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ブックレビュー

海軍戦略500年史 シー・パワーの戦い 堂下 哲郎著


 ロシアのウクライナへの侵攻や中国による海洋進出、北朝鮮の脅威など、海に囲まれた我が国の安全保障環境は大きく揺さぶられている。筆者で元海将の堂下氏は「『シー・パワー』の時代の再来だ」と指摘する。本書は大航海時代から今日までの海軍戦略の500年を振り返り、今に生かすべきヒントを提示する。

 海を巡る各国の覇権争いと興亡が時代ごとにまとまっており、海洋史としても読みごたえがある。しかし本書の特徴は、そこに地政学的観点から分析を加えている点にある。「海の地政学」に1章を割き、英国の戦略思想家マハンとコルベットを紹介。英国がシー・パワーを獲得したのは「平時、戦時を問わず陸軍力と海軍力を統合して用い、(コルベットによる)広い意味の『海洋力』を用いたことにある」と説く。

 昨今の中国の動向も取り上げる。中国が一方的に領有権を主張し、これを認めない立場を示す米国が「航行の自由作戦」を行うことで、米中の対立が新たな段階に入っていることを明らかにする。

 日本は「自由で開かれたインド太平洋」の提唱国である。このビジョンを推し進めるために何をなすべきか。本書が示す海洋地政学の視点から学ぶべき意義は大きい。

 (並木書房刊、2860円)

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