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ブックレビュー

武装商船「報国丸」の生涯 森永 孝昭著


 先の大戦で民間の船は国家管理となり、船員とともに日本軍の軍事輸送に動員された。圧倒的な物量差を背景に膨大な商船が戦没し、大勢の船員、兵士が犠牲になった。そうしたなか臨検1、拿捕(だほ)2、撃沈3と次々と戦果を挙げた商船がある。大阪商船の「報国丸」だ。本書はその「報国丸」の建造から徴用、沈没までを実録形式で再現する。筆者は長年ドックマスター(船渠長)として勤務した森永孝昭氏。佐世保重工業を定年退職後、10年の歳月をかけて書き上げた。

 豪華貨客船「報国丸」は1939年、東京オリンピックを控え国中が湧きかえっていた頃、玉造船所で進水した。しかし貨客船としての務めはアフリカ航路の一往復のみ。41年には接収され、日本海軍の特設巡洋艦に改造される。誰にも期待されていなかった同船だが、姉妹艦「愛国丸」と共に太平洋・インド洋に進出、先のような戦果をあげていった。だが、勢いに乗る「報国丸」にも最後は悲劇が待ち受ける。

 徴用戦は「戦争に巻き込まれた非力な船」のイメージがあったが、読み進めるうちにそれが画一的なものであったことに気づかされる。緻密な調査で事実を掘り起こし、徴用船の新たな側面に光を当てている力作だ。

 (並木書房刊、2970円)

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