創刊70年を越える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
安保・防衛問題の専門紙です

ブックレビュー

「イスラエル人」の世界観 大治 朋子著


 本書はイスラエル・パレスチナ紛争の本質に迫る一冊だ。著者は毎日新聞編集委員で、エルサレム支局長などを歴任。新聞協会賞を2年連続で受賞した実績を持つ。イスラエルとハマスの戦闘を取材する中で、「イスラエルのユダヤ人は、どんな世界観の中に生きているのか」との疑問が芽生え、本書の執筆につながった。

 建国以来、周辺地域との戦闘を繰り返してきた国家の論理を読み解きながら、紛争の根底にある思考の構造を探る。歴史、宗教、教育、軍事に根ざすイスラエル人の世界観を丁寧に掘り起こし、単なる善悪の枠を超えた複雑な人間像を描き出した。

 また、ホロコーストの記憶や教育現場で語られる歴史認識などが、彼らの価値観を形づくっていることが分かる。現地の声を拾いながら社会の深層に切り込む本書は、報道の枠を超えて読者に問いを投げかける力を持つ。

 さらに、草の根レベルでの和平への取り組みも紹介。「中東和平」という巨大な課題に向き合う時、その解決のヒントは、「共存」を掲げる人々の言葉にあると著者は指摘する。分断のただ中にあっても、対話と共感を諦めない声が、未来への希望をつないでいる。

 (毎日新聞出版刊、1,980円)

最新ニュースLATEST NEWS