<春夏秋冬> 李在明政権にとってのウクライナ支援の相克 平岩俊司

ウクライナのゼレンスキー大統領が国連総会で北朝鮮兵捕虜2人の韓国移送を一方的に公表したため、韓国は猛反発した。
トランプ米大統領が金正恩(キムジョンウン)総書記との首脳会談への意欲を見せるなか、仮に米朝が動いたとき、それに乗り遅れてはならない、というのが李在明(イジェミョン)政権の立場だ。しかし、そのためには北朝鮮が南北対話を受け入れる必要があり、南北関係の緊張は好ましくない。
この問題は、北朝鮮の反応次第で新たな摩擦を生む可能性がある。そもそも韓国は北朝鮮との間で難しい問題を抱えていた。ゼレンスキー大統領の発言の2日前、非武装地帯(DMZ)で地雷が爆発し、韓国軍兵士が負傷したのだ。当初、李在明政権は慎重に対応しようとしたが、厳しく臨むべしとの国内の雰囲気もあって、韓国軍と国連軍が調査し、北朝鮮の設置した地雷として謝罪を要求した。
金正恩総書記の実妹の金与正(キムヨジョン)部長はこれを「自作自演」として猛反発していた。このような状況での捕虜移送問題は南北間の新たな火種となる可能性がある。
そもそもロシアのウクライナ侵攻直後、韓国では北朝鮮に厳しい保守派の尹錫悦(ユンソンニョル)政権がスタートした。尹錫悦政権は人権問題で北朝鮮を非難し、北朝鮮の人民にさまざまな刺激を与え内部から変化させようとした。ロシアに急接近する北朝鮮に対抗し、ウクライナ支援にも積極的だった。北朝鮮政策とウクライナ支援に矛盾はなかったのだ。
ところが、戒厳令宣布による尹大統領の弾劾罷免を受けて登場した進歩派の李在明政権の対北姿勢は南北対話を基本とする。北朝鮮のロシア・クルスクへの派兵を前提にすれば、ウクライナへの協力は南北の立場の違いを明確にしてしまう。その一方、先進国としてウクライナ支援に消極的姿勢も示せない。そこで発生した北朝鮮兵の移送問題は南北関係を一層複雑にする。
今、仮に米朝が動いたとしても北朝鮮が南北対話に応じるとは思えない。もとより、米朝首脳会談が本当に実現するのか、その際、核ミサイル問題はどう扱われるのか、など不透明な部分は多く否定的な見方もある。
しかし、仮に米朝が動き始めた時、それに乗り遅れることはできない。トランプ大統領は年末までに米朝を、と意欲を見せるが、韓国の苦悩は続く。
(南山大学総合政策学部教授)








