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時の焦点<海外> 東アジア安保

6月3日
読了時間: 3分

地殻変動の音がする


5月14、15日に北京で行われたトランプ米大統領と習近平・中国国家主席の会談は、米国が台湾問題を中国との外交交渉カードにする姿勢を隠そうともしなくなった意味で、東アジア安保の歴史的な転換点として記憶されることだろう。


首脳会談で最も耳目をひいたのは、習氏が台湾問題で「処理を誤れば両国は対立・衝突し、危険な状況に陥る」とトランプ氏に露骨に警告したことだった。ある外交関係者は「通常の首脳会談では考えられない脅しだ」と驚きを隠さない。


会談で中国側は、500機との事前報道もあったボーイング社の航空機受注を200機に抑え、レアアース輸出規制も米国の懸念に「対処する」との抽象的な表現にとどめた。トランプ氏が習氏を9月24日にワシントンに招待すると発表したことにも、中国側は受諾を即答しなかった。


中国は中間選挙前の習氏招請を是が非でも成功させたいトランプ氏の心理を見透かし、経済での譲歩と引き換えに、台湾問題で米側から一層の妥協を引き出す取引を目論んでいるはずだ。


「外交は大きなディール」と考えるトランプ氏が、こうした誘惑に乗る懸念は消えない。


1982年以降、米国は台湾への武器売却を中国と事前協議しない立場を貫いてきた。にもかかわらずトランプ氏は今回の会談後、台湾への武器売却を習氏と「詳細に話し合った」と述べ、これを中国との外交交渉の切り札にしたい意向さえ明らかにしている。


武器売却の規模や時期を中国との事前協議事項にしてしまえば台湾の対中抑止は弱まり、東アジアの軍事バランスは中国に有利に傾く。既に米軍はイランでミサイルを大量消費し、台湾防衛の作戦計画に支障が出ているのに、である。


長年、米国主導で地域安定の基盤となってきた原則が、いとも簡単に反故(ほご)にされる――。そうした先行き不透明な地政学的地殻変動の時代が、目の前に来ている。


米中首脳会談があった5月15日は、奇(く)しくも国際政治学者の故高坂正堯氏の30年目の命日にあたる。透徹した知性とリアリズムで国際社会を見つめ続けた高坂氏は、米国抜きでアジア・太平洋に安定した国際体系を作ることは困難だとの認識を踏まえた上で、この地域の各国が協力して国際関係の基調を作っていく必要性を訴えていた。


亡くなる直前の論考で高坂氏は、こう書いた。「アジア・太平洋地域の将来を決めるのは、基本的にアメリカと中国という巨大な存在である。地域協力はせいぜい補助的な役割しか果たさないが、しかし、国際関係において補助的なものはときとして大きな重要性を持つことがある」


碩学(せきがく)のこの言葉を、あらためてかみしめてみるべきではないか。東アジアの近未来を、米中2大国のパワーバランスと利害打算だけに委ねるわけにはいかないからだ。


高旗良(外交評論家)

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