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防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<57> ウクライナ軍のドローン戦 3層を一体化した運用と技術

2 日前
読了時間: 4分
今月の講師 川村幸城氏
今月の講師 川村幸城氏

防衛研究所 先進領域研究部 宇宙安全保障研究室 主任研究官


慶應義塾大学を卒業し、陸上自衛隊に入隊(現在1陸佐)。職種はシステム通信科。防衛大学校総合安全保障研究科を修了し、博士号(安全保障学)を取得。

研究対象は「新領域と新興技術が軍事作戦に及ぼす影響」。

主な訳書:デルモンテ『AI・兵器・戦争の未来』(東洋経済新報社)、デーヴィス『陰の戦争――アメリカ・ロシア・中国のサイバー戦略』(中央公論新社)、ジャスパー『ロシア・サイバー侵略――その傾向と対策』(作品社)、ジョンソン『ヒトは軍用AIを使いこなせるか――新たな米中覇権戦争』(並木書房)、サレンダー『検証空母戦――日米英海軍の空母運用構想の発展と戦闘記録』(中央公論新社)、ヘルバーグ『サイバー覇権戦争――ソフトとハード、二つの戦線』(作品社)。


今年に入り、ウクライナ東部でのロシア地上部隊の攻勢が停滞している。その要因の一つが、ウクライナ軍による短距離、中距離、長距離の3層を一体化したドローン運用だ。


中距離攻撃(前線から25~200km)

昨年末以来、ウクライナ軍は国産の≪FP―2≫≪Dart≫、米国製の≪Hornet≫といった中距離ドローンによる中距離攻撃(ミドル・ストライク)を実施している。

主な攻撃目標は前線から25~200km後方にあるロシア軍の防空システムや電子戦装備、兵站基地、補給ルートだ。2026年5月からは「ロジスティックス・ロックアウト(兵站遮断)」作戦と公式に呼ばれている。

この攻撃によりロシアの前線部隊への補給が滞るだけでなく、ロシア側は後方の補給拠点を守るために防空・電子戦装備を前線から後方へと引き揚げざるを得なくなっている。それに対し、ウクライナ側は中距離地帯に展開するロシアの防空網を手薄にすることで、長距離ドローンが安全に通過できる「空中回廊」を切り開いている。


長距離攻撃(国境から200~1000km以上)

ロシア領内に対する長距離ドローン攻撃は、昨年までは比較的小規模かつ散発的に行われていた。しかし今では≪Liutyi≫や≪FP―1≫などの固定翼タイプの長距離ドローンが数百機単位の編隊で、連日のようにロシア本土の石油精製施設などを襲撃している。

それを可能にしているのがAI(人工知能)プラットフォーム「プリズマ(PRISMA)」だ。

このシステムは、衛星画像、ドローン映像、防空レーダーの電波パターン、過去の友軍機の撃墜地点など膨大なデータを一元的に解析し、ロシア軍の防空網の隙間(レーダーの死角)をリアルタイムで表示する。

これにより最も生還率・到達率の高いルートを算出し、同時多角的な攻撃プランが自動生成される。

GNSS衛星(全球測位衛星システム)からの位置情報を受信できない環境でも、地表の画像データと事前にメモリに読み込んでおいた地図データを照合しながら推定飛行できる自律航法システムもドローン編隊の運用を支えている。

こうした技術が本土に配備されたロシア軍の電子戦や防空能力からの被害を局限し、ドローン攻撃の命中精度を高めている。一説ではロシア側が3~5%であるのに対し、ウクライナ側は10~12%の命中率だという。


短距離攻撃(前線から25km)

上述した中・長距離攻撃の基盤技術は短距離ドローンの戦闘により培われてきた。とりわけ戦争初期に苦しめられたロシア軍の強力な電波妨害を克服するため、ウクライナ軍はマシンヴィジョンを搭載したエッジAIドローンを開発し、目標に至る終末段階での自律誘導攻撃を実現している(命中率が平均30~50%から約80%へと向上)。

またスターリンクやLTE回線を利用したデータリンクによる自律航法技術もロシアの電波妨害を回避する技術として実用化され、最近の中・長距離攻撃の成功を支えている。


3層一体化の相乗効果

本国での被害が拡大し、ロシア側はいがや上にも作戦地域から貴重な防空アセットや電子戦装備を本土防空に割かざるを得ない。

しかし、せっかく再配置した防空アセットも「プリズマ」による自律管制誘導や、エッジAIを搭載したドローンによる終末誘導攻撃により、その効果は相殺されているようだ。また中距離攻撃はロシア軍後方地域の防空網に風穴を開け、これまで小型ドローンの射程外にあった弾薬・燃料貯蔵庫、補給車列を攻撃することが容易になっている。

このように前線の戦闘部隊と兵站施設との「距離を広げる」ことで、ロシア地上軍の攻撃の勢いを削いでいる。

こうした3層を組み合わせた攻撃は戦域をつなぐ統合的なドローン運用の一つの到達点であり、戦術・作戦・戦略の各レベルで相乗効果を生み出している。


(2026年9月17日付「朝雲」)


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