時の焦点<海外> ウクライナ情勢

欧・露のチキンゲーム
ウクライナのゼレンスキー政権で、2019年から21年まで首席報道官を務めたユリヤ・メンデルという人物がいる。
現在はジャーナリストとして活動する同氏が英誌「スペクテイター」(9月28日号)に寄稿した論文「ゼレンスキーの戦略は国家の自殺」を読むと、ロシア・ウクライナ戦争の深層が見えてくる。
同氏は「同戦争をフォローしている米国人には、過去数カ月は実に奇妙に見えるに違いない」と書き出すが、言われてみれば、確かに指摘の通りだ。
初夏の頃、ウクライナ政府および多くの西側メディアは、同国が勝利しているというニュースを発信していた。それが7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の後、ほどなくして、ウクライナ政府は生存のために迎撃ミサイル300基が必要だと発表した。
そして9月、ウクライナは国防のための予算が270億ドル不足していると発表した。同氏は25年には、ウクライナがこの戦争を軍事的に勝利するのは不可能で、交渉による平和が唯一の解決策との結論に達したそうだ。
しかし、ゼレンスキー大統領は6月下旬、ロシアを40日間、長距離のドローンで攻撃する計画を承認した。メンデル氏は「現体制の下では、平和のチャンスはわずか」との意見になる。
古いニュースをめくれば、22年3月末、トルコを仲介国として、いわゆるイスタンブール・コミュニケが具体化していた。
コミュニケに基づく条約案はウクライナを永世中立・非核保有国とし、両国にクリミアをめぐる紛争は10―15年以内に平和的解決を目指すよう求めた。4月中旬にできた条約草案は、2週間以内に条約調印との見通しも示した。
そこに、当時のジョンソン英首相が介入する。ウクライナとロシアが和平条約に調印するとの情報を得る。すると急ぎキーウに飛び、4月9日、大統領に「戦闘の継続」を強く進言した。
同首相が和平交渉を失敗させたとのうわさは当時からあったが、イスタンブールでの交渉の首席代表だったアラハミア議員が23年11月、同国メディアで暴露した。
NATOからの軍事・財政支援は、勇敢な弱者への支援から、ロシアとの代理戦争への支援に変貌した。
英紙「テレグラフ」(9月24日)によると、英、仏、独など欧州指導者は、ロシア国内への攻撃強化の目的に関し、ある論理を持つ。ロシアを交渉の場に引き戻すために十分な痛みを与えることだ。しかし、ロシアも同じ論理で対抗したらどうするのかは考えない。
ロシアへの激しい攻撃を強めれば、ロシアとNATOの一部との地域紛争が制御不能の段階に陥る可能性も大きくなる。
欧州は、ウクライナがこの消耗戦に敗北したというリアリティーを気にとめないのだろうか。ロシアと危険な“チキンゲーム”をいつまで続けていく気なのだろう。
草野徹(外交評論家)







