<春夏秋冬> 選挙で露わになる イスラエル社会の分断 酒井啓子

注目のイスラエル選挙が終わった。ネタニヤフ首相率いる与党が第1党となったが、過半数を取れなかった。どこと連立するか、誰が首相になるか、はたまた再選挙になるかなど、選挙後の駆け引きがどうなるかは分からないというのが、イスラエル選挙の常態である。
今後の政権の行方は別として、第2党、第3党の台頭は注目に値する。イスラエル国民のエスニックな分断を明確に示しているからだ。
イスラエルがヨーロッパで迫害を受けたユダヤ教徒の悲願として建国されたことはよく知られているが、そうした背景から、これまでのイスラエル政治はヨーロッパ出自のユダヤ人によって担われてきた。ユダヤ問題の専門家である鶴見太郎氏によれば、特にロシア、ウクライナなど旧ソ連圏や東欧出身の政治家がこれまで主流だったという。
こうした東ヨーロッパにルーツを持つユダヤ人をアシュケナージ、南ヨーロッパ出身者をセファラディームと呼ぶのに対して、北アフリカやイエメン、イラクなど、アラブ地域から来たユダヤ教徒をミズラヒームと呼ぶ。今回、第2党となった反ネタニヤフ派を率いるアイゼンコットはモロッコ系ユダヤ人で、その典型だ。
そして、第3党に躍進したのが、アラブ系政党である。イスラエルは「ユダヤ人のための国家」建設を目指して作られた国だが、建国の際、もともとそこに住んでいたパレスチナ人をすべて追い出せたわけではなかった。領土内に多くのパレスチナ人を抱えて建国することになったのだ。建前として「民主的国家」をうたうイスラエルとしては、彼らを無国籍者にするわけにもいかず、国籍を付与したが、さまざまな分野で「ユダヤ人国民」に与えられた権利と同様の権利が与えられているとは言い難い。
イスラエルの世論調査を見ると、「2級国民」扱いされているアラブ系イスラエル人(つまりパレスチナ人)と、ユダヤ教徒のイスラエル人では、正反対の回答が出ることが多い。特にガザや西岸のパレスチナ自治区に対するイスラエル軍の攻撃が続く今、その亀裂は日々強まっている。
東欧系ユダヤ人たるアシュケナージをトップに、その下にユダヤ教徒だが中東・北アフリカ出身のミズラヒームが、そして底辺に、国籍を持つものの「アラブ人」としてさげすまれてきた、先住民たるパレスチナ人がいる。
イスラエル社会のエスニック的ヒエラルキー構造が持つ建国以来の問題が、ガザ戦争を契機に噴出し始めた。それを如実に表したのが、今回の選挙だ。
(千葉大学特任教授)








