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時の焦点<海外> 米のイラン攻撃

  • 4月2日
  • 読了時間: 3分

更新日:5月13日


「死に体」のNATO


「イランの軍事施設を破壊した」と強調するトランプ米大統領だが、破壊したのはそれだけではない。戦後の自由世界を支えてきた北大西洋条約機構(NATO)もまたトランプ氏によって破壊され、いまや「死に体」の感すらある。


根回しもなく始めたイラン攻撃に非協力的なNATOにいら立つトランプ氏は、米国抜きのNATOは「張り子の虎」だ、と皮肉った。「張り子の虎」とは、トランプ氏がロシアやイランに対して使ってきた侮蔑の言葉だ。


侮蔑といえば、アフガニスタンにともに派兵したNATO同盟国を「彼らは前方から少し離れたところにいた」と揶揄(やゆ)する発言もあった。現実にはアフガンで英国は457人、フランスは90人以上、ドイツも59人の戦死者を出している。


米国に加担を迫るトランプ氏に対し、同盟国としての犠牲をこけにされた欧州側が「これは我々の戦争ではない」(メルツ独首相)と一線を引くのは当然だろう。


イラン情勢で小休止となった感のあるグリーンランド領有問題でも、デンマークが米国の軍事侵攻に備えて自ら滑走路爆破を計画していたと報じられるなど、NATOにはもはや、利益や敵を共有する抑止同盟としての一体感はない。


1月末のデンマークの世論調査では米国を「敵対国」と考える人が約60%にも上り、「同盟国」との答えは17%に過ぎなかった。同盟の前提となる国民の相互信頼が失われているのだ。

同盟関係には、「予測期待値」という欠かせない要素もある。


冷戦後の日米安保再定義に尽力した故・梶山静六元官房長官はかつて、同盟とは相手の言動が予測でき、それがこちらの望んだ通りになるという確信のある関係のことだ、と口にしていた。草の根の相互信頼も予測期待値もなくなった時、同盟は漂流を始める。


19世紀の英国首相パーマストンは「永遠の同盟や敵はない。あるのは永遠の国益だ」という言葉を残している。メルツ首相が、欧州は「重要な関心事によって結びつく関係」を模索すると語るように、米国が国際公共財の提供役を降りたこれからの世界では米国を孤立させないようにしながら、問題ごとに多極的な同盟を築く努力が問われよう。ワルシャワ条約機構が消滅し、NATOも瀕死(ひんし)の床にあるとするなら、冷戦構造はいまやっと過去の遺物となったのかもしれない。


第2次大戦後、米国を安全保障の柱として「招き入れた」欧州の苦悩は計り知れない。それでも欧州には自由と人権、法の支配など共通の価値を土台にした民主主義国家のネットワークがあり、軍事面では英仏の核保有国が存在する。


安全保障で欧州以上に米国を必要とする日本や韓国などアジア諸国は果たして、米国との同盟をどう再構築するのか。イラン攻撃が突きつける重い課題である。


高旗 良(外交評論家)


(2026年4月2日付『朝雲』より)


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