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ブックレビュー
此一戦 日本海海戦記 水野 広徳著
「皇国の興廃、此の一戦にあり」――。
1905(明治38)年5月27日、東郷平八郎司令長官率いる帝国海軍連合艦隊は、当時世界有数の無敵艦隊として知られたロシア・バルチック艦隊を日本海で迎え撃った。
その日本海海戦に水雷艇艇長として参加した元海軍大尉の水野広徳による近代戦記文学の先駆けとなった大ベストセラーの復刻版。日露両艦隊の戦力比較から、丁字戦法、後に東郷ターンと言われた奇跡の敵前大回頭など、日本海海戦の実像を臨場感を持って記した。
戦闘の合間に交わされた士官兵卒の会話、バルチック艦隊の大遠征、秋山真之中佐が敵艦に乗艦し、降伏を受け入れる緊迫した場面などが克明に描かれる。
壮烈悲惨な最期を遂げるロシア艦隊の乗組員の「ウラー」の声、図らずも現在ウクライナで苦戦するロシアの姿をほうふつとさせる。水野は勇猛果敢に戦う彼らを「世界に冠たる『スラブ魂』」だと評価するが、今の戦争をどう評価するだろうか。
(中央公論新社刊、990円)