時の焦点<国内> 原子力潜水艦

費用対効果を吟味せよ
中国海軍が原子力潜水艦の能力を向上させ、太平洋での活動を強めているのは、地域の平和と安定を脅かす懸念材料だ。原潜は、長期間にわたって潜航でき、敵に探知されにくいという特長を持っている。自衛隊が保有しているディーゼルなど通常動力型の潜水艦では、中国の原潜に対応できまい。日本も原潜の配備について真剣に検討すべき時期を迎えている。
高市早苗首相は10月14日の衆院予算委員会で、自衛隊への原潜の導入について、「具体的かつ現実的な検討を深める」と述べ、年末に改定する安全保障関連3文書の議論の対象に含める考えを示した。
中国の原子力潜水艦は7月、太平洋の公海に向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)1発を発射した。訓練用の模擬弾頭を搭載し、予定していた海域に落下したという。事前に中国側から通知を受けた日本政府は、発射中止を求めたが、聞き入れられなかった。
「海洋強国」を掲げる中国は、原潜を十数隻保有しているとみられる。近年はその開発を急ぎ、通常動力の潜水艦を合わせると60隻以上の潜水艦を配備しているようだ。太平洋で米軍と対等に渡り合える態勢を整え、西太平洋の権益を手中に収めようとしているのではないか。
日本は、原子力基本法で原子力の研究、開発および利用を「平和目的」に限っている。自衛艦の推進力としての原子力利用についても、1965年の政府の国会答弁で「一般化していない」とし、認めていない。
だが、日本周辺の安全保障環境は悪化している。中国だけでなく、北朝鮮も、弾道ミサイルを発射できる原潜の開発を目指している。60年も前の答弁にとらわれて、日本の安全が脅かされては困る。
海外でも原潜の議論が活発だ。豪州は2023年、米英との間で原潜配備の支援を受ける合意を結んだ。米国は昨年、韓国の原潜建造を認めた。
自衛隊は、潜水艦に搭載可能な垂直ミサイル発射システム(VSL)を開発する方針だ。ミサイル発射後、敵の反撃を回避するには、機動力の高い原潜が望ましい。自衛隊が原潜を配備すれば、太平洋での米軍との協力の幅も広がり、抑止力が高まるだろう。
一方、実際の配備に向けては課題も多い。原潜の建造費は1隻あたり約1兆円とされ、通常動力の10倍の費用が必要だ。艦艇用の原子炉の開発・建造や、乗員の養成には10年単位の時間がかかるとされる。
日本維新の会は原潜の早期導入を訴えているが、自民党には慎重論がある。政府・与党は、将来にわたって日本の安全をどう守っていくか、原潜の費用対効果を見極めつつ、丁寧に議論を進めるべきだ。
夏川明雄(政治評論家)







