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ブックレビュー

日本海軍の歴史 新装版 野村 實著


 日本海軍のいわゆるまとまった通史と呼ばれるものは、それほど多くはない。学術的にも信頼しうるものとなるとなおさらである。本書は、その日本海軍の創設から終焉までの流れを概観することを目的に書かれた「海軍体験者による海軍史」である。

 筆者の野村氏は海軍兵学校を卒業し戦艦「武蔵」に乗艦、終戦後は装備庁などに勤務し防大教授も務めた。本書を編纂中に急逝し、歴史学者の伊藤隆氏が、残された原稿を再構成して刊行した。

 欧米列強の脅威の中で日本海軍が艦艇や機構を整備し、世界三大海軍国の地位を築き上げていく過程や、技術移転を理由に米英からドイツへと傾斜していく経緯などを丁寧に概説。海軍史に限らず戦史を扱う書物は、指導部の政治的動向や戦略・戦術論にページが割かれるケースが多いが、その説明は最小に留め、目まぐるしく変化する世界情勢の中で日本海軍がどのように動いたのか、その興亡に焦点を当てる。

 本書について伊藤氏は巻末で、「(帝国海軍史における)第一の基本文献として活用されるものと考える」と述べており、今後の研究発展を支える貴重な一冊となるだろう。

 (吉川弘文館刊、3850円)

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