朝雲寸言(2026年9月3日付)
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読書の秋。本は時として驚くべき世界観を教えてくれる。
「うつほ(宇津保)物語」と言っても、知る人はそう多くない。せいぜい「『源氏物語』に先行する物語」と認識されて、ほとんど素通りされてしまう。
ペルシャで習得した七弦琴の秘技を継承する一族が、その神秘的な音色を武器に苦難を乗り越え、栄光をつかむ音楽物語なのだ。京都で心の闇を深める「源氏」の感触とは異なり、国際色豊かでダイナミックである。
隋や唐の都は、シルクロードの一方の終点といわれた。遣隋使、遣唐使が盛んだった飛鳥・奈良時代の日本には西域・大陸文化が流入した。正倉院には、ササン朝ペルシャが起源とされるガラス器や楽器が保管されている。
奈良時代の「続日本紀」には736年に「波斯人(ペルシャ人)」が来朝した記録がある。ササン朝ペルシャ滅亡後に唐に移り住んだとみられる李(り)密翳(みつえい)という人物だ。
遣唐使の廃止によって国風文化が発酵していく。その申し子が「源氏」だとすれば、「うつほ」は西域文化の残り香が浸潤したプレ国風文化の賜物(たまもの)なのである。
考えてみれば、やはり「源氏」に先立つ「竹取物語」も「かぐや姫」という子供向けの昔話として何げなく読み過ごしているが、これも国際感覚に満ち、何よりも発想はSFファンタジーなのだ。
秋の夜、はるか千年以上前の日本の物語に刻印された、めくるめく想像力に寄り添ってみるのも悪くあるまい。
(2026年9月3日付『朝雲』より)






