時の焦点<海外> イスラエル総選挙

新たな混迷の始まり
10月27日のイスラエル総選挙は、ネタニヤフ首相率いる与党陣営もアイゼンコット元軍参謀総長の野党陣営も、過半数に至らなかった。組閣や連立の交渉は数週間から数カ月かかるとみられ、誰がこれからのイスラエルを率いるのか、しばらくは見通せない。イラン戦争の先行きも相まって、中東は新たな混迷の始まりの中にある。
定数120のうち、ネタニヤフ与党陣営は53議席、アイゼンコット野党陣営は48議席を獲得。過半数を目指して連立の動きが活発化している。キャスティングボートを握るのは19議席と躍進したアラブ系政党だが、アラブ系住民には強烈な反ネタニヤフ感情があり、与党との連携は難しい。一方のアイゼンコット陣営にもアラブ系政党には拒絶反応がある。両陣営の大連立もささやかれるが、これもハードルが高い。全て不調だった場合には再選挙となる。
今回の総選挙は、イスラエルの将来を左右すると言われた。イスラエルの国際的孤立が国民やユダヤ系米国人に深刻な危機感を抱かせているからに他ならない。
1200人の死者を出した3年前のハマスによるテロ攻撃は、イスラエルをあらためて戦時国家に変えた。その報復で7万人を超えるパレスチナ人の犠牲者を出し、国際機関からジェノサイド(集団虐殺)と批判されても、自衛が目的というのがイスラエルの論理である。米メディアはネタニヤフ氏を「中東では勝ったが世界を失った首相」と厳しく指摘した。
とはいえネタニヤフ氏もアイゼンコット氏も、パレスチナ国家樹立反対やガザのハマス統治終了を掲げる点では同じであり、イラン攻撃や核計画廃棄などイラン政策でも軌を一にする。
違いは、極右勢力の圧力や自身の政治的延命のため強硬路線をとるネタニヤフ氏に対し、アイゼンコット氏は欧州との関係改善を志向する国際協調派であることくらいだろう。パレスチナとの共存を拒み安全保障を最優先する軍事国家イスラエルの本質は、どちらが首相に就こうと変わるとは考えられない。
確かにアイゼンコット氏が新首相になれば、ヨルダン川西岸入植地におけるイスラエル人の暴力をある程度取り締まるなどの柔軟な姿勢はみられるかもしれない。ただしそれは、パレスチナ政策よりもスタイルの変化に過ぎず、国際社会の対イスラエル感情が好転するかは疑わしい。
懸念されるのは、交渉が長期化する中で暫定首相の座にあるネタニヤフ氏が連立交渉を有利に運ぶために、新たなイラン攻撃を米国に働きかけることだ。中間選挙の足かせが取れたトランプ政権の出方次第では、イラン情勢が再び悪化する事態も想定される。
イスラエルの連立交渉や米中間選挙後の混乱を見越して、サウジアラビアやトルコ、パキスタンは緊張緩和に独自に動きだした。中東の安定はまさに正念場だ。
高旗良(外交評論家)







