した時、性急な解決を避け、判断留保のまま、宙に浮いたまま、その不気味な重みに耐える能力のことをいう。VUCA(ブーカ)と呼ばれる先行き不透明で正解のない現代、ビジネスリーダーシップ分野や医療・教育の現場で注目されている概念だ。判断ミスや思考停止を防ぎ、粘り強く考える力として評価されている。
面の皮の厚い「鈍感力」とは違う。審議を不毛な議論で空転させる引き延ばし術とも違う。「そのうち別の事件や事故が起きて、うやむやになる」など時の経過頼みの姿勢とも大いに異なる。
例えば、この能力は、組織の危機管理などで問われる。不祥事に際し、すぐに「犯人捜し」をして原因を特定するのは一見、リーダーシップの発揮に見える。が、そこに落とし穴が潜む。複雑な事情を踏まえずに即断すると、致命的な傷を負いかねない。
なにも、ただ耐えているだけではない。ある解を導き、それを疑い、次の解を出し、それを吟味する。多層的な思考の模索が妥当な解を可能にするのだろう。習得は難しいが、上に立つ者には不可欠な能力である。
(2026年7月16日付『朝雲』より)







