防研セミナー 時代を読み解く シリーズ<55> DICASの安全保障上の含意
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更新日:13 時間前

防衛研究所 政策研究部 グローバル安全保障研究室 室長
1996年千葉大学卒、2003年東京大学大学院博士課程中退(経済学修士)。同年防衛研究所に入所。主任研究官、社会・経済研究室長を経て2026年より現職。その間、防衛省防衛政策局防衛政策課、内閣官房副長官補付に出向、豪国防大学、英国シェフィールド大学東アジア研究科に留学(東アジア修士)。専門は防衛産業の国際政治経済、経済と安全保障、東南アジアの軍近代化等。
2026年4月、青柳防衛装備庁長官とダフィー米国戦争次官は米国内で第4回「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)」を開催した。両国は取り組みが具体的な実行段階に移ったとして同協議を「DICAS2・0」と位置付け、関係が新たなフェーズを迎えたことを印象付けた。本稿ではこのうち迎撃ミサイルと艦船維持整備に焦点を当て、その国際的な背景と含意について解説する。
迎撃ミサイル
長距離打撃能力が世界的に拡散する中、米国製迎撃ミサイルへの国際的な需要は急増している。ウクライナ支援や中東配備部隊での使用、湾岸諸国への緊急売却が重なり、西側諸国への納入に遅延が生じるリスクが報じられており、米国は調達拡大を急いでいる。米主要メーカーとの間ではすでに、複数年にわたる調達について「枠組み合意」が締結され備蓄増強に向けた生産拡大に乗り出しており、これに伴いサプライヤーの生産能力の強化も進められている。
今回の協議では、日米が共同開発した迎撃ミサイル「SM―3ブロックⅡA」の生産量を約4倍に引き上げる具体的方策が確認され、「PAC―3能力向上型(MSE)」についても、将来の共同生産を念頭に、生産効率化に資する具体的方策に係る検討を加速させることで一致した。
同盟国を通じた供給体制の強化は、各国の調達の柔軟性を高めるだけでなく、米国にとっても投資負担の分散と増産スピードの向上につながる。
艦船維持整備
米軍装備の維持整備における日本の役割も拡大している。今回の協議では航空機エンジンの他に米海軍艦船に対する協力が引き続き議論され、2025年12月に米本土を母港とする米海軍艦船の日本企業による初めての修理が舞鶴市で実施されたことが言及された。
米国内では海軍工廠の近代化と造船基盤の強化に向けた設備投資が進んでいる。しかし、米国政府説明責任局(GAO)が2026年2月に公表した報告書では、状況に改善は見られるものの依然として建造スケジュールとコストは目標を下回っており、民需向け造修ドックについては、乾ドックの空き容量や労働力の制約から緊急修理を含む計画外作業への対応に限界があると指摘された。
また同年5月に公表された米海軍造船計画は「トランプ級戦闘艦」構想を打ち出す一方、国内の造修能力不足を補う策として、外資の誘致に加えて機密性の低いモジュールの国外製造にも言及した。現在のところ「バーンズ=トゥレフソン修正条項」により米海軍艦船の海外での建造は原則禁止とされ、次年度予算の審議過程でも議会の反発は根強いが、中国の急速な海軍力増強への対抗策として同盟国を活用すべきとの声も聴かれる。
上院軍事委員会の公聴会でコードル海軍作戦部長は「複雑な問題であり綿密な検討が必要」としながらも、海軍には「艦船が必要」であり、建造手法等に新たな工夫が無ければ既存の産業基盤では需要に対応できないと述べた。
日本の維持整備基盤は、太平洋を渡る時間的ロスを省くことでインド太平洋地域に展開する米軍の即応性を支え、米本土の乾ドック余力の確保にも貢献できる。その意味で米海軍の艦隊整備計画を下支えする潜在的な基盤としてもその価値は増している。
日米間の防衛産業協力の意義は日本の産業基盤への機会の拡大にとどまらない。国際環境が厳しさを増すなか、グローバルな供給体制の強化や前方展開部隊の態勢維持等を通じて安全保障そのものを支える役割を担うものであり、その重要性は今後さらに高まるだろう。
(2026年7月30日付「朝雲」)












