時の焦点<海外> 多極化と中露印

座視できぬ西側世界
ネパール・中国国境の土石流災害は地球温暖化の影響があると指摘されても、原因追及や対策を議論する機運は高まらない。国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長が米政権から制裁対象とされても、国際法規範を擁護する大きなうねりは起きない。今の世界にはグローバルな課題解決の先頭に立つ国も、国際秩序の解体を食い止める主役も不在なのだ。
戦後長く、それは米国が担ってきた。だが、9・11同時多発テロから四半世紀、米国が警察官の役目を降りた世界の勢力図は一変した。象徴的なのが、同時多発テロ25年を挟んで開催された上海協力機構(SCO)とBRICSの首脳会議だろう。二つとも中国とロシア、インドが軸となり、人口では世界の半分、経済規模でも四分の一から三分の一以上を占めるグループとしてG7(主要7カ国)の対抗勢力へと成長した。
SCOにはパキスタンも含む核保有国4カ国がおり、中央アジア各国を包含した巨大なユーラシア連合体である。ブラジルや南アフリカが参加するBRICSは、グローバルサウスの一大拠点だ。
中心は中国。SCOでのプーチン露大統領との個別会談では、背中を丸めるように座るプーチン氏の正面で胸を張って対峙する習近平国家主席の国際映像が流れた。9月1日の共同宣言はイラン戦争にも触れ、米国の名指しは避けつつも「国際法と国連憲章の原則と規範に反し、国際平和に深刻なリスク」との非難声明を採択した。参加したイランのペゼシュキアン大統領には心強い援軍となったはずだ。
習氏はBRICS首脳会議が開かれたインドを7年ぶりに訪問し、モディ首相と中印関係改善を印象付けた。習近平、プーチン、モディの3者が半月で2度も顔を合わせて蜜月ぶりを演出し、それを背景に習氏は今月24日には訪米する。
SCOもBRICSも利害打算の連合であることは無論だが、西側の不和を見透かすように、中国の巧妙なアプローチが米国を嫌う地域に浸透しているのは間違いない。
一方の米国は、どこにいるのか。「インド太平洋軍」の名称からインドを削除して「太平洋軍」に戻した米国の最近の動きは、中国抑止の印象を避けて多極化世界の居場所を模索しているようにも見えれば、中長期の戦略を欠いて漂流しているようにも映る。
ニューヨーク・タイムズ紙は9月初めに掲載した論考で、SCOなどにおける中国の活発な多極化外交と同盟国に圧力をかけるばかりの米外交を対照させ、各国との絆を「中国は築き上げ、トランプはすり減らす」と皮肉ってみせた。
戦後81年の国際秩序が壊れ、新しい秩序が生まれようとしている。問題は誰がその多極化世界を主導するのか、自由と人権、民主主義を掲げる西側は盟主不在のまま座視していていいのか、ということである。
高旗 良(外交評論家)






