<春夏秋冬> 「米中AI冷戦」という新時代の幕開け 前嶋和弘

9月末の米中首脳会談で印象的だったのが、トランプ大統領による習近平主席の厚遇ぶりでした。空港までの出迎えやタラップ下の赤じゅうたんの演出、歓迎式典をみると、米中関係のフェーズはやはり融和に転じているようにみえます。
ただ、両国の不信感が払拭されていないのも明らかになりました。微妙な関係がわかるのは、会談で大きな争点となったAI(人工知能)問題について対話の枠組み(ホットライン)の設置でした。AIの暴走などで、何か大きな問題が起こった際には米中ですぐに話し合える体制づくりを示しています。
一見して米中接近の象徴ともいえるAI対話枠組み作りですが、そこにはトランプ政権側の中国を抑えたい思惑も見え隠れしています。米国内でAIへの逆風はすさまじい状況です。AIへの懸念は人類滅亡論だけでなく、雇用の喪失やデータセンターによる電気料金の上昇といった人々の日常生活にも及んでいます。
トランプ大統領は「AIを制する者が世界を制する」と豪語しており、国内開発企業には規制をかけないことを明言しています。
そして、AI懐疑論は「左派の陰謀に過ぎない」と主張しています。新型コロナウイルスの起源をめぐって中国に対する不信が根強い中、「AIを悪用して危険な暴走をさせるのは米国に技術開発で肉薄する中国だ」という見方も米国内で広がっています。そこで米中首脳会談を通じて、中国を巻き込んで対話の枠組みをつくったことを誇示したいという思いがトランプ大統領にはありました。
「ホットライン」という冷戦時代の言葉は象徴的です。米ソのホットラインは両国首脳を結ぶ直通の緊急通信回線で、1963年に設置されました。前年のキューバ危機で、首脳メッセージの伝達に半日以上かかったことが問題となり、不測の事態を避けるための迅速な連絡手段設置が不可欠でした。
緊急な連絡を取り合わなければいけない対象が核でなくて、今回はAIという形です。ただ、このAIホットラインは、「冷戦」そのものです。米中はいずれもAI開発で相手を潰したい。また、米国の開発企業側は猛追する中国側のペースも遅らせたいという狙いもあります。企業の一部が開発減速の必要性をアピールしているのも、中国に対するけん制のようにも見えます。
AI対話の枠組み創設は「米中AI冷戦」時代の幕開けなのかと思います。
(上智大学総合グローバル学部教授)








