朝雲寸言(2026年1月8日付)
- 1月8日
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更新日:5月13日

新春の花の話である。京都・北野天満宮では、まず今月、蝋梅(ろうばい)が見ごろを迎える。花は淡黄色、ロウ細工風の透明感がある。濃密な芳香が特長だ。続いて寒空に凜乎(りんこ)とした紅白梅が咲きそろい、天満宮は3月下旬ごろまで馥郁(ふくいく)たる香りに包まれる。
折しも受験シーズンでもある。北野天満宮は、学問の神様・菅原道真公(天神様)を祀る天神信仰の総本社。合格祈願の絵馬が多数奉納されるだろう。東京・湯島天満宮でも同様の光景が広がる。湯島もまた梅の名所である。梅と道真は切っても切れない。
「東風(こち)吹かば 匂ひおこせよ梅の花 主(あるじ)なしとて春な忘れそ」。よく知られた菅原道真の歌である。左大臣藤原時平の讒言(ざんげん)で右大臣の座を追われ、九州・大宰府に左遷された後、詠んだとされる。
学問と政治に長けた道真は、時平にはさぞかし脅威だったに違いない。政治はしばしば学問を排除するものだ。
人形浄瑠璃文楽や歌舞伎でも採り上げられ、名作「菅原伝授手習鑑」に結実。道真(芝居では菅丞相)の政治的敗北の懊悩(おうのう)をよく描きだしている。それにしても、この歌は、うっとりする薫香の中に悲嘆の吐息が混じっているようで、哀しく美しい。
さて、道真を排斥した藤原氏はその後、絶頂期を迎える。御堂関白・藤原道長である。政治的勝者は大いに詠みあげた。「この世をば 我が世とぞ思ふ望月の 欠けたることも無しと思へば」。
うらやましいが、哀切な美が少々欠けていないか。
(2026年1月8日付『朝雲』より)







