時の焦点<海外> ハイブリッド戦争

対露警戒高まる欧州
ロシアのウクライナ侵攻からまもなく5度目の冬を迎える。ゼレンスキー政権を一気に屈服させようと考えたプーチン大統領のもくろみは早々と崩壊し、今やプーチン氏自身が追い詰められているかのようだ。早期決着のつもりで戦争を仕掛けて泥沼に陥るのは、トランプ米政権のイラン攻撃にも通じよう。古今東西の歴史に学ぶことのない大国のおごりに、周辺国はいつも振り回される。
そのウクライナを巡る戦火がNATO(北大西洋条約機構)に飛び火するのではないか――。欧州では今、そんな懸念が急速に高まっている。
9月末、英紙ガーディアンのウイークリー版は「モスクワが数カ月以内にNATOを攻撃する可能性を情報機関トップらが警告」との不穏な見出しの記事を掲載した。
それによればポーランドのトゥスク首相は議会に対し、ドローンかミサイルによるNATOへの攻撃が今後数カ月で起こるかもしれないと指摘。ロシアは(加盟国への攻撃をNATO全体への攻撃とみなして共同で対処すると定めた)条約第5条が空論であることを証明しようとしている、との見方を示した。
また、フランスのマクロン大統領もトゥスク首相の警告を「文書の裏付けのある信頼できるものだ」とし、ロシアの脅威への対処を議論する緊急会議を開催。チェコの情報機関トップはガーディアン紙の取材に、ロシアが「年単位ではなく月単位」でシナリオを練っているとしつつ、「そうはさせないよう多くの人が全ての可能な努力をしている」と語った。
事実、ドローンを使ったNATO領域への破壊工作はこの夏以降、多発している。ドイツ東部ライプチヒ空港で8月、爆発物を搭載したドローンが発見された。9月にはリトアニア上空で、爆発物を搭載した無人機をイタリア空軍機が撃墜する事態も発生した。ロシア政府はいずれも関与を否定しているが、NATOは背後にロシアの勢力がいるとみている。
想定されるのは、ドローンによる攻撃だけでなく虚偽情報工作やサイバー攻撃などを組み合わせた「ハイブリッド戦争」だ。
ロシアの狙いは言うまでもなく、ウクライナ支援をやめさせることである。全面戦争につながりかねない本格的な軍事行動はロシアも想定していないとみられるが、ハイブリッド戦争を繰り返すことで欧州各国の世論に厭戦(えんせん)気分を醸成し、ウクライナ支援を後退させることができれば大きな「戦果」になる。
こうした中、米国はロシア産軽油の市場開放を発表。「ロシアに戦争の新たな収入を生み出す」(メローニ伊首相)と反発が広がっている。米スペースX社の衛星通信サービス「スターリンク」のウクライナでの利用も制限され始めた。
NATOのリーダーは米国のはずだが、頼みの綱の米国がロシアの侵略に甘い顔をし、欧州は自分たちで欧州を守るしかないと身構える。
高旗 良(外交評論家)







