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ブックレビュー
「諜報の神様」と呼ばれた男 情報士官・小野寺信の流儀 岡部 伸著
インテリジェンス大国で知られる英国の情報機関MI5から「欧州の枢軸国側諜報網の機関長」と警戒された日本陸軍の情報士官、小野寺信少将の足跡を追った一冊。独ソ開戦、ソ連参戦のヤルタ密約など、数々の歴史的情報を入手した背景には、ポーランドやバルト三国の情報士官たちと築いてきた信頼関係があったことが分かる。
諜報の世界では互いの情報を交換するのが基本となる。ドイツの法学博士で情報士官だったカール・ハインツ・クレーマーは敗戦後の尋問で小野寺からもたらされた情報の詳細を明らかにしたが、その内容は西部最前線の連合軍、英国軍、仏陸、空軍の配置、極東の英米軍の空挺部隊の配置情報、ソ連の暗号表など、英国を驚愕させる戦略的、戦術的なものだった。
こうした質の高い情報をどのように入手したのか。小野寺は各国の情報士官から友人として信頼され、強固な「情のつながり」を築いていた。戦後、小野寺は各国の情報士官たちについて「小野寺個人、そして日本を大変尊敬してくれ、日本のためによく働いてくれた」と回想したという。
インテリジェンスの極意とは。そのヒントが本書の中にちりばめられている。
(PHP研究所刊、1100円)