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ブックレビュー

デミーンの自殺者たち 独ソ戦末期にドイツ北部の町で起きた悲劇 エマニュエル・ドロア著、剣持久木・ 藤森晶子訳/川喜田敦子解説


 第2次世界大戦における独ソ戦の末期、ソ連兵の暴力を恐れ、集団自殺を遂げたドイツの町があった。虐殺、強姦、放火といった戦時暴力がなぜ起こり、悲劇が生まれたのか。その「記憶」は戦後、ソ連支配下の東ドイツでどのように封印され、再び蘇ったのか――。

 フランス人歴史学者がデミーンで起きた5日間の出来事について、残された証言や史料から「死者の声」に耳を澄まし、読者に追体験させる形でリアルに描き出す。

 同時に、その手法は極めて客観的かつ科学的で、ロシア人生来の「野蛮さ」を理由にする単純な見方では説明がつかない物理的暴力のメカニズムを解き明かしていく。

 終戦前後の混乱で1200万人のドイツ人が東方から「追放」され、約200万人のドイツ人女性が敵軍に強姦された。

 加害国も被害国である実態。本書の解説で引用されたヴァイツゼッカー元西独大統領の「ドイツが始めた戦争でまずは他国の国民が犠牲になり、次いで我々自身が自ら引き起こした戦争の犠牲者になった」――という言葉は、今も我々に大きな問いを投げ掛けている。

 (人文書院刊、3080円)

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