時の焦点<海外> 苦悩する欧州

移民危機で亀裂露呈
日欧の国際報道における最大の違いは、中東やアフリカのニュースが欧州では質量とも圧倒的なことだろう。中東とアフリカは、欧州とは地中海を挟んで一つの歴史文化圏内にある。日本で言えば朝鮮半島や中国のように、安全保障上も社会経済上も無関心・無関係ではいられないのだ。
7月末、北アフリカ・モロッコに接しているスペイン領セウタに7万人を超す移民が一気に押し寄せた問題は、その欧州の最も敏感な部分を大いに刺激した。各国は中東・北アフリカから100万人以上の難民が流入した2015年の政治危機を想起し、EU(欧州連合)に不協和音が響いた。
イタリアは、EU域内を自由に移動できるシェンゲン協定をスペインとの間で1カ月停止。フィンランド、デンマーク、チェコが支持に回った。
怒ったスペインは9月7日まで伊からの国境審査を厳格にする対抗措置をとる。セウタの移民はほとんどがモロッコに戻って事態は沈静化したにもかかわらず、欧州の亀裂は露呈したままだ。
本来はドイツやフランスという中心国家がまとめ役になるところ、独は9月の地方選で反移民の極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の大勝が見込まれ、メルツ首相の辞任論が取り沙汰される。仏でも来春の大統領選で極右政党「国民連合(RN)」の指導者ルペン氏が有力視されるなど、排外主義的ポピュリズムの高まりに足をとられ、独仏とも動きがとれないのが現実だ。
米国のイラン攻撃に欧州は、国際法尊重の立場から足並みをそろえてノーを突きつけた。法の支配や人権重視はEUの屋台骨であり、米国の一国主義、中露の専制体制という力の政治に対抗する勢力として、欧州への国際社会の期待は強い。
しかしセウタ騒動は、欧州も反グローバリズムの逆風に足下をすくわれつつあり、安全保障では一枚岩になれても、移民問題で結束して解決にあたることはもはや不可能であることを白日の下にさらしたといえる。
好機とみるのが米国だろう。トランプ大統領はセウタを「大惨事」「侵略」と呼び、欧州の極右に秋波を送った。バンス副大統領が昨年のミュンヘン安保会議で「欧州の真の危機は米と共有する価値観から離れていく内部にある」と非難したことも記憶に新しい。
移民危機をあおることで、キリスト教白人文明最優先の世界が地歩固めされていくのか。多様な価値観の共存というEUの基本理念が生き残るのか。
グローバル化の行き過ぎへの反動がまさしく今、欧米の社会を揺るがしているのである。
セウタ問題には、スペインのサンチェス左派政権が高齢化による労働力不足を補うため、移民に寛容な姿勢を示していることが背景にあったとされている。人口減で外国人労働者に一定程度頼らざるを得ない日本の未来にとっても、欧州の苦悩は人ごとではない。
高旗 良(外交評論家)






