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防衛関連ニュース

「ハマスとイスラエルの交戦~パレスチナ国家樹立交渉の長期停滞~ 
防衛研究所地域研究部アジア・アフリカ研究室主任研究官 西野正巳氏(寄稿)

2023年11月17日更新


「数千人のガザの人々がガザ地区の北部から南部まで安全に移動できるよう、イスラエル軍は4日連続で人道回廊を開設した」と伝える11月8日のイスラエル外務省のX(旧ツイッター)の動画より。同省は「我々は引き続き、罪のない命を守るためにあらゆる措置を講じていく」とコメントしている。


イスラエルでコーヘン外相と会談し、ヘルツォグ大統領を表敬した後、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラを訪れ、自治政府のマリキ外務・移民庁長官(右から2人目)と会談する上川陽子外相(左から3人目)=11月3日、日本の外務省のXより

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスによる突然のイスラエルへの大規模攻撃から1カ月。イスラエル側もハマスに対して報復攻撃を続けており、イスラエルとガザ地区双方の死者は1万人を超えた。イスラエル、ハマス、そしてファタハが主導するヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治政府――。そこには国家、民族、組織、イデオロギーを異にする3者が複雑に絡み合う世界が広がっている。中東地域研究の第一人者である防衛研究所地域研究部アジア・アフリカ研究室の西野正巳主任研究官が緊急寄稿し、イスラエル・パレスチナ問題の本質を鋭く突きながら、3者の思惑と今後の展望を鮮明に読み解いていく。(個人の見解であり、所属組織の見解を代表するものではありません)

「第4次中東戦争」以来の犠牲者を出したイスラエル

 今年10月7日、パレスチナ自治区・ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスの軍事部門カッサーム部隊の戦闘員多数が、境界線を越えてイスラエル南部に侵入して、イスラエル人や外国人千人以上を殺害し、約200人を人質としてガザ地区へ拉致した。

 ハマスはこの大規模テロを起点とするイスラエルとの戦いを、「アクサーの氾濫」作戦と名付けた。

 イスラエルで自国民にこれほど多数の死者が出たのは1973年の第4次中東戦争以来である。イスラエル軍は即日、反撃のため「鉄の剣」作戦を開始し、ガザ地区への空爆と砲撃を始めた。さらに、予備役36万人を招集し、10月下旬には一部の地上部隊がガザ地区に入った。その後、地上部隊はガザ市に向けて進軍しているとみられる。

 イスラエルは世界でほぼ唯一の男女徴兵制の国で・・・

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