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ブックレビュー

幕府海軍 ペリー来航から五稜郭まで 金澤 裕之著


 今から約150年前に13年間だけ存在した軍事組織「幕府海軍」。

 1855年に誕生し、江戸幕府の崩壊と共に短期間で歴史的使命を終えたが、この間、長崎海軍伝習や勝海舟らによる「咸臨丸」の太平洋横断航海など日本の海軍史に記憶される多くの足跡を残し、近代日本海軍の嚆矢(こうし)となった。

 ともすれば、近代日本は明治維新を起点にゼロから始まったという文脈で語られがちだが、決してそうではなく、諸藩に先駆けて創設された「幕府海軍」13年間の蓄積がいかに明治海軍の礎となり、人材や構想等の遺産が引き継がれたか、著者の言葉を借りれば「幕府海軍からの『居ぬき』でスタートした」のかを丁寧に解き明かしていく。

 著者は明治維新史を専門とする防大准教授(博士)の2等海佐。前著の学術書『幕府海軍の興亡』(2017年、猪木正道賞)をベースに、一般読者に幕府海軍をより身近に感じてもらおうと、人物等にまつわるさまざまなエピソードや教訓を盛り込み、歴史のうねりに隠れた13年間を鮮やかによみがえらせている。

 (中央公論新社刊、902円)

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