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ブックレビュー

アーノルド元帥と米陸軍航空軍 源田 孝著


 航空機の軍事利用が始まり、主戦力として定着していく過渡期に活躍し、米陸軍の一部門であった空軍独立の功労者、ヘンリー・アーノルドの伝記だ。

 米陸軍のパイロットや教官を経て、エア・パワーを軽んじる軍首脳部や海軍、政治家と渡り合い、陸軍元帥と空軍元帥の2つの称号を得るに至った彼の生涯を通して、航空機がもたらす戦果の向上や、米陸軍の戦略爆撃思想の系譜が描かれている。

 中でも戦略爆撃思想の変遷を表すものとして、興味深いエピソードがある。第2次大戦初期、ドイツへの夜間無差別爆撃を主張する英空軍に対して、米軍は軍需産業を標的にした昼間精密爆撃にこだわった。民間人を巻き込む無差別爆撃を忌避する風潮が国内に根強かったためだ。その米軍が大戦末期には、東京大空襲や原爆投下のような、日本の民間人や一般家屋への無差別爆撃に至る。

 そこに至った理由には組織内政治などの複合的要因があるが、元防大教授(元空将補)である著者の学識に裏打ちされて、丁寧かつ平易に解説されている。

 (芙蓉書房出版刊、2970円)

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