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ブックレビュー

山本五十六 アメリカの敵となった男 相澤 淳著


 「最も勇敢に戦争に反対しながら、自ら対米戦争の火蓋(ぶた)を切らなければならなかった」連合艦隊司令長官の山本五十六は、いかにしてアメリカの敵となったのか。

 ペリー来航に遡る日米関係の中で、その生い立ちを掘り起こし、特に海軍軍縮問題を通じて不信感を強めていった「対米認識」を軸に、真珠湾攻撃に至った経緯を貴重な史資料で丁寧にたどる。

 著者は防研戦史研究センター安全保障政策史研究室長などを歴任した防大教授。前著『海軍の選択―再考真珠湾への道』(中公叢書、2002年)では「日本海軍は対米協調主義で開戦には反対だった」という「通説」に敢えて反論を試みており、本書はその続編として読むことができる。

 日本の限界を十分に知りつつ、「任務」に忠実に向き合い、戦場に散った軍人像に迫る一方、米国を仮想敵国とする一貫した対米認識の根底には、ペリー来航とそれに続く明治維新によって引き起こされた「故郷長岡の悲劇」があったと指摘する著者の視点は新鮮で、これまでの山本像に再び一石を投じる意欲作となっている。

 (中央公論新社刊、1870円)

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